事実を知らされて(お母様視点)

 私アフィーリアは、ラーデイン公爵夫人である。

 公爵夫人として、私は夫と公爵家に尽くしてきたつもりだ。良き妻といえたかどうかはわからないが、それなりに頑張ってきたと自負している。

 しかし、夫は私に対してそうは思っていなかったようだ。なぜなら、彼は浮気していたのだから。


「隠し子……?」

「ええ、そのようです」

「そんな馬鹿な……」


 結婚してから二十年以上経ってから、私は夫の浮気を知ることになった。

 彼は、平民の村娘と浮気して、その間に子供をもうけていたらしい。それは、もう十年以上も前の話であるそうだ。

 許せないという気持ちが、当然湧いて出てきた。夫も浮気相手もその子供も、全てに対して憎しみが生まれた。

 それを押さえつけながら、私は使用人から事の次第を聞くことにする。激情に任せて行動する程、私はもう未熟ではない。そう自分に言い聞かせながら。


「続きを」

「……旦那様の浮気相手ですが、既に亡くなっているようです」

「……亡くなっている?」

「ええ、心労で亡くなったようです」

「年は?」

「三十歳だったそうです」


 私は、自分の中でふつふつと湧き上がっていた怒りが、ほんの少しだけ鎮まるのを感じていた。

 いい気味だと思ったのか、それとも同情したのか、それは自分でもわからない。


「その一人娘であるルネリア様を、旦那様はこの公爵家に保護するつもりのようです」

「それは……」

「公爵家の血を引く者に、平民としての暮らしを送らせる訳にいかない。そう旦那様は考えているようです」


 使用人の説明に、私は納得していた。夫の言わんとしていることは、理解できない訳ではなかったからだ。

 だが、理解できていたとしても、怒りが湧いてくる。どうして、そんなことになるのか。頭ではわかっているのに、そう思ってしまうのだ。


「私のことは、煮るなり焼くなりしても構わない。だが、娘だけは救ってやって欲しい。それが、旦那様から伝えるように言われたことです」

「救う? 平凡な平民だった娘が、この公爵家に来ることを、救いだというの?」

「それは、私にはわかりません」

「……そうね、ごめんなさい」


 夫の言葉の全てに、腹が立った。どうして、こうも彼は勝手なのだろうか。今まで、私がこの公爵家のためにしてきたことはなんだったのか。

 頭の中が、ぐちゃぐちゃになっていくことを感じていた。自分がこれからどうするつもりなのか、それがまったくわからない。


「今更……ここから出て行くこともできないのよね」


 私は、ゆっくりとそう呟いていた。

 この公爵家を去りたい。そう思った直後に浮かんできたのは、子供達の顔だ。

 どれだけ自分が嫌な思いをしたとしても、あの子達の元から離れることに比べればどうということはない。

 そんな思いが、私をこの場所に踏み止まらせたのだ。

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