第32話


また時が過ぎ、寒い冬がやってきた。

ニナはヴァンとの生活に慣れ始めていた。



––ガチャ。



「うぅ、寒い。ただいま。」



ヴァンが帰宅する。



「おかえり!今日吹雪いてたもんね。ご飯、あったかいシチューだよ!」



ニナはニコニコと出迎える。



「うわ、それ嬉しい。ありがとな。」



ヴァンはコートを脱ぎ、外でバサバサと振る。



「すぐお風呂入っちゃいなよ。私ご飯あっためとくから。」



ニナはコートを預かりながら言う。



「んー、一緒に入る?」



「は、入りませんっ!私もう入ったから!」



「あー、残念。じゃあ1人寂しく入ってくるかぁ。」



「い、言い方っ!」





ヴァンは身体を洗って湯船に浸かり、しばらくして悶々とし始めた。



––同棲始めて、もう半年。いつになったら、一緒に入ってくれるのか…。じゃなくて!そろそろ結婚の話、してもいいのだろうか…。いや、まだ?1年くらい経ってからか?…そんな簡単なことじゃないのは、わかってる。この結婚は、国を敵に回すことと同じ。ニナのことは絶対に守るけど、彼女を巻き込むことになるのは違いない。でも、ニナも結婚を望んでくれてる…よな?…あれ、結婚したいって、言ってくれてたっけ…?もしかして…それは言ってない…?……やばい、めちゃくちゃ不安になった。今度それとなく聞いてみないとな…。



ヴァンは、湯船から上がり、扉を開けた。



すると、脱衣所へバスタオルを持ってきたニナと目が合う。



「…?」


「…ぴゃ!?」



ニナは顔を真っ赤にして逃げる。



「な、なんでっ!ノックしたじゃんっ!」



「あ、悪い、聞こえてなかった。」



「入るよーとも言ったしっ!」



「ありゃ、そうなのか。…俺の裸なんて、もう見慣れてるじゃんか。」



ヴァンは何食わぬ顔でタオルで身体を拭き始める。



「見慣っ…!?ヴ、ヴァンさんこそ…私の身体見慣れてるのっ!?」



「…んー…全然だな。想像しただけで興奮する。」



ヴァンは真顔で答える。



「こっ…!?し、シチューすぐ食べられるからっ!」



ニナはパタパタと走って行った。



「…はぁ…。先に食べたいものができてしまった…。」



ヴァンは必死に自分を抑えていた。





その後、2人はDVDを観ながらくつろいでいた。

ヴァンはベッドの掛け布団の上に、ニナはベッドに寄りかかって床に、というのがお決まりになっている。



ニナを見ると、頭がカクカクと動いている。



「…ははっ、ニナ、眠い?」



「…眠くない…。」



「続きは明日見よう。おいで。」



ヴァンは布団に入った。

ニナは眠そうな顔でベッドに潜り込む。

ヴァンはニナを迎え入れて抱きしめる。



「…ニナ、明日ちょっと良いとこ行ってディナーにしよっか。」



「…え?どうしたの?」



「なんとなく。そういうとこ、連れて行ってあげられてないし。」



「…ふふ、私はどこだって、ヴァンさんと一緒なら楽しいし、なんでも美味しいよ。」



「………。」



「…ん?ヴァンさん?」



「ニナ、めちゃくちゃ好き。」



「!!…わ、私もだよ…!」



ニナは少し目が覚める。



「俺、ニナとずっと一緒にいたい。歳とって、じいちゃんばあちゃんになっても。」



「わ、私もだよ!シワシワになっても、喧嘩しても、環境が変わっても、ずーっと、一緒にいたいっ。」



ニナは真っ赤な顔を上げて、ヴァンの顔を見つめながら一生懸命伝える。



ヴァンは微笑み、額にキスをした。

そして、もう一度抱きしめ直す。



「…ニナ、新しい部屋、探さない?俺、2人で一緒に決めた部屋に住みたい。」



「!…うん、探す!」



ニナは、ヴァンをぎゅっと抱きしめ返す。



「…ニナ。」



「うん?…!」



深くキスをする。



「…起きてるの、もうちょっと頑張れる?」



「…が、がんばれ…る…。」



ヴァンはニナに覆い被さり、

甘い音の響く深いキスをした。



「…ニナ…好き。」



ヴァンの息が甘く荒れる。



「わ、私も…好きっ…」



「…独り占めしたい…」



「も、もう、してますよっ…!」



「…足りない…」



「!!?」



「…どうすれば足りんの…」



「〜〜ッ。」



「全然…余裕なんかない…」



「……ッッ。」



ニナは、自分からキスをした。

ヴァンは驚き、目を見開く。



「…わ、私だって、見ての通り…余裕なんか…これっぽっちもないです…!」



「……もっと。」



「え?」



「もっと、して。」



「…!」



「ねぇ、ニナ。」



「…ぅぅっ。」



再び、ニナからヴァンへ触れる。



「…もっと。」



再び。



「…もっとほしい。」



再び。

ニナは、恥ずかしさで意識が飛びそうである。



その後も、ヴァンの余裕のないキスを受け、

ニナが眠れたのは、2時間後であった。

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