第41話


3ヶ月後。



リリアベルの石像の光と記念碑は、今でも大きなニュースとなっている。

その後、カップルが広場でキスをし、女神にそれが本物の愛であると認められると、紋様が消える現象が次々と起こった。そして、アードゥ同士でも、認められれば紋様が消えるということが最近わかった。実際、ニナの両親は紋様が消えた。紋様が消えた後も、関係は変わることなく、いつも通りだった。



紋様が消えないからと言って、争いが起こることは少なかった。アードゥ同士は魔法の力で喧嘩をしないからである。



そして、シエラが国政に積極的に携わるようになり、メディアへの露出が増え始めた。「女神に認められ、魔法を解くことこそが、リリアベルの祝福なのではないか」という彼女の発言は、現在世間に大いに影響を与えている。






ニナとヴァンは、引越し作業をしていた。

新しい部屋が決まったのだ。



魔法に打ち勝ったあの日から、ニナとヴァンは世間の話題になった。あの場にいた2人の正体を探ろうとするマスコミが後を絶たなかった。幸い、一部始終を見ていた者はいないため、2人が魔法に影響を与えたかは世間では謎のままであり、人物の特定もできていないようだ。



しかし、ニナの安全も考え、前の住まいから離れた場所に引越した。

引越しに関しては、シエラがお詫びとして秘密裏に協力してくれた。




「…ふぅ!今日はこんなもんかな!」



「そうだな。…ふぁ、休憩!」



ヴァンは新調したカーペットに寝転がる。

ニナも隣にごろんと横になった。



「広くなったねぇ。」


「ワンルームから2LDKだからな。良いとこ見つかって良かった。」


「シエラさんのおかげだね。」


「そうだな。感謝しないと。」


「カウンターキッチン、すごいね。」 


「顔見ながら料理できる。」


「ヴァンのパスタ食べたい。」


「任せろ!今度は何作るかな。」



「…ふふ。」



「どうした?」



「隣でヴァンが言葉を返してくれるのが嬉しい。何気ないけど、幸せだなって。」



ニナはニッと笑う。



「…ッ。あ゛ー。」



ヴァンはニナを抱きしめる。



「ど、どうしたの?……わわっ!」



ヴァンはニナを持ち上げて、自分の上に跨らせた。



「これ以上可愛いこと言わないで。閉じ込めたくなる。」



ヴァンはニナの頬をさすりながら言う。



「とっ、とじっ…!?」



ニナは、相変わらずすぐに赤面する。



「…ちょっと休憩したら、街歩いてみるか。初めてのとこだし。」



「わぁ!うんっ!」



「…ではでは休憩を。」



ヴァンはぐっとニナに近付く。そして、ニナの後頭部を支えながら、ニナの唇を自身の唇で何度も噛んだり吸ったりする。



「…ん…きゅ、休憩って、こ、こういうこと…!?」



「そういうこと。はい、口開けてー。」



ニナはヴァンに侵入され、のぼせて倒れそうになった。




その後、ニナ達は今後の生活に想像を膨らませながら街を巡った。その流れで夕食を外で済ませ、川沿いの遊歩道にやってきた。



「わぁ、ここ素敵だ。」



「そうだな。広いし歩きやすいし。」



遊歩道は柵が連なり、川に侵入できないようになっている。道幅がとても広く、等間隔にベンチがある。夜は若いカップルが多い。



「夜景が綺麗…!すごい、前の街より都会に来ちゃったんだね!」



ニナは柵まで走り、柵から身を乗り出しながら、目を輝かせる。川の向こうはキラキラとさまざまな色の光が輝いている。



「あははっ!田舎者感丸出し!」



ヴァンは笑い、手をポケットに入れながら柵まで歩く。



「え゛っ。は、恥ずかしい…」



ニナは身を乗り出すのをやめる。



「かわいいから俺は良いんだけど。」



「それは…馬鹿にしてるように聞こえるなぁ。」



「本当だって!」



「私だって、もう立派な大人ですっ!」



「そうですねぇ。」



ヴァンは目を閉じながら微笑む。



「めちゃくちゃ馬鹿にしてる…!」



「………。」



「…?」



ヴァンが急に目を閉じたまま黙り込み、ニナは不思議に思う。



「……ヴァン?」



「………。」



「あれ?…寝た?」



「………。」



ヴァンは深呼吸した。

そして、ゆっくり目を開ける。



「あ、起きた。」



「…ニナ。」



「ん?」



ヴァンはポケットからケースを取り出し、

両手で丁寧に開けた。



「……!」



小さなピンク色の宝石が埋め込まれた指輪が入っている。



「…2度目になるけど、あの日は準備なく言っちゃったから。今度はちゃんと言う。…俺と、結婚してください。」



ヴァンは顔を赤らめながらも、まっすぐ、真剣な目でニナを見つめる。



「…はい、もちろんです。…嬉しい…。」



「…これからも、ずっと…一生そばにいてくれますか?」



「…はいっ…はいっ!一生そばにいます!」



ニナは泣きながらも、笑顔で答える。



「…良かった。これからも、よろしくお願いします。」



ヴァンは笑顔で言った。



「うう…ヴァンんん…」



ニナはぐすぐすと泣く。



「ははっ。指輪、はめてみる?」



「うん!」



ヴァンはニナの左手の薬指に指輪をはめた。



「…わぁ、ぴったり!」



「測ったからな。」



「い、いつ!?」



「…ニナがぐぅぐぅ寝てる時。」



ヴァンは少し照れ臭そうに言う。



「う、うそっ!?」



ニナは顔を真っ赤にする。



「だって聞いたら、いかにもって感じでかっこ悪いじゃんか!」



「…ふふっ、ヴァンって意外とかっこよさ気にするよね。」



「ニナの前ではかっこよくありたいの。」



「あははっ!ヴァンはかっこいいか可愛いかの2択だって言ってるじゃん!」



「…ッ。もう帰ろ。ニナ愛でたいから。」



「めでっ…」



ヴァンはニナの手を引いて歩き始める。



「…綺麗っ。」



ニナは手を引かれたまま指輪を見つめながら、再び涙を流した。


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