愛と哀しみの焼き鳥

タカハシU太

愛と哀しみの焼き鳥

ケンタくんは文鳥を飼っていました。

ブンちゃんという名前です。

可愛くて可愛くて、学校から帰ると、いつも一緒にいました。


ケンタくんのお父さんとお母さんは、しょっちゅうケンカをしていました。

そのうち、お母さんは家を出ていってしまいました。

でも、ケンタくんにはブンちゃんがいたので、さびしくありませんでした。


お父さんは家でお酒を飲んでばかりいました。

もともと、居酒屋で板前として働いていたけれど、お店がつぶれてしまって。

新しい仕事も見つからなくて、ずっとイライラしているのです。


やがて、ケンタくんはおこづかいをもらえなくなりました。

ごはんがない時もありました。

一日一回、食べられれば、いいほうです。

給食費を持っていけなくて、恥ずかしい思いもしました。

お腹がすいてすいてつらかったけれど、ブンちゃんの餌はまだたっぷりあったので、ケンタくんはちっとも不安になりませんでした。


そんなある日、ケンタくんの誕生日のことでした。

今までなら毎年、お母さんのごちそうが待っていたのですが、今年は初めから期待していませんでした。

けれども、学校から帰ってくると、お父さんがめずらしくごはんを作ってくれていました。

それはすごくおいしい焼き鳥でした。


お腹いっぱいには物足りなかったけれど、ひさしぶりのごちそうに満足して、ケンタくんはブンちゃんと遊ぼうとしました。

だけど、かごの中に姿が見当たりません。

逃げてしまったのかな?

すると、お父さんは言いました。

今、ケンタがうれしそうに食べていたじゃないか。


ケンタくんは泣きだしてしまいました。

ブンちゃんがかわいそう。

お父さんなんて大嫌いだ。

ケンタくんはおもいっきり殴られました。

それでも泣きやみません。

お父さんは怒って、出かけてしまいました。


そのうち、ケンタくんは苦しくなってもがき始めました。

体が熱くなり、まるで火に焼かれているようでした。

ああ、ブンちゃんはこんな目にあっていたんだねと、ケンタくんはぼんやり思いました。


酔っぱらって帰ってきたお父さんは、部屋の中を見て驚きました。

背丈が子どもくらいの鳥のバケモノがいるのです。

全身、羽根でおおわれていますが、ところどころ、むしり取られて、真っ赤な肌が露出しています。

ケンタ?

お父さんは呼びかけましたが、鳥のバケモノはくちばしをパクパクさせながら奇声を発するだけで、言葉になりません。

そして、まるで羽ばたくようにふわっとお父さんに突進してきました。

倒されたお父さんは、くちばしで体のあちこちをつつかれました。

助けてくれと悲鳴を上げましたが、鳥のバケモノは容赦しません。

ついには、お父さんの目ん玉を二つともくり抜いて食べてしまいました。


それで満足したのか、鳥のバケモノは窓をぶち破ると、大きく羽ばたいて飛び立っていきました。

炎に包まれた何かが空のかなたへ消えてゆくのを、何人もの人が目にするのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

愛と哀しみの焼き鳥 タカハシU太 @toiletman10

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ