第18話



「もうちょっとだけ、話さない?」



ヴァンは、ニナを送りながら言う。



「はい、ぜひ。」



ニナは答えた。



2人は、先程ニナがいた公園へきた。

夜の公園には、誰もいない。



ニナはブランコに座り、ヴァンはブランコの目の前にある柵に寄りかかる。



「…ニナ、ひとつ聞いてもいい?」



「なんですか?」



「…さっき、さ。ニナ、アードゥなんか関係ないって、言ってただろ?その…自分の心で恋がしたいって…。」



「あ…そ、そうです、ね。」



「それって、アードゥの力には頼りたくないってこと?」



「…はい。私ずっと、リリアベルの祝福のこと、よく思ってなかったんです。魔法で勝手に恋させられるなんて…操り人形みたいで。私は自分自身の心で誰かを好きになりたかった。」



「でも、最初俺と話した時、アードゥを信じてる感じで…」



「あれは…周りに合わせたんです。職場で異質に思われるのは、嫌ですから。」



「…そうかぁ。なんだ、そうだったのかぁ…。」



「?」



「…変わらなかったんだね、ニナ。嬉しい。」



「え?」



「ごめん、俺、一個嘘ついてた。」



「嘘…?」



「ニナ、アードゥに会ったのに魔法にかからなかっただろ?おかしいと思わなかった?」



––あ、確かに。最初は好きでもなんでもなかった。



するとヴァンは、上着を脱ぎ、袖を捲り上げて左腕を露わにした。



「…え!?」



ニナは思わず立ち上がった。

ヴァンの紋様は、ニナと同じで薔薇と星が3つ描かれたもののはずだった。

しかし、今のヴァンの紋様には、星がなく、薔薇だけであった。



「…ごめん。俺…ニナのアードゥじゃないんだ。」



「ど、どういう、こと?」



「ニナは覚えてないよな。俺達、昔一度会ってるんだ。」



「えっ…」



「…俺もニナと同じで、昔からリリアベルの祝福に違和感があった。もちろん、この祝福がなければ、両親は結ばれずに、俺は生まれてこなかったから、感謝はしてる。でも、自分の意志のないところで働く想いが、本物だっていう奴のことが理解できなかった。今でもそう。それで幼い頃、つい道行く大人達に言ってしまった。気味が悪いって。お前達はどうかしてるって。…非国民だって、ボコボコにされた。愛の国って言われてるくらいだしな。愛が全ての国で、それを否定したら、そうなるよな。」



「…あ。」



ニナは、思い出した。

––そっか。あの時の…



「その時、俺を庇ってくれたのがニナだった。俺より小さい身体で、大人に立ち向かって…。その薔薇と星の紋様、よく覚えてるよ。ニナは自分の左腕の紋様を血が出るくらい引っ掻きながら、こんなのは呪いだ、俺の言うことは間違ってないって言ってくれた。ニナは1発殴られて倒れ込んだけど、女を殴った罪悪感で大人達は逃げて行った。ニナは腫れた顔で笑ってた。俺は救われたんだ。ずっと、自分は頭がおかしいと思ってた。でも、1人じゃないって思わせてくれた。俺は…あの時からずっとニナに惚れてた。ずっと会いたかった。…この支店に来た時、すぐわかった。ニナ、全然変わってなかったから。同じ職場だったなんて、奇跡かと思った。」



ヴァンがニナに一歩近付き、じっと見つめる。今にも泣きそうな顔をしている。



「やっと見つけた。やっと叶った。ずっとずっと、好きだった。これからも、ずっと好きだ。ニナ、俺と…付き合ってほしい。」



ニナの瞳がゆらゆら揺れる。

そして、ぼろぼろと涙が溢れ落ちた。



「…うん。私も、ヴァンさんが好き。…ありがとう、ずっと好きでいてくれて…」



「……ッ、〜〜ッッ、ニナ!」



ヴァンはニナを思いきり抱きしめる。

お互いがお互いの香りを感じ、胸がくすぐったくなる。



「ちょっ…苦しいって!」



ニナは笑った。



「嘘ついて、ほんとごめん。」



ヴァンはニナを抱きしめたまま言う。



「ふふ、私に近付くためだったんですよね?じゃあ、許しますっ。」



「…良かったぁああっ。嫌われたら死ぬとこだった。」



「それは大袈裟。」



「大袈裟じゃねぇよ。そのくらい好きなの。」



「ッ…。はい…。」



再び恥ずかしさが込み上げ、ニナは耳を赤くする。



「ね、名前呼んで?」



「え?…ヴァンさん?」



「…やっと呼んでくれた。」



「そ、そうでしたっけ。」



「ニナ。」



「なんですか?」



「好き。」



「ぅっ…」



「好きだよ。」



「は、はい。」



「好き。」



「わ、わかりましたっ!」



「ニナは?」



「…好きです。」



「…ふへっ。ニナは?」



「…好きですっ!」



「んんっ…ニナはー?」



「…大好き!」



「あっ…それはダメ、反則。」



ヴァンからプシューッと空気が抜ける。

そして、もう一度強くニナを抱きしめた。







夜も更けてきたので、

ヴァンはニナを家へ送って行った。



「ありがとうございました。」



「いーえ。…じゃあ…また…。」



「…はいっ。おやすみなさい。」



ニナは背を向け、家の玄関へ向かおうとする。



「…!?」



ニナの身体が後ろに引き寄せられた。



「…帰したくない…。」



「えっ…えっ。」



ニナの顔からボッと火が出る。



「…明日も会える?」



「あ…会え、ます…。」



「じゃあ、今日はこれで我慢する。」



ヴァンはニナを解放した。



「また、電話するから。」



「は、はい。待ってます。」



「じゃあね。おやすみ。」



ヴァンはニナの頭を撫でて、帰って行った。



ニナはシャワー浴びて自室へ戻ると、枕をぎゅっと抱きしめた。



––…んんんんんっ。嬉しい…嬉しい…ッ!



足をバタつかせる。



––ヴァンさんの彼女になったんだ…。



ニナは改めて感じた。

そして、ベッドの中で、今日のことを思い出す。嬉しさや恥ずかしさが睡眠の邪魔をして、一睡もできなかった。

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