第一章 泥だらけのエスケーパー(続 part2)
そこには一面、可愛らしい花々が咲き誇っていたがその中央に金色に光る大きな花を見つけたからだ。
「これも極楽鳥との取引物なのか?」
俺はその名前も知らない金色の花を、7本全部摘み取った。
だが、本当に極楽鳥がこれを受け取りにくるのか?
俺は荷車を置いている場所に戻って、銀色の石と一緒の袋にその花を仕舞った。
「きゃーっ!」
その時、遠くの方で悲鳴のような声が聞こえた。
俺は慌てて、その声がする方向に駆け出した。
そこには、長髪の若い東洋人の女が仰向けに倒れていた。
「大丈夫か?」
どうやら、小山の崖から滑り落ちたように見えた。
「いててて!」
その女は顔をしかめたが、俺はそれには構わずに彼女の上半身を起こした。
「ちゃんと立てるか?」
俺の言葉にその女は立ち上がろうと試みたが、痛みで上手には立てなかった。
「なぜ滑り落ちたりしたのだ?」
「そこの丘の上から池らしい地形が見えたの。それで、もっと良く確認しようとして身を乗り出したら足が滑っちゃった!」
「そうだったか」
その女は色違いだったが、俺と似たような衣服を着ていた。
「君も昨晩、何者かの手によってこの世界に送り込まれてきたのか?」
女はこくりと頷いた。
俺は女の足首や膝をあれこれ調べて、俺は軽度の捻挫だと診断した。
バックパックを背負っていたから、頭部を打ち付ける事は免れたようだ。
更に腰の毛布を巻いていたから、腰を強打する事もなかった筈だ。
不幸中の幸いと言うべきか?
「君の足は捻挫しているようだ!取り敢えず、君の荷車まで俺が君を背負って行くから、バックパックはそこに置いてくれ!重いし!後で俺が取りに来てあげるから」
「それが、朝起きたら誰かにわたしのリヤカーは盗まれていたの!」
「えっ?」
予想はしていたが、この世界にかなりの数の人間が送り込まれているらしい。
俺達より前に来ていて、物資が無くなったので生き残る為に盗みを働いたのかも知れない。
これは俺も気を付けなくてはいけないな。
「あ~あ、わたしに竜巻を起こせる力が有ったら捻挫なんかしなかったのになあ」
女が呟いた。
「気持ちは分からない訳ではないが、今は生き残って出口を見つける事が先だ!」
「貴方、わたしを連れていってくれるの?」
「仕方ないだろう。君をこのまま放っておく訳にもいかないし。兎に角、おれのテントで休息しよう」
「ありがとう、恩に切るわ。わたしの名前はハルカ!遥・オブライエン・緑川よ。日本人だけど祖父はアイスランドの出身なの」
女が名乗った。
「そうか、ハルカか。俺はジュンイチだ。潤一・姉小路・紅澤!名前の通り純粋な日本人だ」
「そう、貴方の名前はジュンイチ」
明るい場所で良く見ると、ハルカは鼻筋が通った美形の女性だった。
多分、年齢は20歳前後だろう。
また、体つきもスタイリッシュでサンミッシェルシティではモデル業を政府から指定されているかも知れないと俺は思った。
ハルカは自分の荷車を盗まれた事がショックだったようで、自分のバックパックを外そうとはしなかった。
それはそうだ。
サバイバル用品なしで、この先、どうやって生き残れば良いか途方に暮れていた筈だ
ハルカに俺のバックパックも持って貰い、俺はハルカを背負ってキャンプする場所まで戻った。
俺は軍隊で身体は鍛えていたのだが、ハルナと2つのバックパックは結構重くて、テントに着いた頃には息が上がっていた。
「ふーっ!身体が冷えただろう?」
俺はパンプキンスープと水を温めると、それぞれマグカップに注いでハルカに勧めた。
「まさか盗まれるとは思っていなかったので、ミネラルウォーターも1本だけリュックに入れて、後は荷台に積んでいたから、もう水も残り僅かになっていたの」
それで水を求めて彷徨い、池は見つかったが覗き込み過ぎて崖から転落したと言う訳か?
しかし、水もなく毛布も腰に巻いていた割にはヤケに重かったな。
「ハルカ、これからは二人で共同生活だ。君のバックパック、中身を見せてもらっても良いかな?」
「いいわよ、どうぞ」
俺はハルカのバックパックを見て驚いた。
ミネラルウォーターをホールドする全てのポケットには金色の石が詰まっており、バックパックの中にも銀色の石が7個も入っていた。
道理で重たい筈だ!
「君は意外に金持ちだったんだね?」
「ええ、でもそれは本当に鳥が来てくれたらの話だけど」
ハルカは俺の方を見てニッと笑った。
綺麗な歯並びと愛くるしい笑顔が見れた。
サンミッシェルでは、きっと言い寄る男性が多かったに違いがない。
その時、遠くで大きな羽ばたきの音とキーッという鳴き声が聞こえた。
「ジュンイチ、極楽鳥かも知れないわ」
「そうだな。ハルカ、自分の石をこの袋に詰めてくれ!極楽が出るか地獄が出るか、お姿拝見と洒落込もうか」
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