第20話


翌日ニナは、アリサにヴァンとのことを報告し、盛大に祝福された。

そして、新しいヘアアレンジや、メイクを教えてもらった。




そして、出勤日。

今日は、ニナのお茶出し当番である。



「ニナ。」



ヴァンが、給湯室にやってきた。



「ヴァンさん。サボりですか?」



「冷たっ。氷の女王め。会いに来たの。」



「…疑われますよ。しばらくは黙っとくって決まったじゃないですか。」



ニナは、ヴァンに構わずコーヒーの準備をしているが、よく見ると耳が赤くなっている。



ヴァンは、そんなニナがたまらなく愛おしかった。



「じゃあ、戻るよ。」



「あっ、ヴァンさん。コーヒー、お砂糖入れますか?」



「え?」



「一昨日、コーヒーに入れてるの見たので…いつもは入れてるのかなって。」



ヴァンは甘党だが、

職場では格好つけてブラックで飲んでいる。



「バ、バレたか…。じゃあ、1本お願い。」



「ふふ、2本でしょ?」



「ゔ…はい。」



ヴァンは恥ずかしくなり、首を掻く。



「わかりました。」



「じゃ、業務頑張ってな。」



「はいっ。ヴァンさんも頑張ってください。」



「うん。」




しばらくすると、ニナがコーヒーを持ってきた。



「失礼します。」



「ありがとう。」



前と変わらぬ、いつも通りのやりとり。

しかし、変わったことが2つ。

1つは、コーヒーが甘くなったこと。

もう1つは、



「…?」



普段は、いつも使っているコースターの上にカップを置いてくれる。今日は、何故か別のコースターが付いてきた。ニナは何も言わず、他のデスクへ行く。コーヒーカップを上げると、コースターにメモが貼ってある。



−コースター、こっそりプレゼントです。

 良かったら、使ってください。 ニナ–



「……あー、好き。」



ヴァンはボソッと呟く。

そして、コーヒーを飲む。



「…甘いな。」



ヴァンは再び呟いた。






ニナはお茶出しを終え、自分のデスクへ戻ってきた。



「ねぇニナ、ヴァンさんの頭の上、お花畑なんだけど。」



アリサがコソコソ言う。

ニナはヴァンの方をちらりと見る。

たしかに、ぽわぽわと幸せそうな顔で、花が周りをくるくる回っているように見える。



「…ふふっ。かわいいね。」



「おーい、早速惚気んな。」



アリサはニナの頭にチョップを入れた。







そして、昼休み。

外のベンチにいるのは、いつもの3人である。



「なんか…オーラ違くね?ニナ。」



「え?そーお?」



「ルドには言ったら?」



「そうだね。…あのね、ルド。実は…ヴァンさんとお付き合い、始めたの。」



「ンッぇえ!?ヴァンさんって…あのヴァンさん!?」



「うんっ。」



「う、嘘だろ…!?」



「嘘じゃないよ。」



ニナの背後から声が聞こえた。

3人は立ち上がって後ろを振り返る。

そこには、笑顔のヴァンがいた。



「ニナとお付き合いさせてもらってます。改めて、よろしくね。」



ニナはポッと頬を染め、下を向く。



「でも、アードゥじゃないんすよね?」



「うん。でも、本気だよ。」



「……ニナも、なのか?」



「え、もちろん…!」



「………そっか。…ヴァンさん、ニナ泣かせたら、俺が許しませんからね。」



「絶対に泣かせない。」



ヴァンとルドは静かに火花を散らしている。



「あ、そうだ。ニナ、お客様が探してたよ。落とし物見つけてくれたから、お礼が言いたいって。」



「えっ!?そんな、いいのに…ちょっといってくる!」



ニナはヴァンと一緒に急いで戻って行った。





アリサとルドは、ベンチに座り直す。



「…アリサ。」



「ん?」



「今日、ちょっと付き合え。」



「…はいよ。…ふふ、アンタ、ニナにガチだったんだねぇ。」



アリサはその後、ルドの涙が止まるまで、何も言わずに隣に居続けた。


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