第33話



翌日、約束通りヴァンはニナを高級なレストランへ連れて行き、ディナーを堪能した。



「はぁー美味しかった!あんなの初めて!」



「それは良かった。」



「でも、ちょっと緊張しちゃった!私、全然似合わないや。」



「そう?…あぁニナ、アードゥパーティーとか行ったことないんだもんな。ドレスコードとか、したことない?」



「うん、全然ない!私は居酒屋がよく似合うと自負しております。」



「ははっ、なんだそれ!…でも、ニナのドレス姿、見てみたいな。その…着せたいドレスもあるし。」



「えっ、どんなの?でも、絶対似合わないと思うよ!」



「…似合うと思うけどなぁ。」



すると、とある建物からぞろぞろと人が出てきた。



「あ、噂をすれば…今日はリリアベルデーだね。」



「そうだな。アードゥパーティーが終わったのか。」



––もし、ヴァンさんがアードゥに出逢ってしまったら、どうなっちゃうんだろう…



ニナに不安がよぎった。



その時、



––ドンッ。



ヴァンはよそ見をしていたため、女性とぶつかった。



「も、申し訳ございませんっ!」



品の良い女性が、すぐさま謝る。

水色のふわふわの髪で、瞳はブルー。

アクアマリンカラーのドレスを着ている。



「い、いえ、こちらこそ、よそ見をしてい…て……。」



ヴァンと女性の目が合った瞬間、2人の左腕から、一瞬光が放たれた。



「!?…え…?」



ニナは動揺する。



「…う……ぁ……き…君…は……お……俺…の…?…」



「……や、やっと出逢えましたわ…!私の………アードゥ様!!!」



女性はヴァンに抱きつく。

女性の左腕には、ヴァンと同じ、薔薇の紋様。



「え……ちょ、ちょっと待って…!」



ニナは慌てて女性を引き剥がす。



「あら…貴方は…?」



女性が問う。



「私は…この人の恋人です。」



「あら、そうなのね。彼のお相手をしてくれて、本当にありがとう!でも、もう大丈夫よ!これで貴方も自由にアードゥ様を探せるわ!」



「ち、違うの…!彼は…」



「違う?…あぁ、情が移ってしまったのね。大丈夫よ、アードゥ様に出逢えれば、全て忘れられるわ!」



「ヴ、ヴァンさん…!」



ニナがヴァンの袖を掴むが、女性を見つめたまま動かない。



「ヴァン様というのね。私はシエラ・カルセドニー。よろしくお願い致しますわ、ヴァン様っ!」



「…シ…シエラ…」



「ヴァンさん…?」



しばらくして、ヴァンはニナの顔を見る。



「…君は…………誰…?」



「…ぇ…?」



「さぁ、行きましょう!車を待たせているの。何も準備は要らないわ。この日を待ち望んで、全て私の家に準備してあるもの!」



「……。」



ヴァンは歩き出した。



「ヴ、ヴァンさん…!」



ニナの声にヴァンは反応しない。



「…待って…待ってよ…ヴァンッ!!」



ニナが泣きながら叫ぶ。



ヴァンは一瞬動きを止めたが、すぐに再び歩き出した。










ヴァンは行ってしまった。









「なんで……なんで…よ………」



ニナは、その場に泣き崩れた。





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