第39話




ニナも、止まることなく走り続けていた。

足の痛みも呼吸の苦しさも、とうに忘れている。



––足動け!もっと速く!速く!



––ヴァン…お願い、無事に広場に着いて…!



––お願いリリアベル…ヴァンに会わせて…!これが私の恋なの。私の愛なの!貫かせてよ…!




広場のリリアベルの石像が見えてきた。



––あと少し…あと少し!




広場に足を踏み入れた時、

反対側に、愛おしい姿が見えた。




「ニナ!!!」

「ヴァン!!!」




最後の力を振り絞って、

最愛の人のもとへ全力で走る。









そして、思い切り抱きしめ合った。



「ニナ…!ニナ!」



「…ヴァン…会いたかった…!」



「ごめん。本当にごめん。」



「みんなが助けてくれたの。みんなに謝って!」



「謝る。いくらでも謝るよ。」



「…ヴァン…ヴァンなんだね……顔見たいのに…全然見えない…っ。」



ニナは、涙で滲んでヴァンがよく見えない。

拭っても拭っても、次から次へと涙が溢れてくる。



ヴァンはニナの頬を両手で包み、親指で彼女の涙を拭いながら、顔を近付ける。



「ニナ。今言う。聞いて?」



「ん…?」



「結婚しよう。」



「…え?」



「俺と、結婚してください。」



「………ッ。もちろん…もちろんだよ!」



「…良かった…。ニナ、愛してる。」



「…私も、愛してる!」



もう1度強く抱きしめ合い、笑顔でキスをした。







その時、2人の左腕の紋様が光り輝いた。



同時に、2人の真横にあったリリアベルの石像と石碑が輝き出した。



そして、リリアベルの石像の前に、魔法陣のようなものが浮かび、その中央に文字が書かれている。



−–親愛なる民へ


 私は、全ての民に魔法をかけました。

 定められた運命の人と

 必ず結ばれる愛の魔法。

 私のように、愛する人に裏切られ、

 絶望することのないように。

 私は、それが

 一番の幸福であると考えました。


 しかし、それは

 間違っているのかもしれない。

 人々の希望を

 奪い取っているのかもしれない。

 人間とは、

 自由に考え、愛し、行動するもの。


 絶望の淵にいる私に

 本当の愛と希望を示す民が現れたとき

 私の魔法は解かれるでしょう。


      リリアベル・ローズクォーツ−–




その魔法陣の文字は記念碑へ新たに刻まれた。


そして、魔法陣と光とともに、2人の腕の紋様が消えていった。



2人は袖を捲り上げ、驚愕する。



「紋様が…消えた!?」






「ニナ!!」



アリサ、ルド、クロエ、そしてシエラ達が広場に集合した。

その他にも、光を見て駆け付けた街の人々が、何事かと集まってきている。



すると、ルドとシエラの紋様が輝き出し、光とともに消えていく。



「…あれ!?あれ!?紋様…消えた!?」



ルドが自身の腕を何度も確認する。



「…あら?私…なんでこんなところに…?」



シエラは困惑している。



「お、お嬢様?」



「えっと…私、何をしてたのかしら…?」



「け、結婚式に向かわれる最中でしたが…」



「あら?どなたの…?」



「…あれぇ?」



メイドや執事、ボディーガード達は混乱した。







「ニナ…!」



「…!お父さん、お母さん!」



しばらくして、ニナの父と母が広場にやってきた。



「ちょうどそこのショッピングモールで買い物してたのよ!そしたら外が光ったから…」



「お前達、大丈夫か!?」



「うん…あのね、紋様が消えちゃったの。私もヴァンも。ルドとヴァンのアードゥも。」



ニナは父に左腕を見せる。



「これは…どういう…」



「記念碑の文字も変わったんです。」



ヴァンがそう言うと、父は記念碑の文を読み始めた。



「…なるほど…そういうことか…。」



「何かわかったの?」



「女神の前で、つまりこの広場で、本当の愛を示した者達の魔法は解除される。つまり、紋様は消え、祝福に縛られることはなくなる。さらに、その者と同じ紋様を持つ者の魔法も解かれる。…お前達は、本当の愛と認められ、女神に祝福されたんだな。」



「…そっか。ふふ、嬉しいっ。」



ニナはヴァンを抱きしめる。

ヴァンは微笑んだ。



「でも…どうして私はルドに会っても、魔法にかからなかったの?」



「…ローズクォーツの血が作用したのかもしれんな。クンツァイト家は個人の意志が魔法より強く反映されるのかもしれん。」



「…そっか…」



ニナはヴァンをさらに強く抱きしめた。

そしてヴァンは、ニナの父に真剣な眼差しを向ける。



「…お義父さん、俺は、」



「待て。それは今度、家に来てから言いなさい。…美味い酒を準備するから。」



「!…はいっ!」



ヴァンは笑顔で答えた。

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