第13話


「とは言うものの…私は何をすればいいんだろ?」



ニナは自室でぶつぶつ呟いている。



「…あ、こういう時は、ゲームを思い出せばいいんだ。なんてったって、百戦百勝。私がオトせなかった男はいないんだから!よし、戦略は…」



しかし、見つめてくるヴァンの顔を思い出すだけで、ボッと発熱する。



「…くそっ…やるな…。ラスボスかよ…勝ち目がねぇ…」



ドンッと床に両手をつく。

三文芝居である。



「…もし私がクロエさんだったら、自信持って、いろいろ上手にできたんだろうな…。」



ニナはベッドに転がり、ため息をつく。



––♪♪



「ぅえ!?」



ヴァンから着信だ。



「…は、はい。もしもし。」



「あ、こんばんは。今、大丈夫?」



「はい、大丈夫です。」



ニナは、なんとなく正座してしまう。



「どうしたんですか?」



「…あー、んと、特に用はないんだけど…」



ニナは、用が無いのに電話をかけてきてくれたことに、ドキッとする。

そして、膝の上に置いている右手に、きゅっと力をこめた。



「…い、今、何してるんですか?」



「今?風呂から出たとこ。ニナは?」



「私も、そんな感じです。」



––プシッ。



「あ、お酒ですか?」



「うん。ビール。」



「家でも飲むんですね。」



「たまにねー。ニナは飲まないの?」



「家じゃ、なかなか飲まないかなぁ。親いるし。」



ニナは膝を崩して壁に寄りかかった。



「そっか。お酒は好きなの?」



「好きですね。毎日飲みたいとは思わないけど。」



「じゃあ、また飲み行こう。」



「…はい、ぜひ。」



ヴァンは、「ぜひ」という言葉だけで、嬉しくなって頬を染める。



「…今日、街でクロエさんに会いました。」



「…え!?」



ヴァンは、思わず立ち上がった。



「大丈夫だった!?」



「…大丈夫じゃない、です。でも、私は、副支店長の言葉を信じます。そう決めました。」



「ニナ…」



「だから、裏切らないでください。絶対に。私のこと…その…お、思っているなら。」



「…わかった。約束する。」



「…はい。」



「……ッだぁあっ!どうしよ…」



「!?…どうしました?」



「…会いたい。」



「…!」



ニナの心臓が大きく脈打つ。

みぞおち辺りが、くすぐったい。



「声聞いたら、会いたくなった。会って話したい。」



「…あ、会います、か?」



「え?」



「明日…だったら、空いてます。」



「いいの?」



「…いいです。」



「…ッッ。どっか行きたいとこ、ある?」



「…水族館、好きです。」



「わかった!明日の10時頃、家の前まで迎えにいく!」



「じゅ、10時ですか!?えと…11時とかでもいいですか?」



「いいよ!…あ、朝苦手?」



「まぁ…そんなとこです。」



「ははっ。わかった、じゃあ11時で!」



「はい。じゃあ、おやすみなさい。」



「おやすみ!」



電話を切った。

そして、ニナは急いで電話をかける。



「もしもーし。」



「あ、アリサ!お願いがあるんだけど…!」

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