第17話




「…クロエ!?」



ヴァンは驚く。



「やっほーっ。ニナちゃんとばったり会っちゃって!なに、2人ー?」



クロエは目の笑っていない笑顔を見せる。

そして、ニナを部屋へ押し込み、個室の戸を閉めた。



「お前には関係ないだろ。ほら、自分の部屋に戻れ。」



ヴァンは立ち上がり、クロエからニナを引き剥がして、こちらに引き寄せる。



「…なんなの。まさか、付き合ってるだなんて言わないわよね?」



「…俺の片想い。」



ニナはドキッとする。



「は!?片想い!?アンタ…こんなちんちくりんが好きなの!?」



「お前…自分がニナより勝ってるつもりかよ?」



「…私はね、ヴァンの為を思って言ってるの!ヴァンは、自分の価値をもっと自覚した方が良い。こんな女にのめり込むなんて、どうかしてる!自分の価値を下げてるのよ!?」



ニナは、ひどく傷付き、下を向く。

––そんなこと、私が1番、わかってる。



「おい、それ以上言うなら許さん。もういい、店員呼んで追い出させる。」



「なんで?なんでわかってくれないの?」



「ニナは、誰よりも強い意志を持ってる。お前なんかが語れる子じゃない。俺は、ニナがいたから、ここまでこれた。お前が俺に価値があるって言うなら、それはニナのおかげだ。勘違いしてんじゃねぇよ。」



「ッ!なんで…なんでよ!」



クロエはヴァンに近付いていく。

そして、彼の胸倉を両手で掴み、

自身の唇を、彼の唇へ近付けた。




そして、唇が触れた。




触れたものは、ニナの手のひらだった。




すんでのところで、ニナが自分の手を2人の顔の間に挟んだのだった。



「ッ!」



クロエとヴァンは驚く。




「だ、ダメ…です…。」



ニナは、空いている左手をクロエの肩に置き、顔を真っ赤にしてクロエを見ながら訴える。



「ッ。何すんのよ。」



クロエはニナの手を振り払い、距離をとる。



「…か、片想いなんかじゃ、ありません。」



「は?」



「…私も、ヴ、ヴァンさんが好きです。だから、クロエさんには渡せませんっ!」



「…!」



ヴァンは、心臓が飛び跳ねる感覚を覚えた。顔はもちろん耳まで赤くなり、全身が熱い。自分の心臓が、興奮して熱い血液を送りこんでいるようだった。嬉しさのあまり、声が出ない。



「…アンタ、自分がヴァンの価値を下げてるのが、わからないの?お荷物なのよ。自分がヴァンの足を引っ張ってんの。わかる?」



「…そうかもしれません。私は、なんの取り柄もない、ただの平社員です。…でも、ヴァンさんを好きな気持ちは、誰にも負けたくない!ヴァンさんが、私がいるから頑張れるって言ってくれるなら、私はそれを信じます。ヴァンさんのためにできることは、なんでもします!だから…ッ。」



ニナは息継ぎせず一気に想いを吐き出したため、息切れしてしまう。



「…はっ。馬鹿ね。アンタがいくらヴァンを好きでも、アードゥが現れれば、全部おしまいなのに。」



「…アードゥなんか、関係ないんです。私はずっと、魔法の効果なんかじゃなくて、自分の心で恋がしたかった!今、ちゃんと、自分自身の心で、身体で、ヴァンさんを想ってるんです!それが嬉しい。とっても嬉しい!今は、魔法に負けない自信があります。でも、クロエさんだって、そうでしょう?自分の心で、ヴァンさんに恋したんでしょ?それって、何よりも価値のある、かけがえのないものだと思いませんか?」



「なっ、何を知ったような口を…」



「とにかく、私は退く気はありません!」



ニナは力強く、言い放った。



「…はぁ、付き合ってられないわ。せいぜい恋愛ごっこでもやってなさい。それで後悔すればいい。」



クロエはヴァンに再度近付く。

そして、


––バチンッ!


ヴァンの頬を平手打ちして、部屋を出ていった。




「…わ…。」



ヴァンは、衝撃と驚きのあまり、座り込み、壁にもたれかかった。



「だ、大丈夫ですか!?」



ニナは、しゃがみこんでヴァンの頬におしぼりを当てる。



ヴァンは、頬におしぼりを当てるニナの手を握りしめた。



「…ニナ…。さ、さっきの…」



ニナは、先程の大告白を思い出し、顔から火が出る。煙が出そうだ。



「本心…だよな?」



「…〜〜ッッ!!」



ニナは、握られてない方の手を、勢いよく壁に押し当てた。



「ッそうですよ!私、ヴァンさんのこと、好きになってしまったんです!アードゥになんて、祝福になんて負けたくなかった!魔法なんて、クソくらえなのに!でも、好きになっちゃったんですよ!よりにもよって、アードゥを!ずっとずっと好きで、会いたくてたまらなくて…クロエさんのことだって、ずっと引きずってました!好きだから!なのに今度はほんとにキスされそうになってるし…私がいなかったら、思いっきりされてたんですよ!甘いんです!もっと危機感を持って…」



「ス、ストップ!」



「え?」



「ち、ちゃんと…聞きたいけど…心臓が…もたない…」



ヴァンは顔を背け、手のひらをこちらに向けて顔を隠している。手の隙間から、耳まで赤くなっているヴァンの姿が見える。今にもプスプスと煙が出そうだ。



その姿を見て、ニナもさらに赤くなる。

そして、急いでヴァンから離れる。



「…。」



「…。」



沈黙が流れた。



「あ、あのぉ…」



2人が声のする方を見ると、店員が飲み物とつまみを持ちながら、机に置けずに困っている。店員の顔が心なしか赤い。



––み、見られてた…!!!



「す、すみません…!」



ニナは飲み物とつまみを受け取る。

すると、店員は笑顔で、「応援してます」と小声で言った。

それを聞いて、ニナは再び顔から発火する。



そして、2人は提供された分だけ飲食し、すぐに居酒屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る