【KAC焼き鳥が登場する物語】邪神は生贄を所望する

結月 花

生贄って食えるのかな

 漆黒の部屋に蝋燭の火が灯る。仄白い光に照らされて闇の中に浮かび上がるのは床に書かれた巨大な魔法陣だ。その周りを、黒いフードを全身に被った魔術師達が囲んでいる。魔術師の一人が腕をあげ、高らかに杖を掲げた。


「闇に潜む精霊よ、血をすする悪魔よ、贄を喰らい、我らのもとに邪神を使わせ。いでよ! 邪神、シャバダハード!」


 魔術師の声と共に魔法陣が赤黒く染まる。直後、ドゥンという爆発音と共に白い煙が部屋を覆った。激しく旋回する爆風に堪えながら、魔術師達はそれぞれ杖を構える。

 やがて濛々とした煙が消えていき、視界がクリアになると同時にそこに現れたのは一人の男だった。ツンツンした黒髪にねじりはちまき、着ているのは白い割烹着だ。彼の姿を見た魔術師達が一斉にどよめく。


「こ、これが世界を滅ぼすと言われている邪神様……!」

「思っていたより小さくておられるが、持っているお力はきっと強大に違いない……!」

「邪神様、この世界を征服するために、我らに力をお授けください」

「はぁ? 邪神様ぁ?」


 召喚された男は頭をポリポリかきながら素っ頓狂な声を出す。


「世界征服も何も、俺はただの焼き鳥屋の店主だけど。ていうかここは何だ? お前らは誰だ?」

「邪神様、ここは闇の帝国、ザリツステア皇国でございます」

「光の国、リトメーアを滅ぼす為に、我らに力を貸してくださらないでしょうか」

「いや貸すも何も、俺にそんな力はないから」

「今はまだお記憶がないかもしれませんが、きっと間もなく力を取り戻すでしょう。邪神様、生贄を捧げます。どうぞお受け取りくださいませ」


 魔術師が絞め殺したばかりの鶏を盆に置いて恭しく男に捧げる。その鶏を見た瞬間、男の目が輝いた。


「おっ! よく身が締まっててうまそうなトリじゃないか! これ食っていいの?」

「く、喰う! やはり邪神様は恐ろしい……ええ勿論ですとも。これは邪神様に貢ぐにえでございます」

「サンキュー! ちょうど腹が減ってたんだよな。じゃあ遠慮なく食わせてもらうわ。包丁ある? あ、ナイフのことね」

「ナイフならここにございます」

「ん、ありがとう。じゃあ遠慮なく」


 そう言って、男は包丁を受け取るとスパンと勢いよく鶏の首を落とした。途端に魔術師達からどよめきの声があがる。だが男は気にせず次いで鶏の腹に包丁を入れた。


「な、何をされるのですか邪神様……」

「ん? 心臓ハツを出すんだよ。あと肝臓レバー胃袋えんがわ

「生贄から心の臓を取り出す……!? な、なんとむごたらしいことを! やはり邪神様は恐ろしい方だ」

「心の臓を取り出して、次はどうされるのです……?」

「あー皮もほしいな。旨いんだよなトリ皮」

「ヒッ! な、なんと皮まで剥ぐとは……! 考えただけでもおぞましい」

「さすがは残虐な力を持つ邪神様だ!」

「皮を剥ぎ、内蔵を取り出した生贄はどうなるのでしょうか」

「そしたらな、この内蔵モツたちを串に刺して、火で焼く」

「串刺しにした上で火炙り!? ああ邪神様、あなたはなんと残虐で恐ろしい方だ。我らはあなた様に逆らうことなど到底できませぬ」


 魔術師達が口々に悲鳴を上げる中、男は気にせずに淡々と作業をしていく。タレがないので岩塩を借り、鶏肉にパラパラとかけて下味をつける。そこらへんに転がっていた折れた杖を集めてろうそくの火を移し、小さな焚き火を起こすと、串に刺した生贄を火で炙り始めた。

 魔術師達が固唾をのんで見守る中、男は串をひっくり返して肉に火を通していく。やがてパチパチと小気味良い音がして、香ばしい匂いが辺りに漂い始めた──。







※※※


「あー今週も面白かった! 早く来週にならねーかな。めちゃくちゃ続きが気になるわ」

「これ最近流行ってるよな。『焼き鳥屋の店主だった俺は、異世界転移して邪神として崇められてしまったから、生贄として捧げられる鶏で焼き鳥を作ってみることにした』。これ、アニメ化決定したらしいよ」

「うおっマジか! 声優誰だろ。楽しみだな」

「あ、ほら先生が来るからジャ●プしまえよ!」


 キンコンカンコーンというチャイムの音と共に、教室の扉がガラガラと開く。

 机を囲んで漫画雑誌を読んでいた男の子二人は、慌てて読んでいた雑誌を机の中にしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC焼き鳥が登場する物語】邪神は生贄を所望する 結月 花 @hana_usagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ