第36話
翌日の昼、アリサ命名の「庶民の本気を見せつけろ!ヴァンさん奪還大作戦」が始まった。
インターネットで「カルセドニー」を検索すると、すぐに結果が出た。この国には貴族が存在する。カルセドニー家はどうやら代々国政に携わっている貴族のようだ。しかし、シエラはメディアへの露出は無いようで、個人情報は載っていなかった。
「おいおい、相手は貴族かよ…」
ルドはごくりと唾を飲む。
「何、ビビってんの?」
「ビビビビってねぇよ!」
いつも通りのアリサとルドである。
「ま、インターネットの力は、ここまでか。」
アリサが言う。
「シエラさんがどこにいるかわからないと…」
ニナが不安げに言う。
「そうだな。あとは地道に情報収集だな。」
「私、知り合いに聞いてみるわ。」
「俺も、営業の先輩とかにも聞いてみる。」
「私も…仲の良いお客さんにも聞いてみる。」
「…ニナ、よく仕事来たね。偉いぞ。」
アリサがニナの頭を撫でる。
「…いつまでも閉じこもってられない。ヴァンさんに会ったら絶対引っ叩いてやるっ。」
「その意気だ!でも、明後日から冬季休暇だから、社内での情報収集は明日までだな。頑張ろうぜ。」
「うんっ!ありがとう!」
そして、社内での情報収集の結果、カルセドニー一族の家は点在しており、別荘も複数あるとがわかった。そのうちの5軒は、場所を特定した。
一方、ヴァンはシエラの豪邸で、彼女と食事をしている。
「ヴァン、美味しい?」
「美味しいよ。」
「良かった!いつもはお手伝いさんに頼んじゃってるけど、今日は私がヴァンの為に頑張って作ったのよ!」
「そうなんだね。ありがとう。嬉しいよ。」
ヴァンは微笑む。
「はぁ…貴方がアードゥだなんて、私は幸せ者だわ。こんな素敵な方だと思わなかったもの!きっと前世で徳を積んだのね!」
「ふふ、大袈裟だよ。シエラも素敵な女性だよ。」
「は、恥ずかしいわ!…ヴァン、愛してる。」
「ふふ、ありがとう。」
「…そうだ、サーチェ。結婚式の準備は順調?」
シエラは執事に問う。
「ええ、お嬢様。ご希望のオーダードレスも、1週間ほどで完成するとのことです。」
「結婚式までに充分間に合うわね。…ごめんなさい、ヴァン。カルセドニーの姓になってしまうけど…。」
「僕は構わないよ。」
「ふふ、ありがとう。ヴァンは優しい人ね。」
「そんなことない。シエラの方が優しいよ。」
「…ふふ、ありがとう。」
そして、夜。
ヴァンとシエラは同じベッドに横になる。
シエラはヴァンに擦り寄る。
「…ヴァン。愛してる。」
シエラはヴァンの服の裾をきゅっと掴む。
しかし、ヴァンは今にも眠ってしまいそうである。
「…うん……ありがと……」
「…ヴァン、起きて。もっとお話しましょう?」
「……うん……お…てる……よ…」
「……ヴァン?」
「………」
「………ッ。」
シエラはベッドから起き上がり、部屋を出た。
「サーチェ、紅茶を淹れてちょうだい。」
「かしこまりました。」
「…やっぱりおかしいわ。絶対にアードゥのはずなのに…愛してるも好きも絶対に言ってくださらない。キスもしてくださらないわ。ベッドに入ったら、睡眠薬でも飲んだかのように眠ってしまうのよ。」
「しかし、ご結婚も前向きに考えておられますし、お嬢様の為にお洋服やお菓子を選んでおられる姿も何度も拝見しております。もしかしたら、そういった経験が少ないか、まだ恥じらいがあるのかもしれませんね。」
「そうなのかしら…。でも…。」
「アードゥで間違いないのですから、大丈夫ですよ。あまりお悩みになるのは、お身体に障ります。こちらをお飲みになって、お休みなさいませ。」
「…ええ、それもそうね。ありがとう。」
シエラはティーカップをゆっくり口に運んだ。
ヴァンはシエラの家に来てから、毎日同じ夢を見る。
辺りは真っ暗で何も見えない。
自分自身の身体も見ることができず、存在しているのかもわからない。
しかし、いつも何処からか声が聞こえてくる。
––おい!
––おい!起きろ!
––何してんだ!早く起きろよ!
そして、ハッと目が覚める。
辺りを見ると、いつもと変わらぬシエラの部屋。隣でシエラは眠っている。
「…なんなんだ…。あの声は…僕…?」
ヴァンは1人頭を抱えた。
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