第14話
翌日。
待ち合わせの10分前、ヴァンはニナの家へ向かっていた。
あともう少しで到着する。
「あ、あの…!」
後ろを振り返ると、ニナがいる。
「あれ、ニナ…?」
「す、すみません。ちょっと用事を済ませてて…」
ニナは目線を下に向けて言う。
「…かわいい。」
「へっ!?」
ニナがヴァンを見ると、彼は口を手で軽く押さえて、目を逸らしている。顔が少し赤い。
ニナは、後ろの髪を編み込んでおり、
普段はほとんどパンツスタイルなのだが、
黒のワンピースに白のジャケットを羽織っている。
早起きして、アリサにヘアアレンジとコーディネートをお願いしていたのだ。
「…行こっか。」
「は、はい。」
2人は微妙な距離感を保ちながら、水族館へ向かった。
水族館へ着くと、
大きな水槽が2人を出迎える。
「わあ!やっぱすごい!」
「来たことあるの?」
「はい!何回も!でも、何回来ても飽きなくて!イベント展示とかも定期的に変わるんですよ!それで、今月中にどうしても見たい展示があって!」
「ほんとに好きなんだな、水族館。」
「はい!」
ニナは生き生きとしている。ヴァンは、ぴょんぴょん跳ねるニナが、たまらなく愛おしい。
「ふふふ。申し訳ないですが、今日は私のプランに付き合っていただきますよ…」
パンフレットを両手で持ち、ニヤリとするニナ。
「そりゃ楽しみですねぇ。」
ヴァンは笑った。
しかし、ヴァンが思っていた以上にハードなスケジュールであった。
まず、14:00のイルカショーに間に合うよう、入口〜ショーの会場までの常設展示をまわる。昼食の確保は分担制。ニナがドリンクでヴァンがハンバーガー店に並んだ。
イルカショーの後は15:00から別会場でアシカショー。
そして16:30からペンギンのお散歩タイム。
走って移動し、17:10からセイウチのもぐもぐタイム。
「す、水族館は戦場だ…」
ヴァンはゼェゼェしている。
「本当は11:00から大水槽でイワシの餌やりがあるんですけど、それは今回残念ながらスルーです。私がもっと早く来れれば良かったんですけど…。」
「…じゃあ、今度はそれに間に合うように頑張って来ようか。」
「…え?いいんですか…?こんなハードなのに…」
「うん。なんか楽しい。こんな充実した水族館、初めて。」
「…そんな株上げなくてもいいのに。」
ニナはパンフレットで紅潮した顔を隠す。
「え、ほんとだって!…あとは、残った展示と…?」
「本日のメインイベント、深海の世界です!」
2人は、残った常設展示を巡り、最後に企画展である「深海の世界」ブースへやってきた。
深海魚や、潜水艦などの展示である。
「ニナ、深海の生き物が好きなの?」
「はい!1番好きです!ずっと来たくて…!しかも今日は特別にダイオウグソクムシを触れるんですよ!」
「ダイ…なんて?」
「ふふふ、行けばわかります。」
ダイオウグソクムシとのふれあいコーナーへやってきた。
「で…でかっ!?ムシ!?」
「ダイオウグソクムシです。顔がエイリアンみたいで可愛いんですよ。」
ニナは、ダイオウグソクムシの顔が見えるところまで、ヴァンの腕を引っ張る。
「ぅおっ!?」
「…ムシ、嫌い?」
「別に平気だけど…これはデカい!」
「かわいいのに。」
ニナはダイオウグソクムシの背中を優しく撫でた。
「触ります?」
「遠慮しときます。」
「遠慮なさらず。」
ニナはヴァンの手を掴み、ダイオウグソクムシの背中を触らせた。
ヴァンは、ニナが自然に自分の手に触れたことに、ドキッとする。
「どう?」
「なんか…無機物。」
「ふふ、何それ!」
その後、2人は一際暗い深海ブースを巡る。
ニナは、一つ一つの水槽や説明文をじっくり見ている。
「本当に好きなんだな、深海。」
「はい。深海って、まだ全然調査が進んでないんですよ。未知の世界なんです。いろんな可能性を秘めてて、素敵だし、ちょっと勇気ももらえます。自分にも、まだまだ未知の可能性があるんじゃないかって。」
ニナは、水槽を見つめながら言う。
「…そっか。俺ももっと見てみようかな、深海の世界。」
「え!どうしたんですか!」
「ちょっと興味湧いた。パンフレットもらって帰るよ。」
「私、おすすめの深海DVD持ってるんです!今度貸しますね!」
「…一緒に見ないんですか?」
「へっ!?」
「…もしよければ、俺んちで。」
「あ、わわ…えと…その、い、いつか、そのうち…はい。」
2人とも、顔が真っ赤になる。
「…じゃ、次行こっか。」
「はい…。」
2人は、残りの水槽を見てまわった。
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