羽あるキミを喰らいたい

ヤミヲミルメ

羽あるキミを喰らいたい

 黒き塊から燃え上がるクリムゾン。

 飛べない天使は火あぶりの刑。

 オレの口からヨダレがしたたる。

 オレの邪眼に炎が宿る。


 キミはまさに天使だ。

 姿は白鳥より美しく、声はカナリヤのようだ。

 脂がしたたり、炎が爆ぜる。

 メスの御御足おみあしに舌を這わせる。

 血も悪くないがソレより肉だ。

 ヴラド・ツェペシュだってここまでの非道はしていない。

 心臓に手を出すのは最後まで取っておこう。

 拒む権利も、いっそさっさと終わらせてくれと急かす権利もキミにはないさ。

 今は胸を味わわせてもらうよ。

 かわいそうに、キミはこのために生まれてきたんだ。


 竹串から鶏むね肉を引き抜いて、血のようなワインで流し込む。

 レンチンではなく本物の七輪を用意したのは今後のためだ。

 シミュレーションは完璧だ。

 アパートの壁に耳を押し当てる。

 隣の女はまだ帰っていない。

 オレは今夜、この女を襲い、焼いて、喰う。


 炭火に計画書を突っ込む。

 証拠を残すような馬鹿な真似はしない。

 もちろん計画通りに事が運べばバレるはずはないのだが、隣人だというだけの理由でオレを疑う者は出てくる。

 記念品だからと大切に取っておいたりしたら、風が吹いて窓の外に……なんて、ありえないような事態にもしっかりと備えておくのが天才犯罪者たるオレ流だ。

 などと考えているそばから、紙の一カケラが舞い上がり、慌てて窓を締めて閉じ込める。

 紙のカケラにはよりにもよって『殺』の字が書かれていた。

 危ない危ない。

 火箸で念入りに炎に押し込む。




 近隣住民の通報を受けて現場に踏み込んだ救急隊員は、玄関を開けてすぐは自殺を疑ったが、遺体の様子を見て事故だと悟った。

 窓を閉め切った部屋。

 練炭。

 充満した一酸化炭素。

 すっかり焦げた焼き鳥と、独り暮らしの男の遺体。

 犯罪の計画書だけはキレイに燃え尽きていた。


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羽あるキミを喰らいたい ヤミヲミルメ @yamiwomirume

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