./Round.07
夢を見ていた。
これは夢だという確信だけがある。
内容は支離滅裂で、封印されていた記憶がごちゃごちゃにかき混ぜられているようだった。
<あなたは選ばれた...>
<わたしは...リンディ...>
<わたしは選ばれた>
<誇りに思う>
手術、経過観察、検査、病院、施設の先生、女の子、友達。
いなくなった両親。捨てられた。
いなくなった子供達。捨てられた。
思い出さなくていいこと。
体をスキャンされているときを思い出した。
MRIの駆動音が銃撃戦のようにうるさかった。
熱にうなされているようだった。
そして手術が終わった。あとは訓練、訓練、訓練、訓練...
痛み、痛み、痛み...評価、評価、歓声、罵声、評価、評価...
…さい...るさい...うるさい...!!
夢の中でそう叫んで目が覚めた。
喉がカラカラに乾き、寝汗が身体中を覆っている。
身体中が不快感の塊のようだ。
自分が悪夢から目覚めたことを自覚して、呼吸を整えた。
戸棚から薬を取り出し、数錠飲んで眠りについた。
その夜はもう、悪夢は見なかった。しかし、心地いい眠りでもなかった。
…
「あんたが記憶を取り戻すには、少し時間がかかる予定だ」
キリカが赤い錠剤を飲み込み、リンディ・ルーテニアという女の殺害の依頼を(仮とはいえ)受けた駐車場がある廃モール。
その廃モールこそが、ロウの活動拠点だった。いきなり自身の拠点に第三者を呼び出すとは、なんとも不用心なやつだとキリカは思った。
しかし、こうした拠点を国内にいくつか作っており、もしここを放棄したとしても問題がないらしい。人間臭くおちゃらけたやつの割に、やはりアンドロイドなのかその辺の手際は良いようだ。
いま2人は3階にあるテナントの一角、居住用のスペースに改造されたエリアで話していた。暗く薄気味の悪い他のフロアと違い、この階にだけは電気が通っている。
部屋の中には机や椅子、PCやモニターに加え、仮想現実へのフルダイブ装置「コクーン」もある。モールの廊下と面しており開放感があるが、普段はシャッターを閉めているそうだ。
「早くて2週間。遅くて1ヶ月。一気に記憶を戻すと混乱が生じるし、最悪脳が焼き切れるからな。ま、辛抱強くいてくれ」
ロウはコーヒーを差し出しながら告げた。部屋の手前側に置かれた椅子に腰掛けたキリカは、黙ってそのコーヒーを飲む。
「わたしの記憶が戻り次第、リンディ・ルーテニアとかいう女を殺しに行くのよね」
「あぁ、そうだ。もし殺しがダメなら、誘拐でもいい。殺すのは、俺がやろう」
自分の分のコーヒーを淹れながら、ロウは静かに告げた。
その声からは感情が読み取れないが、覚悟の強さだけは理解できる。
「ディンベルグ社の人間なら、どうせ海上特区にいるんでしょ。あそこのセキュリティは並大抵のものじゃない。お得意のハッキングでも難しいんじゃない?」
「そう。超・天才アンドロイドの俺のスキルをもってしても時間がかかる」
「不可能と言わないあたりプライド高いわね、あなた」
「あぁ、よく言われるよ」
そう笑いながら、ロウは自分のコーヒーを持ってキリカの正面に座る。
2人は机を挟んで向かい合う形になった。
「リンディを殺す殺さないかは別として、実際問題どうやって海上特区に潜入するの?わたしはすでに追われる身のようだけど」
「古来より人間は手を取り合って生きるものだろ?」
「仲間がいるのね。そのコクーンの中にいる人かしら?」
ロウはニヤリと笑い、出てこいと声を上げた。
部屋の奥に置かれていたコクーンの蓋が開き、中から少年が出てきた。
18歳のキリカよりもさらに幼く見える。
それに人見知りのようで、あまりこちらに目を合わせないようにしている。
「こいつは板野ケンジ。人間の協力者で年は14歳。俺の弟子でもある。ほらケンジ、挨拶しろ」
「うるせぇ...命令すんな」
「とまぁ、可愛いお姉ちゃんを前にして緊張しちゃう、かわいい男の子さ」
「よろしく、ケンジくん」
「...っす」
パーカーにスウェット地のズボンをはき、ニット帽を被るケンジはよくいるオタク風の少年のようだ。そんな彼がどうしてロウのようなアンドロイドに協力しているのだろうか。
「ケンジは廃墟マニアなんだ。都市管理計画から外れた、誰も知らない廃墟が好きなんだよ。ユグドラシルの根も知らない、捨てられた建物や道なんかを知り尽くしている」
「このモールもケンジくんが見つけたの?」
「...はい」
「すごいのね」
そう言うとケンジは面白いように照れて赤くなった。
ロウもここぞとばかりに、「天下の
「ま、幸い時間には余裕がある。今後のことは明日にでもまた話をしよう」
「そうね。色々あって私も疲れたわ」
今日は切り裂きジギーとの試合から、ほとんど休む間も無く動いてきた。
いくらエインヘリアルでサバイバル慣れしてるとはいえ、突然の事件の連続に疲労感を覚えるのも無理はなかった。
「しばらくはこのモールで暮らしてもらう。あんたの部屋は2階に作ったから、今から案内しよう」
アンドロイドとはいえ、ハンサムな男性型の俺だからな。
レディへの気遣いとしてフロアは分けたんだぜ、とロウは付け加えて言った。
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