第34話 ルチアの初恋(ルチア視点)

 あの子と初めて出会ったのは5歳の時でした。


 あの頃のわたくしははっきりいって虐められていました。双子王子の婚約者候補になったせいです。


 実は昔、わたくしの家の曾々々祖母様が当時の王家の婚約者に選ばれたそうなのですが、曾々々祖父様と恋に落ち駆け落ちしてしまったそうなんですの。

 なんでも曾々々祖母様は当時のワガママ放題の性格最悪王子を唯一おとなしくさせることの出来る逸材だったらしく、当時の王様と王妃様はそれはそれは曾々々祖母様を気に入っていたのに(王子本人は嫌がっていたそうですが)曾々々祖父様と駆け落ちしてしまい、とても悲しまれたとか。

 でも王子が性格最悪の根性悪な腐れ男な事も重々承知でしたので、曾々々祖母様のお気持ちもわかり(曾々々祖父様は比べ物にならないくらい良い人だったとか)重罪にはならなかったそうです。


 しかし王家との約束を裏切った事に変わりはなく、罰が与えられたそうなのですが、それが「今後子孫に女の子が産まれた場合は必ずその時の王位継承者に嫁がすこと」でした。


 曾々々祖母様は今後の王家の王子の性格が良くなることを祈って了承したそうです。しかしその後、曾々々祖母様の子孫には男の子しか産まれませんでした。それはもう、遺伝子レベルで王家への嫁入りを拒否したんじゃないかって思うくらい産まれませんでしたのよ。

 曾々々祖母様は5人の子供を産み、その子供たちも結婚して5人~7人くらいたくさん子供が産まれましたが、決して女の子は産まれず、王家もそろそろ諦めてくれるのでは思っていた頃、わたくしが産まれてしまったのですわ。


 男ばかり産まれていた一族に嫁入り以外で女の子が現れたと、それはそれは喜ばれ可愛がられました。そしてなぜかわたくしの年代では他に子供が産まれず、わたくし一人だけ。子沢山一族なのに、わたくしには同年代のいとこもはとこなどもまったくおりません。

 まるで女の子が産まれるまでだけに存在した一族だ。王家の呪いだ。そんな陰口も叩かれました。


 わたくしが産まれた時、王家では双子の王子が産まれ、これはまさに運命だと王家の方々は喜ばれました。曾々々祖母様の血筋を王家に迎い入れるのはすでに王家では必ず成し遂げなくてはいけない決まり事となっていたらしく、これでやっと成し遂げることが出来ると安堵されたとか。


 つまり他に女の子がいない以上、わたくしが王子に嫁入りするのは産まれた瞬間からきまっていたのです。


 しかしまだ問題が残っていました。王子が双子だったことです。

 普通なら双子だろうと先に産まれた方が王位継承者でわたくしの婚約者となるはずなのですが、ここで王様が悩まれました。先祖が是非とも血筋を王家に迎い入れたいと切実に願った曾々々祖母様の子孫の娘を、ただ先に産まれたという理由だけで兄王子に嫁がせて良いものか?と。

 もしも後から弟王子の方が優秀だとわかっても、兄王子の婚約者を弟王子の婚約者と交換など出来ないからです。でも絶対にわたくしは王位継承者に嫁いで、曾々々祖母様の血を王家の本筋に残さなくてはいけない決まりだったのです……。

 そこで双子王子のどちらが王位継承者に相応しいか決まるまでの間、わたくしはどちらの婚約者にもなれるように双子王子の婚約者候補となったわけです。


 でも他の貴族たちはそんな約束知りませんから、わたくしが王家の王子を独り占めしているように見えたようでしょう。


“双子王子を手玉にとる魔性の悪女”


 5歳にしてそんなあだ名がついてしまいました。

 わたくしの両親はとても上位の貴族でしたから表立ってはなにもありませんが、同じ年頃の子供からはそれはそれは嫌われたものですわ。


 陰口や仲間外れなど日常茶飯事でしたし、もちろん子供たちの親からも嫌われてるので嫌がらせを止める者などいません。

 王子たちとも仲良くしようとは頑張りましたが、あまり仲良くはなれそうもない雰囲気でした。


 わたくしはいつも一人で遊んでいました。お気に入りの花園は、なぜかあまり人が来ないので動物たちと戯れたり花を愛でたり、一人でいるのは安心できました。

 今後数年以内にわたくしに妹や従姉妹が産まれてくれれば何か変わるかもしれないと夢見ていましたが、無理でしたわ。わたくしのお母様は子宮の病気になり、今後妊娠は出来ないと言われたからです。

 そしてお父様の兄弟や親戚のご夫婦からも悪い報告ばかりが届きました。

 嫁入りなされたお嫁さんが泣いていました。それまで健康に問題など無かった方々なのに、病気や妊娠出来ても流産してしまったりが続きました。

 唯一いる再従兄弟の御兄様はもうすぐ成人されますが、わたくしを見てこう言ったのです。


「もしも自分が結婚したとしても、子供は産まれないかも知れないな」と。やはり、呪われた一族なのかもしれません。


 そんなとき、あの子に会いました。花園に現れた、ピンクゴールドの髪の女の子。

 わたくしはまた虐められるのではと思い逃げようとしましたが、なんとあの子はわたくしと友達になりたいと言いました。その瞬間、とても嬉しくて、とても安心出来たことを今でもよく覚えています。


 わたくしは虐められていたからか、他の人と接するのが苦手でした。何か言われても泣いたりしないように、無意識にきつい言い方や意地悪な言い方をしまいます。

 よくそのせいで「せっかく声をかけてあげたのに、えらそうにして!」「その上から目線がムカつくのよ!」と言われました。

 自分で気づいたときにはもう癖になっていてどうにもなりませんでした。


 でもその子はわたくしが何か言ってもなぜか嬉しそうに、にこにこしてくれました。そして、わたくしの本当の気持ちをわかってくれたのですわ。


 その子はアイリちゃんと言う名前で、アイリちゃんはわたくしをルーちゃんと呼んでくれました。そんな風に呼ばれるのは初めてだったのでとてもドキドキしました。

 両親にアイリちゃんを紹介すると、最初は驚いて身分の差だとか色々言われましたが、必死に頼んだのとアイリちゃんの天真爛漫な魅力を知り無事に親公認の友達になれました。


 そしてこれはアイリちゃんには言ってませんが、実はアイリちゃんと友達になってから親戚に赤ちゃんが産まれたんです。

 可愛い男の子でした。やはり女の子は産まれませんでしたが、それでもわたくしにとってアイリちゃんは女神です。

 わたくしはアイリちゃんが一族の呪いをといてくれたような気がしたのです。だって、わたくしにのしかかる呪いの重みを祓ってくれたんですもの。


 それから9ヶ月くらいたった頃から双子王子の様子が変わりました。(確かこっそり町にお忍びに行っていた日からだったかしら)

 元々意地悪だった兄王子はさらに意地悪になりわたくしを泣かしては「つまらない女だな」と言ってきます。弟王子はわたくしに足で踏んでほしいと言ってきたくせに「お前は噂通りの破廉恥な女だ!」と訳のわからない中傷をされました。

 年を重ねる事にそれは酷くなり、わたくしは悲しいのと悔しい気持ちで思わず王妃様に言いつけました。そしたらなぜか鞭の使い方を教えられましたの。

 わたくしは鞭がうまくなり、王子たちをお仕置き出来るようになりました。普通なら王子に危害を加えるなんてとんでもないはずですが、お仕置きの結果、王子たちが渋々言うことを聞くようになると(ものすごく不本意そうですが)王様と王妃様は喜びましたわ。「さすがは伝説の姫の子孫だ」といわれ、曾々々祖母様のことだとわかりました。

 ここまでしないとまったく言うことを聞かないのは、王様と王妃様の教育が悪いのでは?とは思いましたわ。(言いませんけど)


 わたくしはすっかり鞭がうまくなりましたが、アイリちゃんにそれがバレたら嫌われるかもしれないと思い隠していました。


 15才になり学園に入る年齢になりました。本当なら双子王子のどちらが王位継承者か選ばなければなりませんが、双子王子は口を揃えてわたくしと結婚するのは嫌だと言いました。

 他に好きな子がいるから、王位継承者にはなりたくない。と。

 わたくしは王子たちへの愛情などなかったので婚約破棄を望みましたが、大人たちに泣いて止められました。本人たちが望んでなくても、どちらかと結婚してくれないと困ると。

 王位継承者を選ぶのは結局延期になり、わたくしも婚約者候補のまま。もう、うんざりです。


 入学直前にアイリちゃんから連絡がありました。自分専属の執事を連れていくそうです。

 なんでも遠い親戚からの紹介でとても優秀な方らしいですが、もしも変な男だったら物理的に潰します。えぇ、必ず。


 学園の寮ではアイリちゃんと隣の部屋になれました。アイリちゃんがそう望んでくれたんですもの、どんな権力を使ってでも成し遂げましたわ。

 また癖でつんとした言い方をしてしまいましたが、アイリちゃんは楽しそうでした。でもあの変態王子のせいでわたくしが鞭で王子をお仕置きしてることがアイリちゃんにバレてしまいましたのよ。

 変態王子のあまりにもな横暴にブチギレしてしまい思わずやってしまったんですが、アイリちゃんはなぜか「女王様だね!格好いい!」と目をキラキラさせて喜んでくれました。アイリちゃんの執事セバスチャンともなんだか話が合う気がしましたわ。


 それからも変態王子が出没する度に鞭を使いましたがアイリちゃんは喜んでくれるので、もっと上手くなろうと思います。


 しかし、アイリちゃんに付きまとう筋肉王子にはさすがに鞭は使えず、自分の無力を思い知ります。その分、双子王子に多少八つ当たりしてしまいましたが……まぁ大丈夫です。


 ダンスパーティーでは、大好きなアイリちゃんとダンスを踊りたくてセバスチャンにお願いしましたわ。セバスチャンは優秀な執事ですから、自分がアイリちゃんのパートナーをつとめたらアイリちゃんの評判が悪くなるとわかってパートナーにはならない。と言っていたので、わたくしにファーストダンスを譲ってくれたらセバスチャンを執事でなく謎の人物としてパーティー会場に入場出来るようにする。と交換条件を持ちかけましたの。

 もちろん了承してくれました。さすがは話のわかる方です。


 セバスチャンとボディーガードの協力で他の生徒にバレずに男性としてアイリちゃんとダンスが踊れました。最高に幸せです。セバスチャンにはわたくしの家が保証人であるという身分証を渡しました。(偽造ですけど)

 ウィッグと仮面でかなり変わりますのね。雰囲気から変わって、執事というよりはどこかの王子様のようです。

 このダンスパーティーは学生の交流が目的ですが、実は卒業生やその知り合いなんかもこっそり混じってるので不審者でないとだけ証明できれば簡単に入れるのですわ。


 アイリちゃんは、セバスチャンといるときはとても素敵な笑顔をします。セバスチャンもアイリちゃんをとても大切そうに見守っているのを知ってます。

 でも1番の親友の座だけは誰にも譲りません。


 パーティー会場に不審者が現れました。

 ぜか記憶が曖昧なんですが、不審者はセバスチャンが追い払ってくれたとアイリちゃんが教えてくれたので、安心しました。


 季節が夏になってから、アイリちゃんの夏服が輝かんばかりに可愛らしいです。アイリちゃんがわたくしの胸をぷにぷにしてきて、ちょっぴりふしだらな考えをしてしまい、恥ずかしくなりましたわ。

 最近は無意識の癖だったつんとした態度が出てこなくなりました。アイリちゃんを愛でるのにツンツンしてる暇はありません。それくらい可愛いのです。

 そうそう、アイリちゃんは「暑くていやだ」とおっしゃいますが、セバスチャンがアイリちゃんの肌を隠したがるのもわかります。だって、あの変態王子どもがいやらしい目でアイリちゃんを見てますから。また後で鞭でお仕置きしなくては。


 クラスメイトの女の子たちが「彼シャツ」なるおまじないを教えてくれました。気になる方のシャツを素肌に着る……。

 わたくしはアイリちゃんのシャツを自分の素肌に着る姿を想像してしまい、恥ずかしくて顔から火が出そうでした。


 そういえば、たまにアイリちゃんがセバスチャンを誘惑するにはどうしたらいいか相談してくるときに自分で考えたという作戦を教えてくれるのですが、そのあまりに可愛らしい作戦に悶えそうなのです。

 あんな可愛らしい誘惑をいつもされてるのに、セバスチャンはその気にならないのかしら?絶対、アイリちゃんの事を好きなはずなのに。

 わたくし、それだけは自信ありますの。








「ルーちゃ~ん」


 朝、アイリちゃんがセバスチャンを連れて部屋を出てくると、ちょうどいたわたくしの胸に抱きついてきた。


「あらあら、どうしましたの?」


「あのね!彼シャツのおまじないは失敗したんだけど、セバスチャンのぬモガッ」


 アイリちゃんの口をセバスチャンが瞬時にふさぎます。どうやら昨晩はなにか反応があったようですわね。


「うふふ、楽しそうですわね」


 自分の初恋はきっとこのままだろうけど、この親友が可愛らしい想いを叶えて、もっと幸せになってくれればいい。

 そう思うのでした。

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