開拓村の焼き鳥研究会 ~欠けた開拓地のそこそこ平和な日常~

海原くらら

厳重に警備された調理場にて。

 皆様、お揃いですね。

 それではこれより、第十六回、開拓村の焼き鳥研究会の成果発表会を開催いたします。


 調理ご担当は、前回に引き続いて剣騎士様とお弟子さんの皆様です。

 焼き用の串は獣騎士様にて材木の端材より作成いただいたもので、串から木の余計な臭いがしない状態まで加工済み。

 獣騎士様の使い魔であるクマさんの嗅覚により無臭チェック完了の専用串でございます。


 これまでは主に素材の加工方法を中心に研究していましたが、前回開催の際、新たに「焼き」の可能性についても試したいとのご意見をいただきました。

 このため本日のゲストとして、開拓村の麦わら加工実験会より紹介されました、村一番のわら焼き名人をお招きしております。

 皆様どうぞ拍手でお迎えください。


 あれ、どうしました? なんで自分の背中に隠れるんですか。

 自分? やだなあ、いつもお話してるじゃないですか。ただの兵士ですよ。

 いつもとノリが違う? まあ今は焼き鳥研究会の司会ですからねぇ。


 そんな緊張しないでくださいよ。大丈夫ですって。

 事前に話したとおり、鳥肉のわら焼きをやってもらうだけですから。


 え。

 みんな目が血走っててマジで怖い?

 この時のために腹を減らしてきてる人ばっかりですからねぇ。食べ始めれば落ち着きますから、そんな気にしないでください。


 さて、ここからの流れは覚えてますか?

 自分が今から、焼く前の鳥肉素材を参加者に見せながら説明しますので、それが終わったらどんどん焼いていってください。

 ああ、炭火焼きのほうは剣騎士様がやりますので、わら焼きだけでいいですよ。


 ところで、わら焼きに関して注意事項とかはありますか?

 ふむ、ここの麦わらは火力が強いから肉が厚いと内側まで焼けないことがあると。

 それでは薄くされたほうの肉を中心に焼いてもらいますかね。


 こほん。

 皆様、お待たせいたしました。

 それではお待ちかね、今回実食いただく三品のご紹介をさせていただきます。


 まずは一品目。

 こちらは今回が初めての素材、イワクイドリの砂肝すなぎもでございます。


 イワクイドリは牛にも匹敵する大きさの、鳥型ですが空を飛ばず地面を走る魔獣でございます。

 岩まで食べる悪食あくじきっぷりに反して、その肉は全体的にジューシーで美味びみ

 胸肉やもも肉が好物の方も多くいらっしゃるでしょう。


 ですが、砂肝はこれまで食用としては避けられていました。

 普通の鳥の砂肝なら入っているのは砂や小石程度ですが、イワクイドリの砂肝に入ってるのはごろごろした石や岩ですからね。砂肝というより岩肝いわぎもと言ったほうがいいくらいです。

 それらの重量を支えるイワクイドリの砂肝はあまりにも筋肉質で、火を通すと固くなりすぎ、とても食べられるものではありませんでした。


 しかし、研究会は諦めませんでした。

 どうしても固くなる部位だけ取り除き、残った肉に多く切れ込みを入れ、その間に肉を柔らかくする効果のある柑橘類を挟み込み数日間の熟成じゅくせい期間を置く。

 そうした下ごしらえの工夫により、肉質を食用に適した固さにまで変えることに成功しました。


 砂肝らしい歯ごたえはしっかり残っていますので、硬めの肉がお好みの方にお勧めいたします。


 続いて二品目。

 こちら、ツルハシガラスのつくねでございます。


 ツルハシのようなクチバシを持つカラスの魔獣。

 せっかく実った畑の作物を狙う、憎いアンチクショウでございます。

 その肉は脂が乗っているものの独特の臭みがあり、なにより全体的に固すぎて食用に適さないとの研究報告が出ていました。

 とくに皮は、どうあがいても革靴なみに固く、臭いと。


 そこで今回は、皮をていねいにぎ、肉を強力にきつつネギや香草を多めに混ぜることによって、ニワトリ肉に匹敵する柔らかさと味を引き出すことに成功しました。

 これまでの実績からカラス肉に抵抗のある方も多いかと思いますが、ひと口でもお試しいただければ幸いです。


 そして三品目。

 ヒポグリフのもも肉と、収穫したてのネギを使用した、ねぎまでございます。


 ワシと馬の大型合成魔獣ヒポグリフ。

 とはいえ、我々にとっては食堂にもちょくちょく出てくるいつもの鳥肉。さらに、新鮮とはいえ見慣れた普通のネギ。

 あまりにも定番で拍子抜けした方もいらっしゃるかと思います。


 しかし、今回の一品目、二品目は挑戦的な内容が続き、好みが分かれるかと思いますので、研究会内の協議の結果こちらを三品目として出品することにいたしました。

 今回は炭火焼とわら焼きの二種類をご用意しておりますので、食べなれた食材の焼き方による味の違いを感じやすいかと思います。

 ぜひ食べ比べをしてみてください。


 さて、説明している間に肉も焼けてきたようです。

 あぁ~超良い匂いしてきた。

 失礼、本音が出ました。


 それでは皆様、順番に実食をお願いいたします。

 感想はのちほど聞かせていただきますので、まずは味をお楽しみください。

 それではどうぞ!


 ……。

 えーと。この後ですが。

 行列できてますね。すみませんが、しばらくは焼きに専念をお願いします。


 そんな顔しないでください。

 自分だって司会進行とか裏方作業があるから食べられないんですよ!

 目の前で肉が焼けてるのに! みんな食べてるのに!


 まぁ我々が食べる用の肉は別に確保してありますから、あとでゆっくり食べましょう。

 なので、今はひたすら肉を焼きまくってください。

 この場の肉がなくなるか、みんなが満腹になれば終わりますから!

 ほら焼いて焼いて!

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