第12話


休日。

ニナはアリサとショッピングを楽しんでいた。



2人は歩きながら会話をしている。



「新作リップ買えてよかったぁあ!付き合ってくれてありがと、ニナ!」



「そんな人気なんだねぇ、そのブランド。」



「うん!新作出たらすぐ完売しちゃって、3ヶ月待ちとかになるんだから!どーしても欲しくて!」



「とてもわかる、その気持ち。」



「…ゲームだろ。」



「ご明察!」



「もーっ。ニナ、めっちゃ素材いいんだから、ちゃんとメイクしてみなよー!ヴァンさんもイチコロかもよ?」



「なっ、なんであの人が出てくるのっ!」



「髪型も、昔からずーっと変えてないんでしょ?」



「これが楽なんだもん。」



「もったいなーい!」



「あら、ニナちゃん?」



「!」



前からクロエがサングラスを外しながら歩いてくる。

白のデニムにグレーのスリムニットというシンプルな格好だが、抜群のスタイルを際立たせている。



「クロエさん…お疲れ様です。」



「奇遇ねー!隣はお友達?」



「あ、えと、同期のアリサです。アリサ、こちら副支店長の同期の方で、クロエ・オニキスさん。」



「そうなんですね!私、アリサ・シトリンです!よろしくお願いします!」



「うん、元気で可愛い。私はクロエ。よろしくね。ヴァン、アイツ八方美人だし、何考えてるかわからないとこあるかもしれないけど、根はいい奴だから。悪く思わないでやって。」



「あー…はい!わざわざありがとうございます!」



アリサはニナの様子を気にしながら言った。



「ニナちゃん、あの後大丈夫だった?」



「え?」



「アイツ、結構がっつくとこあるから、心配で…」



「…いや、特に何もなかったです、よ。」



「え?そうなの…?…じゃあ私にだけ…?まぁでも、年下の可愛い系の子はタイプじゃないって言ってたし…」



クロエは、わざとらしく考え込む。

アリサはそれを見てムッとする。

ニナは、自分の服の裾をキュッと握りしめる。



「あのぉ、ヴァンさんは節度ある優しい上司ですし、大事な子を急に襲ったりする人じゃないと思いますよ♪」



アリサはニコニコ話しているが、ニナにはわかる。

––アリサ、めちゃくちゃ怒ってる。



「ふふ、ヴァン、全然素を見せてないのね。結構燃えやすい男なのよ。面倒見るの、大変なんだから。」



「ッ…。」



ニナは、今すぐここから逃げたい気持ちである。



「あの、私達この後予定あるんで失礼しますね。」



アリサはそう言うと、ニナの手を引いて歩き始めた。



「またね、ニナちゃん。」



「…失礼します。」







そして、クロエと十分に離れた後、アリサが唸り始めた。



「っだぁぁあああ!!何あれ!?超ムカつく!容姿が良いからっていい気になりやがって!!ニナ、あんなヤツの言葉気にしなくていいからね?」




「…うん。クロエさんとは、2人で飲みに行った以上のことはないって聞いてるから…。」



「え、じゃあさっきの全部嘘じゃん!…はぁー性悪女め、ぶん殴ってやりたい。」



「でも、どこまで嘘なのか…」



「ニナは、信じていたい方を信じればいーの!…そんで、もしそれが違ったら、思っきしぶん殴ってやればいい!むしろ私がぶん殴る!」



「…ふふ、アリサめっちゃ殴るやん。」



「ボコボコですわ。ニナ、もし傷ついたり、苦しかったりしたら、私にすぐ吐き出してね。私はいつでもニナの味方だから!」



「…ぅぅうアリサぁ。ありがとぉお。」



ニナはアリサに抱きつく。



「ふっ、かわいいやつめ。」



アリサはニナの頭を撫でた。





そして、夕方になり、2人は解散した。



その帰り道、ニナはクロエとアリサの言葉を思い返していた。



––クロエさんは、ああ言ってたけど…アリサの言う通り、私は信じたい方を信じよう。クロエさんに…負けたくない。



ニナは、アリサに背中を押され、自分の気持ちが確かなものになってきていた。

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