調査6 お母様

 私は、アルーグお兄様に言われた通り、お母様から話を聞くことにした。

 お母様とは、このラーデイン公爵家の現当主の妻にあたる人物だ。私にとっては、義母というか、継母というか、そういう存在である。


「ふう……」


 私は、お母様の部屋の前でゆっくりと深呼吸した。

 正直な話、彼女と話す時にはいつも緊張する。なぜなら、私という存在が、彼女にとってどういうものなのか、理解できているからだ。

 お母様にとって、私は浮気相手の子供である。そんな私に対して彼女は優しいが、本当の所はどう思っているかわからない。

 私は、それが怖いのだ。他の兄弟達もそうなのだが、お母様に関してはもっとそうなのである。


「……私の部屋の前で、何をしているのかしら?」

「え?」


 そんな私に後ろから話しかけてくる人がいた。

 後ろを向いてみると、とある人物がいた。それは、お母様である。


「え、えっと……実は、その、話したいことがありまして」

「私に? 珍しいわね……まあ、いいわ。中に入ってちょうだい」

「はい……」


 お母様は、少し不思議そうな顔をしていた。

 それは、そうだろう。私からお母様と話したいなんて、今までなかったことである。急にそんなことを言われたら、普通に驚くだろう。


「それで、私に話というのは?」

「え、えっと……」


 お母様と対面して座って、私は少し言葉に詰まっていた。

 アルーグお兄様に言われた通り、お母様に色々と聞くべきなのだろう。一番私に複雑な思いを抱いているはずの彼女から話を聞けば、私の答えは得られるかもしれない。

 だが、それを言おうとすると言葉が出てこなかった。喉の奥で、何かが引っかかるのだ。


「……お母様に、聞きたいのです」

「……何かしら?」

「どうして……どうして、お母様は、それにお兄様やお姉様達は、私に……こんなにも優しくしてくださるのですか?」

「……」


 私は、なんとか言葉を絞り出していた。無理をしたからか、少し喉の辺りが熱い。

 そんな私の言葉を受けて、お母様は目を丸くしている。私の質問に、驚いているのだろう。

 その後、お母様は悲しそうな表情になる。それが、どういう意味を持つのか、私にはわからない。


「なるほど……最近、イルフェア達をつけていたというのは、そういうことだったのね?」

「え? えっと……」

「その理由が知りたくて、つけていたのでしょう?」

「……はい」


 私の言葉だけで、お母様は全てを理解していた。あれだけでここまでわかるなんて、驚きである。

 ただ、こちらとしては話が早くて助かった。色々と言うべきことが省けたのは、今の私にとっては幸いなことだ。


「そうね……その理由を話してもいいわ。あなただって、知りたいでしょうし……ただ、これは私の考えでしかないわ。あなたの兄弟が何を思っているかまでは、私にはわからないもの」

「……それでも、聞かせてください」

「わかったわ……少し、長くなるけど、いいかしら?」

「はい……」


 私は、お母様の言葉にゆっくりと頷いた。

 こうして、私はお母様から話を聞くことになったのである。

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