第10話
二人で楽しく食事をして、一緒に片付けをした。二人ですると、面倒なはずの洗い物さえ楽しかった。
それで、前回マイが帰ったような時間になってしまった。
「そろそろ帰るでしょ? 送るよ」
エプロンを外したマイは、慎吾の言葉に首を横に振った。
「いい」
「えっ? でも夜道は危ないし――」
「今日、友達の家に泊まるって言ってきた」
「…………ん?」
マンガかドラマでしか聞いたことのないような台詞を言ったマイは、上目遣いで慎吾を見た。
「今日、泊まってって、いいでしょ?」
慎吾は軽くだが混乱して、すぐに返事ができなかった。
「いいわけ……ないよね?」
マイには、その返事は予想外だったようだった。
「どうして!?」
「えっ、だって……家に上げてるだけでも正直どうかと思うのに、泊めちゃうなんて」
慎吾は天井を見上げて、言葉を探したようだった。
「……間違いが起こったら困るでしょ」
それを聞いたマイは、不敵に微笑む。
「お兄ちゃんは、わたしと間違い、起こしそうなんだ?」
ちょっと嬉しそうにも見えるマイから、慎吾は目をそらす。
「そういう心配をしなさい、って言ってるの。そんな風に無防備だと、怖い目に合うよ」
「わたしは、お兄ちゃんだったら、いいよ」
マイの言葉に、慎吾は眉根を寄せて、彼女の顔をまじまじと見る。
そのマイは、恥ずかしげに頬を赤らめてはいたが、強気な笑みで、視線を真っ直ぐ見返していた。
「お兄ちゃんとだったら、いいよ」
聞こえなかったとでも思ったのだろうか、マイはもう一度言った。
慎吾は一瞬、固まってしまったが、なんとか苦笑顔を作った。
「そういう冗談は、良くない。相手が本気にしたら――」
「男のヒトの部屋でこういうことを言ったら、どうなるのかわかってる」
真顔になったマイは、続けた。
「そのつもりで来たの、わたし」
さすがにあっけにとられた慎吾だったが、我に返ると首を横に振った。
「ダメだよ、そんなの」
「どうして?」
「もっと自分を大事にしなきゃ」
「お兄ちゃんは、わたしとエッチしたくないの?」
「そういうんじゃなくて」
「わたしに魅力ない?」
「マイちゃんは可愛いよ」
「じゃあどうして?」
「だって……」
慎吾はまた、言葉を天井辺りに探しに行った。
「マイちゃんは――妹だから」
その言葉に、マイは憤慨したようだった。
「わたしと結婚したいって言ったのに!?」
「そっ、それは……話の流れというか、言葉の綾というか」
「ウソだったの?」
「いや! ……いいお嫁さんになれると思ったのは、本当だけど――本気にされるとは」
「わたし……ホントに嬉しかったのに」
慎吾の、申し訳無さそうな顔に、マイは視線を逸して、不満そうな顔をした。
「それって……わたしが“お兄ちゃん”なんて呼んでるから?」
「それだけじゃないよ……僕が、マイちゃんのことをそういうふうに思ってるってことで」
「本当の妹じゃないよ?」
「もちろん。でもマイちゃんは僕にとっては……守るべき相手で。だから、妹っていうのは、そう表現するのがちょうどいいって話で」
「妹だから、エッチする気にならない?」
「――その……」
慎吾は歯切れ悪く、目を泳がせた。
「妹だから、そういう気分になっちゃいけないと思ってた」
「わたしを……エッチな目で見れないってことじゃ、ないんだね」
慎吾は躊躇ったが、否定するのも彼女に悪かろうと思ったし、それは明らかに嘘なので、曖昧な感じにだったが頷いてしまう。
「だったら、そういう気分になっていいよ!!」
なぜか目を輝かせ、身を乗り出してくるマイから、慎吾は眩しそうに目をそらす。
「そういうわけにはいかない。マイちゃんは、まだ子供だ」
「そりゃあ、十コも歳、違うし、お兄ちゃんからしたら、まだ子供に見えるかもしれないけど……でも、身体はちゃんと大人なんだよ?」
そう言って、胸を強調するように両腕で抱く。年齢に似合わぬ立派な発育具合の胸部に、慎吾は視線が吸い寄せられそうになるのを賢明にこらえた。
「そっ……そういうところが子供なんだよ!」
慎吾は、逃げるように後ずさった。
「とにかく、ダメ、ダメッ! マイちゃんのことは好きだし、大事に思ってる。だからこそ、そういうことをするわけにはいかない!」
慎吾が強く言うと、マイは両頬を膨らませた。
その目は不満そうに細められ、そっぽを向きさえしたが、尖らせた口は、そう長くはそのままではいなかった。
「わかった」
「じゃあ――」
「でも、今夜は泊めて」
「だからそれは」
「だって、友達のところに泊まるって言ったんだもん。帰ったら、怪しまれるよ!」
そう言ったマイは、両手を正面で合わせた。
「お願い!」
慎吾はため息を吐きたくなったが、なんとかこらえた。
「わかった。でも、エッチは無し、ね?」
これを男の僕が言うのはおかしいな、と思いながら言った慎吾に、マイは嬉しそうに頷いた。
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