第29話



夏季休暇4日目。



ニナとヴァンは遅めの朝食をとった後、

足りない食器や雑貨類を買いにショッピングモールへ来た。



「ニナの好きなデザインでいいよ。ゆっくり選んで。」



「ありがとうございます!…えー、どれにしよう…」



ニナはコップを選んでいる。



「あ、俺、ちょっとまな板見てもいい?ずっと変えてないから傷だらけでさ。」



「はいっ。私ここで見てますね。」



ヴァンは別のコーナーへ向かった。



「……あ…これが良いかも。」



欲しいコップが決まり、ニナはヴァンのもとへ向かう。



「ねぇっ、あの人超イケメンじゃない?」



「やばいよね!1人…かな?」



「どうする?声…かけてみる!?」



少し離れたところで、若い女子達がヴァンを見ながら話しているのが聞こえた。



「………っ。」



ニナはヴァンに駆け寄る。



「ヴァン。欲しいのあった。」



「!?!?に、ニナ?」



ニナはヴァンの腕に抱きつき、じっと見つめている。

ヴァンは、いきなり呼び捨てと可愛い仕草とで、爆発しそうになった。



「こっち。一緒に見てっ。」



ニナはそのままヴァンを引っ張って行った。



––待って。なんでそんな可愛いことしてんの…



ニナをチラリと見ると、顔を赤らめているが、怒っているかのように頬を少しだけ膨らませて、真っ直ぐ前を向いている。



「かわ…何…それ…」



ヴァンは手を額に当てた。



「これがいいっ。」



選んだのは、ペアのマグカップ。



「…ッッ!わかった、決まりな!」



それから、他の必要な雑貨も購入していった。

ニナは、今日一日恥ずかしがりながらも、ずっとヴァンの手を握っていた。



そのままショッピングモールで夕食をとり、家に戻る。



そして、夜。

今日買った雑貨を箱から取り出し終わり、シャワーも浴びてテレビを見ながらくつろぐ。

ニナはベッドの側面に寄りかかって床に座り、ヴァンはベッドの上で寝転がっている。



「…な、今日なんであんな積極的だったの?」



「…ヴァンさんを取られたくなかったから。」



「…んぇ!?」



「だって…ヴァンさん1人にすると、女の子がみんな噂するんだもん…。」



ニナが下を向いてぷくっと膨れる。



ヴァンは身体の向きを変え、ニナの顔に近付き、彼女の頬をつつく。



「…取られると思ったの?」



「…うん。」



「自分の彼氏だって、言いたかったの?」



「…。」



「やきもち?」



「…。」



「ニナ、こっち来て。」



ヴァンがニナの頭を撫でてベッドに呼び寄せる。ニナはおとなしく指示に従う。

ヴァンは仰向けで横になったまま、ニナを身体の上に跨らせた。



「ニナがやきもちなんて、すげぇ嬉しい。自惚れそう。」



ヴァンは頬を染めながらニナをじっと見つめて言う。



「…ヴァンさんはモテるから、私の気持ちなんかわかんないっ…」



ニナはまだ少し膨れている。



「わかるよ。俺も、大人気ないなって思うこと、やってるし。」



「…そうなの?」



「うん。ニナは自分の魅力をわかってないから、心配。」



「え?」



「…俺はね、嫉妬深いの。」



「しっ…!?」



「だから、覚悟してください。」



「ぅっ…」



ヴァンは起き上がってニナの額にキスをした。

そして、瞼、鼻、頬へと、ニナの形を自分の中に刻み込むように、ゆっくりキスをする。唇からニナの体温が伝わり、その熱さから自分への想いの大きさが感じられ、心が疼く。



「ニナ、好きだ。」



「…私も…ヴァンが好き。」



「ッ!…あー。ニナがいけない。うん、ニナが悪い。」



「えっ、ちょ…!」



今日も深く甘い夜を迎えた。

ヴァンがニナの不意打ちに慣れるまで、まだまだ時間がかかりそうだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る