第1章 泥だらけのエスケーパー(続 part3)

 ハルカは足を引き摺りながら、俺の後に続いた。

 そこに現れたのは紛れもなく鳥類図鑑で見た極楽鳥だった。

 「でかっ!」

 俺は思わず唸った。

 極楽鳥はスズメの仲間で小鳥の筈だが、この鳥は馬鹿デカい!

 デカ過ぎる!

 恐竜の始祖鳥だって体長は1mだというのに、こいつの体長は優に2mを超える。

 俺はてっきり極楽鳥は単なるメッセンジャーで、他の何かがブツを運んでくるものと思っていたら、もしかしたらコイツが直接運んで来るのかも知れない。

 何故なら、この極楽鳥は既に大きな袋を嘴に携えていたからだ。

 ハルカの方も言葉もなく、ただ茫然と立ち尽くしていた。

 「オヌシら、ワシが必要か?必要ないならもう行くゾ。ワシは忙しいのだ!」

 鳥が喋った!!!

 「あっ、待って、鳥さん!」

 「何ダ?」

 極楽鳥は、カーニバルを思わせるカラフルな身体には似合わないドスが効いた声で俺たちに問った。

 ハルカが盛んに顎をしゃくって、俺に物資を注文しろとサインを送っている。  

 俺だって何を注文すれば良いか考えていなかったし、第一、交換レートも分からない。

 ええい、ままよ!

 俺は、俺とハルカが持っていた石と花を袋から出すと、地面に巻き散らした。

 「この花全部を水と食料に交換してくれ!」

 「分かった。だがここの掟で、食料品だけは何がどれだけ届くはワシが持っている秘密のルーレットで決まる。文句は言わせないゾ」

 「えーっ!嘘!」

 ハルカは明らかに不満そうだった。

 「後は、銀色の石全部で寝袋をひとつ。箱に入った救急用品が1セット、女性用の足首サポーターが1個、タオルと洗面用品が2セット、それから男性と女性用の本格的なサバイバル衣装と替えの下着上下とハイソックスが各1式づつ」

 「待て!それだけ買うには銀色の石だけでは足りないゾ。金色の石2個も渡せ!明日の早朝には運んで来てヤル」

 「分かった!その時、またお前から物資を買えるのか?」

 「朝は届けるだけダ!」

 「じゃあ、次回はいつ買える?」

 「ワシが空からオヌシらを見つけて、ワシの機嫌が良い時だ!」

 「そんな!」

 ハルカは又しても不満そうに言った。

 「もう時間ダ!ワシは行くゾ!」

 極楽鳥は、両方の羽根で器用に花や石を咥えていた袋に詰めた。

 「毎度ありー!これがお釣りダ。それから今回のお買い上げでオヌシらは150ポイントを得たから、安物のワインが2本、安物の煙草が2箱、安物の粉末コーヒー豆が2袋サービスされます。尚、こうした嗜好品はポイントでしか手に入らないから大切に使えヨ!」

 「何だ、全部安物かよ!」

 「サービス品に贅沢を言うな」

 そう言うろと極楽鳥は大空に舞い上がると西に向かって飛び去った。

 極楽鳥は、スズメ目のフウチョウ(風鳥)化の鳥類で、羽ばたきで空を飛ぶ筈だが、風鳥の名前通り滑空で空を飛んでいた。

 「アイツは自分の事をワシと呼んでいたから、案外、鷲科の極楽鳥かも知れないな」

 「ふふふ、そうかも。でもそれは日本人にしか理解出来ないでしょうけど」

 ハルカは俺に片目を瞑ってみせた。

 極楽鳥が飛び去った後には、お釣りの銀の石3個が残されていた。

 金の石は案外、価値が高かったみたいだな。

 手元に残った交換用物資は、金の石と銀の石がそれぞれ3個になった。

 これは交換物資が見つからない時の為に、いつも手元に残しておこう。

 俺はそう心に決めた。


 「さあ、テントに戻ろうか。明日の朝、本当に極楽鳥がブツを運んで来たら、このゲームで勝利を掴む事を願ってワインで乾杯しよう!」

 まあ、安物でもワインと珈琲は有難いと俺は思った。

 「素敵!それからわたし達の出会いも祝って」

 「そうだな」

 俺たちはテントに戻った。

 テントに着くと、

 「ありがとう、ジュンイチ。わたしの分まで注文してくれて」

 ハルカが小さな声で俺にお礼を言った。

 「ヤだなぁ。当然だろ?金目の物の多くはハルカが拾った物ばかりだったし」

 ハルカはにっこりと笑顔になった。

 「今回は急な事だったので俺の一存で決めてしまったが、次回は二人で相談して決めよう」

 俺の提案にハルカのにっこりは、にっこり度を更に増した。 


 「ねえ、ジュンイチは何をしてるの?」

 ハルカは不思議そうな顔で俺を見つめた。

 俺はこのリヤカーに何か仕掛けがないか車体を隅々まで調べていた。

 「おっ、鍵だ!」

 俺はリヤカーの底部中央の窪みに刺されていた鍵を発見した。

 その鍵を右に回すと車輪にロックが掛った。

 それから、荷台の幌とテントにも鍵が付いていた事を思い出して、その鍵を使用したらどちらも施錠する事ができた。

 盗難防止の為の、最低限のセキュリティシステムといったところだ。

 「あ~あ、わたしも早くこの鍵に気が付いていれば、リヤカーを盗まれずに済んだのに」

 「仕方がないよ。洞窟は真っ暗だったし、夜の間に盗まれたんだから。余り気を落とすな!これから必要な物を買う事も出来るんだし」

 「あたし、貴方に出会えて本当に幸運だった」

 俺は、ハルカの言葉を背中で聞きながら、更にリヤカーの細部を調べていた。

 原動機のような物がないか期待していたが、流石にそうした物は見当たらなかった。

 何しろ明日からは荷台にハルカを乗せてリヤカーを引かなければならないから、自動でリヤカーが動けば楽だと期待したのだが。

 外の空は、更に黒い雲に覆われて、今にも雨が降りそうだった。

 「燃料は貴重品なので、今のうちに俺は薪の代わりになりそうな物を拾ってくるから、ハルカはこの寝袋を使って暫く休んでおいてくれ。夜に成ったら食事にしよう」

 「分かったわ」

 「それから、俺が外に出たら、中からテントの鍵をかける事!」

 ハルカは頷いた。

 「ジュンイチ、気を付けてね」

 「大丈夫だ、心配するな!」

 俺は「グロッグ17」と「ワルサー社製の折り畳み式ナイフ」をベルトのホルダーにしっかりと差し込んだ。

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エレノアが見た夢 瑠璃光院 秀和 @rurikouin

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