第30話



夏季休暇5日目。連休最終日である。



ニナは、少しだけ早起きして、朝食の準備や、水まわりの掃除、洗濯をしていた。

実家暮らしであったが、アードゥと一緒になった時に困らないようにと、妹と一緒に家事や料理を幼い頃から教え込まれてきたので、問題なくこなせている。



「…よしっ!」



ニナは、洗濯物を干し始めた。



「…!」



しばらくしてニナが手に取ったのは、ヴァンの下着。



––…問題ない。お父さんと一緒。お父さんと一緒。ただの布。布布ぬのぬの…



ニナは赤面しながら、洗濯物を干していく。



「終わりっ。」



干し終わり、洗濯物を少し眺める。

自分の衣類と彼の衣類が並んで干されている光景を見ると、一緒に暮らしていることを実感せずにはいられなかった。そしてニナは、優しく幸せな笑みを浮かべる。



––カラカラッ。



ニナがベランダから部屋に戻る。



「…ニナおはよー…」



「あ、おはよっ。」



ヴァンが眠そうに目を擦りながら、

立ち上がってニナを待っていた。



「洗濯…ありがとなぁ。」



「いえいえっ。」



「…ん。きて。」



ヴァンが両手を広げた。

ニナは照れながら腕の中に収まる。



「…やってくれるのは嬉しいけど、家事は、分担しよな。俺、ニナに家事してもらいたくて一緒に暮らそうって言ったわけじゃないし。俺もちゃんとできるよ。」



「…ッ。は、はいっ。」



「よし、今日の夕飯は俺が作る!あ、俺、パスタが得意です。いかがですか?」



「好きですっ。」



「よーし、じゃあ買い物いこう。」



ヴァンはニナの額に音を立てて口付ける。



「…へへ。」



ニナは額を触りながら照れ笑いをした。

ヴァンは真顔になる。



––は?可愛い。何だそれ。目、覚めた。朝からニナが可愛すぎる。あれ、ニナって何だっけ。人?天使?あ、もしかして…



「…宇宙?」



「へ?」



「ん?なんでもないヨ。支度するか。」



「うん!あ、ご飯あるよ!」



ヴァンは何事もなかったかのように、爽やかな笑顔でニナと朝食の準備をした。






そして、2人はスーパーで材料を買い終え、

歩きながら会話をしている。



「パスタ楽しみです。」



「あんま期待すんなよ。普通の味だから。」



「えー、でもヴァンさんの手料理…………」



ニナは突然立ち止まった。



「ん?ニナ?」



「…あ!私、個人的な買い物忘れてました!ちょっと買って来るので、先に帰っててください!」



「えっ、おい!ニナ!?」



ニナは走って行ってしまった。







しばらくして、とある街頭でニナは声をかける。



「…クロエさん!」



「…!?…アンタ…」



クロエは振り返り、驚く。

ニナは少し息切れしている。



「…何、追いかけてきたわけ?私に嫌味でも言うつもり?」



「ち、違います!…あの、どうしても、言いたいことがあって…」



「は?何よ。」



「…あの、私、クロエさんにありがとうって言いたかったんです。」



「…は?」



「私、クロエさんのおかげで自分に正直になれたんです。クロエさんが、ライバルだったから…!そのおかげで、ヴァンさんに気持ちを伝えられました。それに…アードゥ以外に堂々と恋をしてるクロエさんに、勇気ももらったんです。私は魔法なんか関係ないって言いながら、結局逃げてました。自分自身から湧き出た想いを大切にできたのは、大切にして良いんだって思えたのは、同じ想いを持ったクロエさんがいたからです!本当に、ありがとうございました!」



「…何それ。結局嫌味じゃない。嫌な奴ね。」



「…じゃあ、なんで言いふらさなかったんですか?私達が、アードゥでもないのに想い合ってるって。」



「…面倒だっただけよ。」



「…クロエさん、本当にヴァンさんが大切なんですよね。ヴァンさんに傷付いて欲しくないんですよね。…わかってるつもりです。私も、同じだから。」



「だから!何を知ったような口を…!」



「あと!一個、許せないことがあります。ヴァンさんを、叩いたこと。」



ニナはクロエに近付く。



「だから、今から貴方を叩きます。」



ニナは手を振りかぶった。



「…!」



––ペちんッ。



ニナは軽くクロエの頬を叩いた。



「…私、そんないい子ちゃんじゃないです。大切な人が傷付けられたら、黙っていられない。守られるばっかのような、可愛い人にもなれない。…叩いてごめんなさい。これで、仕返しは終わりです。」



「……ふ、ふふふっ。なんかアンタ、面白いね。」



「え…」



「弱っちい奴って思ってたけど、撤回。案外、強情なのね。まぁ、ちんちくりんには変わりないけど。」



クロエは自身の髪を撫でた。



「ま、いいわ。ヴァンのことは、もう別に。私は次に進むから。…ふふっ、アイツも災難ね、こんな女に捕まって。せいぜい尻に敷かれて、苦労すればいいわ。」



「し、尻になんて敷きませんっ!」



「ふふ。…私の敵が、アンタで良かった、かも。」



「!クロエさん…」



「じゃ、行くわ。…またね、ニナ。」



「はいっ!」



ニナは、ヴァンの待つ家へ走って帰った。



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