町の居酒屋

キザなRye

全編

 町には見た目からして優しい男性の経営する小さな居酒屋がある。店主は佐藤さんという方で焼き鳥が看板料理となっている。お客さんたちから佐藤さんは相当慕われていてなにか悩みがあればここに行き、話を聞いてもらうというのが定番化していた。もちろん焼き鳥とビールがこれのお供になるわけだが。

 ある日、エリートと呼ばれるような大企業に勤める男性が居酒屋に来た。常連ではない普段は見ないような顔だ。見た目は気が良さそうなおじさんといったところだろうか。店主の目の前にあるカウンター席にゆっくりと座り、ゆっくりとした口調でぼそっと言った。

「焼き鳥とビール。」

「はいよっ。」

なにか悩みがありそうだと思いながら元気よく返事をした。この店主の明るさみたいなものがこの居酒屋の核を成している。

 焼き鳥とビールを店主がカウンターに置き、男性がビールを一口飲んだあとでぼそりと言葉を発し始めた。

「実は私○○で働いているんですが、部下への接し方で困っていまして……。」

店主はあまり口を挟まず適度に相槌を打って話を聞く。

「ここ最近の若い人は上司が言ったことを機械としてこなすに留まってしまっていちいち口を出さなくてはならないんです。」

 一通り男性が話し終えて店主の方を見たところで満を持して店主が口を開いた。

「まず“最近の若い人”っていう一括りにして考えるのをやめませんか。」

男性の頭にはてなが充満していく。誰が見てもそういう顔をしていた。

「自分の周囲の若い人はそうでも一概に言えるものではないはずです。偏見を持たずに一人一人の人間に接してあげてください。そうするとまた違ったように見えるかもしれません。」

店主が話すごとに男性のはてなが消えていった。そして自分は悪いことをしていたんだと言わんばかりの顔をした。

「私は何をしていたんでしょうか。今一度一人一人に正面からぶつかろうと思います。ありがとうございます。」

 それから数日後に男性は居酒屋を再び訪れた。前回来たときとは違って清々しく見えた。

「佐藤さん、あの説はありがとうございました。佐藤さんに言われたようにきちんと一人一人に向き合ってみたところ、今まで自分はなんてことをしていたんだと思うくらい勘違いをしていました。彼らには彼らなりの思いみたいなものがあって彼らと私らの意見をぶつけ合ってすり合わせが出来ました。」

すらすらと言葉を発して丁寧にお礼を伝えた。

「それは良かったです。私もここで色々な話を聞く機会があってどれだけ一人に向き合えるかが鍵だなと思っているのでそれを伝えられたら良いなと思っています。」

 その後、男性はこの居酒屋を頻繁に訪れ店主と他愛もない話をするような仲になった。良い友達になったとも言える。

 佐藤さんの居酒屋は今後も町のお悩み相談所として機能していくのだろう。

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町の居酒屋 キザなRye @yosukew1616

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