第23話



ヴァンはニナに風呂場を案内し、ベッドの上に腰掛ける。



「………。」



先程の記憶が一気に駆け巡り、ボッと蒸発する。



「…は?俺、全然余裕なくね?カッコ悪っ!がっつき過ぎ?ニナ、本気で嫌がってたら…やばい、どうする。」



ヴァンは両手を口の前で合わせ、ぐるぐると考えを巡らせる。



「…お待たせしました。服、ありがとうございます。」



ニナはヴァンの部屋着を借りている。

ニナは平均的な身長だが、ヴァンが長身のため、ぶかぶかである。



「…あ゛ー。かわいい。」



ヴァンは頭を抱えた。



「俺も入ってくる。ドライヤー持ってくるから、乾かしてな。」



「あ、ありがとうございます。」



ヴァンはニナにドライヤーを渡し、風呂場へ行った。



ニナは髪を乾かしながら、先程のことを考えていた。



––神の顔面が目の前に来るだけでもキャパオーバーなのに…てか、私めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ったな!?がっつく女に見えた…!?嫌われたら…どうしよ…



髪を乾かす手が荒っぽくなる。

その時、ふわっとシャンプーの香りが鼻をくすぐった。

一旦、ドライヤーを止める。


––ヴァンさんと同じシャンプーの匂いだ…。

服も…ヴァンさんの匂い…。


ニナは、赤面する。



乾かし終えてしばらくすると、ヴァンが戻ってきた。

いつも前髪を分けて軽く上げているのだが、ワックスがとれて髪が目にかかっている。



「…神…」



「ん?」



「あ、いや…ドライヤーありがとうございます。」



「はいよ。」



ヴァンはドライヤーを戻そうとする。



「えっ、ヴァンさん乾かさないの?」



「んー?いつも自然乾燥。」



「風邪引いちゃいますよ!」



「んー大丈夫。引いたことねぇし。」



「もうっ、こっち来て!」



「?」



「ここ、座って!」



ニナは床を指差す。

ヴァンは言われた通りにした。



「ベッド借りますよ。」



ニナはベッドの上に座り、ドライヤーをセットした。そして、ヴァンの髪を乾かし始める。



「……。」



ヴァンの耳が赤くなる。

––嬉しい。



「…よしっ。」



ヴァンの髪が乾いた。ドライヤーのコードを抜く。



「ヴァンさん、髪サラサラですね。」



「ニナもでしょ。なんかやってんの?」



「なんにもやってないです。母譲りかも。」



「そっか。俺もそう。」



ヴァンはニナの足に寄りかかった。

下からニナを見つめながら、彼女の髪を弄る。



ニナはなんとなく、ヴァンの頬を両手でふにふにと摘む。



「んー?」



「…へへ、こんなことできるの、私だけですね。」



ニナは頬を赤らめふにゃっと笑う。



「…そうだよ。」



ヴァンは起き上がって、ニナを抱き抱えてそのままベッドへ寝かせる。



「…!」



「キスしたり、抱きしめたり、俺を好きにしていいのはニナだけ。逆もそう。…俺さ、ニナがたまらなく好き。どうにかなりそう。」



「…わ、私の方が、勝ってると…思います。」



「!……だめだ、俺、余裕ない。カッコ悪いとこ見せそう。」



「?ヴァンさんは、何してもかっこいいか可愛いかの2択です。」



「ん゛っ…あぁもう、不意に平気でそういうこと言う!」



「へっ!?」



ヴァンはニナを強く抱きしめる。



「…今日は歯止めがききませんので。」



「えっ、えっと、あの、お、お手柔らかに…お願いします…?」



「…善処します。」





愛が溢れ、優しくも深い深い夜になった。

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