第33話 おまじないはやることに意義がある
みなさん、こんにちは。季節はすっかり夏!制服も夏服になり、肌の露出が増えた今日この頃。私は不満がひとつあったのだ。
……セバスチャンが夏服を着てくれない!そりゃあ執事服って1年中変わらないってわかってるけど、学園だしいいじゃん!私と一緒に部屋にいるときくらいいいじゃん!
半袖から覗く脇のラインとか細いのにガッチリしてる腕が見たいとか、薄着になれば抱きついたときに腰のラインがはっきりわかるんじゃないかとか、そんな邪な気持ちで言ってるんじゃない!と訴えたが、0,5秒で却下された。
ちっ。バレてたか。
ダンスパーティーの時の騒動はみんなの記憶が曖昧になり、不審者が乱入したがすぐいなくなった。ということになった。
たぶん妖精の力の効果らしいとセバスチャンが言ってたが、特にケガ人もいなかったしあれから妖精が現れることもなかったので放っておいても大丈夫だろうとなったのだ。ルーちゃんもすぐに元気になり、不審者はセバスチャンが追い払ってくれたと言っておいたので納得してくれた。
学園の警備も強化され、不審者事件のことも忘れられようとしていた。
「アイリちゃん、夏服も似合ってますわ」
半袖薄着で色気が普段よりさらにパワーアップしたルーちゃんがうっとりと言った。同い年とは思えぬばいんばいんがぷるんと揺れる(ダンスパーティーの時はさらしで押さえつけていたらしいけど成長期なのかさらに大きくなっているそうだ)。
「ルーちゃんこそ似合ってるよ!なんか、大人っぽい~」
私が思わず抱きつくと柔らかい感触がぷにぷにして気持ちいい。
「あら、アイリちゃんの可愛らしさにはとてもかないませんわ」
ルーちゃんが私のほっぺたをつん!と指先でつつく。
「くすぐったい~」
「うふふ、やっぱり可愛いですわ」
最近のルーちゃんはまったくツンデレしなくなってしまった。デレデレだ。ツンデレ設定は消えてしまったのか。
でもその分女王様してるからバランスはとれているのかもしれない。
そしてデレデレなルーちゃんと私は二人でユリユリしている。ルーちゃんのばいんばいんは抱きつくと気持ちいいし、女の子同士でじゃれ合うのはなんか楽しかった。
もしかしてだか、前世の私にもこんな友達がいたのかもしれない。なんだかこうしてると懐かしい感じがするのだ。
だからなのか、余計にルーちゃんが大好きだ。
「…………」×3
仲良くイチャイチャしてる私たちを遠くから見ている視線が複数あったが、完全無視だ。
特にふたまわりほどでかい筋肉王子がめっちゃ凝視しながらどす赤い顔をして震えながら前屈みになっているから、かなり気持ち悪かった。
双子王子も赤くなったり青くなったりしながらプルプルしててやっぱり気持ち悪かった。
通りすがりのクラスメイトが、さっき王子たちの横を通ったら「まさかそんな特殊な関係に……?!」とかブツブツ言ってたのが聞こえたらしく気持ち悪かった。と言っていた。
うん、気持ち悪い。
「アイリ様、肌を出しすぎです」
どこからともなくセバスチャンが現れて、私の肩にレースのカーディガンを羽織らせる。
「こんなの着たら暑いんだけど……」
半袖でも暑くて、すでに汗でシャツが肌に張り付いているくらいだ。
「汗で濡れたせいで、下着の線が見えてます」
「え?!」
よく見ると、白いシャツにブルーの下着の形がうっすら見えていた。
「だからいつも、もう1枚着るように言っているでしょう」
えー、でも暑い。チラリと親友のシャツを見たがあまり濡れていなかったし下着も見えていなかった。
「ルーちゃんは、シャツ透け問題どうしてる?」
ルーちゃんはにっこり笑顔でひと言。
「わたくし、下着は付けない主義ですの」
まさかのカミングアウト。さっきのぷにぷには生感触でしたか。
どうやらあまり汗もかかない体質らしい。
「じゃあ、わ」
「却下します」
まだ何も言ってないのに、却下された。そしてセバスチャンはカーディガンの前ボタンを全て閉じ、私は完全防備にされてしまったのだ。
「あ、暑い……」
「では、冷たいお飲み物を用意いたします。ルチア様もご一緒にいかがですか?」
「もちろん、ご一緒しますわ」
******
生徒用に開放されてる広いロビーでアイスティーを楽しんでいると、私のクラスの女の子達が数人やって来た。
この子達は私とルーちゃんが一緒にいるときにもよく話しかけてくれるので仲は良い。一緒にお茶を楽しみながら女の子特有の話などを楽しんでいた。
「ルチア様ってもっと怖いイメージでしたけど、アイリさんとご一緒におられる姿を見ていたから仲良くなりたいなって思って……」
と恥ずかしそうに告白されたときはきゅんとしたものだ。
ゲームでの悪役令嬢は孤独だったから、ルーちゃんが差別されたりせずにみんなと楽しそうにしてるとなんだか嬉しかった。
「そういえば、上級生の女子の間で、彼シャツなるものが流行っているのですって!」
ちょっと声を潜めてそう言うと、頬を少し赤くする。
「彼シャツ?」
「ええ、なんでも恋人や気になる殿方のシャツをお借りして素肌にそれだけを着ることだそうよ。誰にも見られないように深夜1時にシャツ1枚の姿で月にお祈りすると永遠の愛を手に入れられるおまじないらしいですわ」
女の子たちは口々に「そんなはしたないわ!」「恋人ならまだしも、気になる殿方に借りに行くのが無理ですわよ!」「でも、なんだか大人っぽいおまじないですわねぇ……」とキャーキャー言い出した。
彼シャツって、そんなおまじないだったっけ?前世の記憶にあるような無いような……実践したことは……うん、無い。
前世の私に恋人などいなかったと宣言できる。そんな色っぽい記憶があればもっと的確にセバスチャンへの色仕掛けが成功してるはずだ。
彼シャツ。確かに大人っぽい響き。
「まぁ……」
ルーちゃんが両手で頬をはさみ、ちょっと赤くなりながら黙ってしまった。何か想像してしまったようだ。
女の子たちもそれに気づき、目を輝かせてルーちゃんに顔を寄せた。
「もしかして、ルチア様には想い人が?」
「え?でもルチア様は王子たちの婚約者候補ですのに」
「あら、あんな(変態)王子たちですし、まだ候補ですもの!他の素敵な方に想いを寄せるくらい問題ありませんわよ!」
「そうですわよねぇ、あんな(変態)王子たちに義理立てするのも馬鹿らしいですわ」
双子王子は、すでに学園中で変態の称号を知られている。
「そ、そんな、想い人なんて……はずかしい……」
真っ赤になったルーちゃんが手で顔を隠した。
可愛い!なんて可愛いんだ!まさかルーちゃんに好きな人がいたなんて……!
聞きたい、けど、聞いていいかわからない!
恋は自由でも、ルーちゃんは国の王子の婚約者候補。下手に恋愛沙汰になればルーちゃんが大変になってしまうのだ。
「……皆さま、ごめんなさい。今のことは秘密にしてくださる?」
ルーちゃんの涙目、しなを作った色っぽい動き、頬を赤く染めながらため息混じりのお願いに全員が真っ赤になってこくこくとうなずいた。
育ちの良いお嬢様なクラスメイトたちには刺激が強かったのだろう。
しかし、彼シャツかぁ……。
少し離れたところで無表情で待機しているセバスチャンをチラリと見る。そんなおまじないが本当に効果がらあるなら是非やってみたいが、あの執事がシャツなんか貸してくれるだろうか?
*******
その夜。
「セバスチャン、お願いがあるの」
「シャツなら貸しません」
まだ何も言ってないのに速攻で断られた。
「まだ何も言ってないわ」
「では違うんですか?」
「……違わないけど」
「それなら是非諦めておとなしくおやすみ下さい」
にっこり執事スマイルは有無を言わさない。
でも私は負けない!
「どうしてもダメなの?」
「ダメです」
「なんでよぉ」
「やってもムダなおまじないを実行なさるおつもりだからです」
「おまじないとはやることに意義があるのよ!」
「ありません、ダメです」
こんな攻防がしばらく続いた。頑なに拒否するセバスチャンに怒りがこみ上げる。
おまじないどうこうよりちょっと着てみたいだけなのに、そこまで拒否しなくてもいいのではないだろうか。
「――――わかった」
「やっと諦めて……どこへ行くんですか?」
私が方向転換し部屋の外へ行こうとすると、セバスチャンが肩に手を置いて引きとめてきた。
「ルーちゃんの部屋に行ってくる」
「なぜ」
「セバスチャンなんか大嫌いだもん!」
べーっ!と舌を出してセバスチャンの手を振り払おうとすると、背中からぎゅっと抱き締められた。
背中からひんやりした体温が伝わってきた同時に心臓がドキドキしてくる。
え?なんで?今の流れでなんでこうなった??
そのまま持ち上げられベットまで運ばれると、ぽいっとベットの上に転がされた。
「あぁもう、まったく……」
セバスチャンは頭を抱えてため息をつくと、おもむろに自分が来ているシャツを脱ぎ出した。
そしてその脱ぎたてのシャツを私の顔にばさっと投げたのだ。
「ひょえ?!」
びっくりして変な声がでた。
「これで満足でしょう?
さぁ、おとなしく寝てください」
シャツの隙間から上半身裸のセバスチャンがチラ見えして、その引き締まった体にさらにドキドキしてしまう。
「え、あの、別に脱いで欲しかった訳じゃ……」
予備のシャツを貸してくれればそれでよかったのに、なんでこうなったの?!
私がオロオロしてると、セバスチャンは片膝をベットにかける。ギシッと音が響いた。
「そんなに寝たくないなら、いっそ眠れなくしてあげましょうか……?」
半裸のセバスチャンが耳元で囁く。
ひんやりしたシャツについたセバスチャンの匂いと、やたらと色っぽく見えるセバスチャンの胸元にイケメンボイスが加わり、最近免疫が出来て鼻血や失神しなかったのに、久々にやってしまった。
ぷはっ
鼻血を出して極上にうっとりした顔で気を失うアイリの姿に、セバスチャンは再びため息をついた。
「……こっちがどれだけ我慢してると思っているんだか。まったく…………」
アイリの鼻にティッシュを詰め、冷えないようにお腹にタオルケットをかける。抱き締められたままのシャツを諦めてセバスチャンは自室に戻った。
眠っていたはずのナイトがチラリとそれをみて、やれやれと言うように首を横にふった。
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