第38話



「来たっ!!!」



声を出したのは、ルドだった。

ルドは、急いでヴァン達のもとへ行く。



シエラとヴァンは、車に乗り込もうとしていた。



「…ヴァンさん!!」



ルドが駆け寄る。



「誰だお前は!?」



ボディーガードがヴァン達の前に立つ。



「待って!」



ヴァンがボディーガードを押し退けた。



「…ヴァン、お知り合い?」



シエラが聞く。



「……君は…」



「は?ツァボライトですよ!ちょっと会わなかっただけでド忘れですか!?ヴァンさん、ニナが待ってます、早く行ってあげてください!」



「…ニナ…?」



「……おいおいおい、ニナのことまで忘れちまったのかよ!?アンタが誰よりも大事に想ってる奴だろうが!!どうしたんだよ!頭イカれちまったのか!?」



「…野蛮な方ね。行きましょう、ヴァン。」



シエラがヴァンの腕を引くが、動かない。



「ヴァン…?」



「僕が…誰よりも大事に…?」



「そうだよ!!リリアベルの祝福に打ち勝って、一緒になるんだろ!?魔法に負けてる場合かよ!!」



ルドの言葉に、シエラが反応する。



「…貴方、何を馬鹿なこと言ってるの!?リリアベルの祝福に打ち勝つ?そんなこと出来るわけないじゃない!アードゥの存在は絶対なの!アードゥでない人と愛を育むことは出来ないし、ましてやアードゥを諦めて離れることなんて、出来るはずないのよ!?」



「出来るんだよ!!だって……だって!









 ニナが俺のアードゥだから!!!」



ルドは着ているパーカーの袖を捲り上げ、自身の左腕をヴァンに見せた。



「ニナに初めて会った時、何故か魔法は発動しなかった。祝福は起こらなかったんだ。紋様が同じだと気付いたのは、もっと後になってから。そして、ニナはアードゥじゃなく、ヴァンさんを選んだ。俺は、それを応援してる。これが証拠だ!」



ルドは叫んだ。



「そ、そんなの嘘よ!あるはずないわ!ヴァン!行くわよ!」



シエラがヴァンを引っ張る。



しかしヴァンは、ルドの紋様を見て、硬直している。



「…薔薇に…3つの星…」



––おい!



「…!」



––いつまで寝ぼけてんだ!



「…何…」



––お前の大切な人は、誰だ!!!?



「……ニナ…」



「…え?」



シエラがヴァンの顔を見上げる。



「……ニナ……ニナッ!!!」



ヴァンはシエラの腕を振り解き、走った。

シエラはその反動で、転んでしまう。



「ヴァン!?…嫌、捕まえて!!」



ボディーガードの2人がヴァンを追いかけようとした。しかし、その1人は、ルドに足を引っ掛けられ、転倒した。ルドはそのまま転倒した男を押さえる。



「ヴァンさん!!広場まで走れ!!!!」



「…わかった!!!ありがとう、ルド!!!」



「…チッ。やっと思い出しやがった。」



ルドはスマホを取り出す。



「おい、アリサ!ニナ!聞こえてただろ!広場だ!急げ!」







「わかった!…ニナ!」



アリサが叫ぶ。



「うんっ!」



ニナは走り出した。

目から涙がぼろぼろと溢れている。



––泣くな。泣くな。ちゃんと前見ろ。

 …ルド…ルド…!ごめん…ありがとう…!





–−−−–



ヴァンは止まることなく、全力で走る。



後ろからシエラのボディーガードが追いかけてきている。足が速く、じわじわと距離が縮まっていく。



「ハァ…ハァ…くっそ……」



その時、



––ドンッ!!



後方で音が響き、ヴァンは思わず振り返る。



「…いったぁ…ちょっと!どこ見て走ってんのよ!」



転倒したクロエが起き上がり、同じく転倒したボディーガードを怒鳴りつけている。

クロエが彼と故意にぶつかって、転倒させたのだ。



「…クロエ…!?」



ヴァンは息を切らした状態で、小声になる。



「邪魔だ!どけ!」



ボディーガードが立ち上がり、クロエを押し退けようとする。



「ちょっとどこ行くのよ!私の服が汚れたでしょ!?弁償しなさいよ!!」



クロエはボディーガードの後ろ襟を掴み、羽交締めにしようとする。



「知らん!!お前が突っ込んできたんだろう!?」



「は!?そっちでしょうが!!」



クロエは怒鳴りながら、ヴァンに「早く行け」と顎で合図した。



「…ッ!」



ヴァンはまた走り出した。



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