第16話


それからしばらく、ヴァンは忙しく支店にいないことが多かった。電話もかかってこない。その間も、ヴァンを想う心はより大きくなり、強くなり、身体の中をぎゅうぎゅうに埋めていく。



そして、とある昼休み。

ニナはアリサとルドと、外で昼食をとっていた。



「はぁ…」



「どうしたニナ。ため息なんかついて。」



ルドがハンバーガーを食べながら言う。



「え?ため息ついてた?ごめん無意識。」



「無意識ー?どうしたんだよ、最近なんかおかしくね?それに…なんか、その、可愛くなったっつか…」



「えっ、ほんと!?」



ニナはルドにぐいっと迫る。

ルドはニナに見つめられ、顔を赤くする。



「ほぉー、ルドでも気付くくらいだなんて、相当溜め込んでますねぇ、恋心。」



アリサはニヤニヤしながらニナを見る。



「こっ、恋心!?ニナ、好きなヤツいんのか!?」



ルドは驚きのあまり、ハンバーガーを落とす。



「え…まぁ…」



「誰だよ!?」



「えー?…そのうち、言うよ。」



「い、今言えよ!」



「そのうち!」



「何ムキになってんの、ルド。乙女にそんな迫るでない。」



アリサがルドを軽く牽制する。



「だ、だってよ…アリサは知ってんのか!?」



「ん、まぁねー。でもこれは女子間の秘密なので。」



「おい…じゃあ俺今日だけ女になるからさ!女子の制服着ればいいか!?」



「あははっ!なんだそれ!…大丈夫、そのうちちゃんと言うから。」



「これ以上は野暮ってもんだぞー。」



「んぐ…」



ルドは、それからそわそわと落ち着かなかった。






そして、金曜日の夜。



––明日は休みだし…電話しても、いいかな…。



ニナは、初めて自分から連絡しようと決意した。

しかし、自室だと電話をかける勇気が出なかったため、自宅近くの丘のある公園までやってきた。



「…よし、今日こそ。」



ニナはヴァンに電話をかけた。



––♪♪



「…もしもしっ。」



「あ、もしもし…今お仕事中ですか?」



「いや、今帰ってる最中!…ニナから電話くれるなんて…なんかあった?」



「いや…特に何も…。ただ…声、聞きたくて。」



「えっ!………ッ!に、ニナ、今どこ?」



「今は…公園にいます。」



「え、公園?」



「な、なんだか、外の空気が吸いたくて。」



「…今日、このまま出かけられる?」



「え?…だ、大丈夫ですけど。」



「じゃあ、飲み行かない?今から!」



「!…ぜひっ。」



そして、2人はこの間の居酒屋に来た。

この間は普通のテーブルタイプの個室だったが、今日は掘り炬燵タイプの個室である。



「掘り炬燵なんて、初めてです。」



「俺もかも。海外の様式だっけ?考えた人、すごいな。」



「じゃあ…ビールですか?」



「もちろん!」



2人は飲み物とつまみを頼んだ。



久しぶりに会えて、ニナは胸が高鳴っている。

––今日こそ言おう。ちゃんと。



「ちょっと、先にお手洗い行ってきますね。」



「ん。」



ニナは、化粧室で身なりを整えた。

––よしっ。



気合いを入れて、化粧室を出ようとした、その時。



「あれ、ニナちゃん!」



クロエが化粧室に入ってきた。



「く、クロエさん…お疲れ様です。」



「お疲れ様〜!何、飲み会?」



「は、はい。」



「誰とー?」



ニナはヴァンとは言いたくなかった。

ヴァンと会わせたくなかったから。



「う、うちの支店の人と、です。」



「…誰?」



「…だから」



クロエは、ズンと大きく一歩踏み出し、ニナに顔をぐっと近付ける。



「だぁれ?」



「ッ!」



「もうっ、ついていっちゃお〜っと。」



クロエはニナの背後にまわり、両手をニナの両肩に乗せる。そのままニナを押し出して、

ヴァンが待つ個室へと向かわせた。

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