第1章 泥だらけのエスケーパー(続)

 暫くして、俺は荷車を引き摺りながら洞窟の外に出た。

 「此処は一体?」

 俺は驚きを隠せなかった。

 高々と茂った樹木たちが溢れる大森林が行く手を遮っていたからだ。

 空が曇っている事にも驚いた。

 2年前に起こった、人類史上最悪の惨事、ファイナルウォーを生き残った地球人類は、現在、全員がサンミッシェルの巨大地下シェルターで生活している。

 地上で人類が生息可能な場所は、サンミッシェルの巨大ドームの中だけの筈だ。

 その巨大ドームは、将来に於いて人類が月と火星に移住出来るかを調査する為、試験的にキャンプで生活していた人々がファイナルウォー後に地球に戻って建設した物だ。

 地下シェルターに備蓄されている莫大な食料もやがて枯渇する為、ドームの中で放射能に汚染されていない野菜や穀物の栽培が行われ始めている。

 また樹木も、大気の清浄化や生物の多様性を促進させる目的で植林されいるが、漸く苗木に育った段階でそれが森林を形成するまでに何年の月日を要するか見当もつかない。

 ドーム内の植物に水分を与える為にドローン機が水滴を落とす事は良く見かけるし、大量の水蒸気を放出させる事も有るが、とても天井全体が曇り空に成るような量では無い。

 それらの事を総合して考えると、この地は少なく共地球人類が創造した森林で有り得ない!

 それでは此処は一体何処なのか?

 その謎を解く幾つかの鍵は可能性として俺の脳裏を過ったが、兎に角、出口を発見してこの居心地が悪い世界から脱出する事の方が先決だ。

 俺はそう決めて歩みを始めた。

 

 洞窟の先には、荷車が一台やっと通れる位の細い道が森林の中心部と思われる方向に続いていた。

 その方向をコンパスで確かめると北の方角だった。

 小道は、風の通り道になっているらしく少し肌寒かった。

 驚く事に、その小道にはウッドチップが敷き詰められており足への負担は感じなかった。

 俺はンパーのフードで頭部を覆った。

 時折、小鳥のさえずりが聞こえ大型の鳥が空を舞った。

 ここまでの道のりでは動物の類を見る事はなかったが、昆虫やトカゲに似た爬虫類は何種類かを目撃した。

 そして結局、結局、5時間は歩き続けただろうか?

 その小道の先に平らに開けた場所が見えて、そこは十次路になっていた。

 さてさて、どちらの方角に進めば良いのか?

 俺は疲労を感じていたし、喉の渇きや空腹感も覚えていた。

 それに、テントや備品の状態を確かめる必要も有ったから、まだ陽は落ちていなかったが今日はこの場所でキャンプを張る事にした。

 テントの形状は四方形だったがかなり小さめで、3人も一緒に横になれば肩が触れ合う事だろう。

 俺はテントを張り終えると、テント以外のキャンプ用品が入っていた「ツールコンテナ」を椅子代わりにして腰掛けた。

 LPガス取付口付きのステンレス製組み立て式グリル棚に点火して、マグカップの中の水と缶詰を熱した。

 燃料はLPガスを使えと言う事か?

 コンテナの中に、高さが60㎝ほどのガスカートリッジが3本入っていた。 

 カートリッジ1本で燃焼時間は20時間程度だろう

 これは、これから水や食料と並んで貴重品に成るな!

   

 ふと、道端の脇の小高い土手に目をやると、見慣れない草花が白、赤、紫色の花を咲かせていた。

 荷車が殺風景なので、俺は花を摘んで荷車を飾るべく鋏を片手に土手を土手を駆け上った。

 「おおっ!」

 俺は思わず声を上げてしまった。

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