第26話


夏季休暇前日の夜。


ニナとヴァンは、今日食事をする予定だが、ニナが用事を済ませてから会いたいと言い、レストランの前で待ち合わせである。



ヴァンは先に到着し、スマホを見ている。



「お、お待たせしました!」



「ん、そんな待ってな…………」



ヴァンは固まった。



ニナは髪が少し短くなり、前髪が出来ている。



「そ、その…美容院、行ってて…。」



「か、かわ…」



「?」



ゴッ。



「ヴァンさん!?」



ヴァンは自らの額を、

手に持っていたスマホで殴った。

自分を取り戻すために。

そしてニコッと笑顔になる。



「めちゃくちゃ可愛い。一瞬意識飛んだ。前髪長いのも好きだけど、あるのもすげぇ好き。」



「あ、ありがとう…ございます…。」



ニナは顔を真っ赤にして、下を向く。



「じゃ、入るか。」



「はいっ。」



––危ねぇ。人目も場所も関係なく押し倒すとこだった。反則すぎる。可愛い。可愛いが過ぎる。キレそう。いや、デコが出てるのも無茶苦茶可愛いけど。はぁ、閉まっておきたい。人目に触れさせたくない。いい加減、自分の可愛さに気付いてほしい。





そして、ニナとヴァンは食事の後に、

公園のベンチでアイスクリームを食べている。



「夜はちょっと涼しいですね。」



「そうだな。風が心地いい。」



「ヴァンさん、チョコ好きなんですか?」



「うん。バリバリするチョコアイスが好き。」



「ふふ、可愛い。」



「かっ…!?に、ニナはバニラ?」



「はい。濃厚なバニラが好きです。あ、でもたまにシャーベットも食べたくなるかも。」



「そっか。俺もシャーベットたまに食べるけど、バニラ食べないなぁ。」



「嫌いなんですか?」



「んー、食べる回数が少ないだけ。すぐチョコ味とるから。」



「…食べる?」



ニナが、アイスをすくったスプーンをヴァンへ向けながら見つめる。



「えっ…食べる。」



ニナから一口もらう。



「…どうですか?」



「…甘い。めっちゃ甘い。」



「好き?」



「好き。」



「じゃあ選択肢、増えましたね!」



「…うん。」



ヴァンは目を逸らす。



「俺のも食べる?」



「食べる!」



「はい。」



ヴァンのアイスはバータイプなので、そのままニナに向ける。

ニナは抵抗なく小さくひとかじりする。



「ん!美味しい!」



「これ、俺のお気に入り。冷凍庫にストックある。」



「そうなんですか!私もこのバニラ、ストックありますっ。」



「…じゃあ、それも買っとくな。冷凍庫にストックしとく。」



「えっ……あ、ありがとうございます。」



その後、2人は無言でアイスを食べ切った。



「はい、ゴミ。」



ニナがゴミ袋の口をヴァンに向ける。



「あ、サンキュー。」



ヴァンはアイスの棒を袋に入れ、チラリとニナを見た。



「…あ、アイスついてるよ?」



「え?どこですか?」



「んとー…」



ヴァンは顔を近付け、キスをした。



「!!?!?」



「ふっ。嘘。」



––ほんとに詐欺師の素質あるかも…。

ニナは赤面しながら、そう考えていた。



夜風が優しく2人を包む。


2人が無言でいても、

虫の美しい鳴き声が沈黙とさせない。

同時に、ヴァンの背中を優しく押す。




「…ニナ。」



「は、はい。」



「俺…ニナのご両親に、挨拶したい。」



「…えっ!?!?」



「挨拶して、認めてもらいたい。付き合ってることと、一緒に住むこと。」



「え…?」



「俺、ニナと暮らしたい。ニナは…どう?」



「…私も、ずっと、毎日一緒に過ごせたらな

って思ってました。すごく嬉しい…!」



ニナは目に涙を浮かべている。



「良かった。俺、認めてもらえるように頑張るから。そしたら、一緒に暮らそう。」



「うん…!」





翌日。


ヴァンとニナは、ニナの家の前にいる。



「ふぅ…。」



ヴァンは大きく深呼吸した。



「…緊張してる?」



「…うん。かなり。」



「…大丈夫。私の家族は、私の幸せを願ってくれてる。私がちゃんと幸せなのが伝えられれば、絶対わかってくれます。」



ニナはヴァンの手を握った。



「…うん。行こう。」



2人は家の中へ入っていった。


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