第25話


時は過ぎ、季節は夏。

この季節、ニナ達の支店では、近くの海岸で実施されるバーベキュー大会がある。これは毎年の恒例行事となっている。




「あ゛っっっづ。こんなクソ暑い時に、クソ熱いバーベキューなんかするもんじゃねぇ。」



ルドが、着ている七分袖のパーカーの首元を引っ張りながら文句を言っている。



「上だけ脱げばいいじゃん。海なんだし。」



アリサが言う。



「それは俺のポリシーに反する。」



「なんだそれ。」





「お待たせ。ほい、ビール。」



ニナは3本の缶ビールを持ってきた。

そして、アリサとルドに1本ずつ渡す。



「サンキュー!暑い中飲むビールほど最高なものはねぇっ!」



「暑いのが良いのか悪いのかどっちだよ。」



アリサは呆れている。



このバーベキュー大会は、比較的自由な時間が多く、家族を連れてきても良い。海で家族と遊ぶ者もいれば、ひたすら肉を焼く者、酒を飲みながら談笑する者など、各々自由に楽しんでいる。



ニナ達は、道路と海岸を結ぶ階段に腰掛けながら話をしている。



「ねぇ、ニナはヴァンさんのとこ行かなくていいの?」



「え、うん。私が行くのも変だし、ヴァンさん初めての参加だから、いろんな人と交流したいだろうし。」



「そーだそーだ!アイツのことはほっといて、俺らで楽しもうぜ!」



「ルドうるっさい。もう酔ってんの?」



アリサが叱る。



「酔ってねーよ。…あー、やっぱ酔ってるっ!」



ルドはビールを一気飲みする。



「ちょ…ルド、どしたの?情緒不安定?」



ニナが心配する。



「はぁ…お腹すいてきた。私お肉もらってくるわ。」



アリサは階段を離れた。



「あ、そうだ!ねぇルド、弟くん、新薬が効いて元気になったんだって?おめでとう!良かったね!」



「おお、さんきゅ!アリサに聞いたのか?」



「うん!それでね、迷惑かもしれないけど…これ、健康お守り!よく効くって最近話題なんだ!良かったら貰って!」



ニナはルドにお守りを渡す。



「…ありがとな。…お前、ほんといい奴だよな。」



「え?そんなんじゃないってば!弟くんの話はよく聞いてたし、友達の家族だって友達と同じくらい大事でしょーが!」



「…そういうとこなんだよなぁ。」



ルドはボソッと呟く。



「ん?なんて?」



「なんでもねぇ!…なぁニナ、今幸せか?」



「え…うん、幸せだよ!」



「…そっか。じゃあ良かった!」



ルドはニナの頭を撫でようとしたが、止めた。



「ふふ、ほんとどうしたのルド。」



「なぁんでもねーよ!俺も腹減ったなぁ、なんかもらってくる!」



「いってらっしゃーい。」



ルドは走って行った。




ニナは、しばらく1人で海を眺めながらビールを飲む。



「やぁ、お姉さん。1人?」



声のした方へ目を向けると、ヴァンがいた。



「あれっ、どうしたんですか?」



「んー、ちょっと休憩。あと、アリサさんとルド君がこっち来たから、ニナ1人なのかなって。」



ヴァンが階段に腰掛けた。



「ふふ、初めてのバーベキュー大会、楽しいですか?」



「うーん、ちょっと話し疲れた。」



「ありゃ。お疲れ様です。」



「ニナは楽しい?」



「アリサとルドがいてくれるので、楽しいです。」



「そっか。…なんだか妬けるなぁ。」



「え?」



「なんでもない。な、来週から夏季休暇だろ?なんか予定入ってる?」



「んー、まだ特には。」



「じゃあ、俺にちょうだい。一緒に過ごそ。」



「ッ!…は、はい。」




「あっ!イチャイチャしてる!」



アリサとルドが戻ってきた。



「し、してないよっ!」



ニナは慌てている。



「んー、今からしようと思ってたとこ。」



ヴァンは笑顔で言う。



「え゛っ。」



ニナとルドが同時に声を出す。



「きゃああっ!」



なぜかアリサの顔が赤くなる。



「じゃあ戻るね。また電話する。」



「は、はい…」



ヴァンは戻って行った。



「はぁーっ、ニナほんと羨ましい。私もイケメンにあんなこと言われたいいっ!」



「あんなの絶対言えねぇ…詐欺師かよ…」



「ちょっと!ヴァンさんは良い人だよ!」



「例えだよ!てか惚気てんじゃねぇよ!」



「ルド、あのくらい言えるようにならないと女のハートは掴めないよ!」



アリサがルドの背中をバシバシ叩く。



「そ、そうなのか…!?」



「ルドが本気にしちゃうでしょ、アリサぁ!」



「違うのか…!?」



ルドは慌てふためいた。



一方、ヴァンは戻りながら、額に手を当て、

耳を赤くしていた。



––大人気なかった。大人気なかった。かっこ悪い。ルド君がいたから、つい…。余裕のある男になりたい…。

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