第11話



––これは、私自身の気持ち…。



ニナは、今日一日アリサから言われた言葉を噛み締めていた。



そして、今日の勤務を終えて帰り支度をする。



「あ。」



外へ出ると、ヴァンとルドに会った。



「お疲れ様です。」



ニナはペコッと頭を下げて2人に挨拶する。



「おつかれ!ニナは帰りか。」



ルドがニナに駆け寄りながら言う。



「うん。外回りの帰り?お疲れ様。」



「…?ニナ、泣いた?」



「え?」



「目、赤い。」



その言葉に、ニナとヴァンは驚いている。


––バレないように、化粧直したのに…。


––何かあったのか…?それに…この子、すぐに気付くなんて…。



「あくびしただけ!紛らわしかったね、ごめん!」



「…なんだよ!心配して損した!でも、なんかあったらすぐ言えよ!昼だってアリサに連れてかれちゃうしさ…」



「うん!でも、ほんとになんでもないの!ありがと、ルド。」



ニナは、ルドに満面の笑みを見せる。

ルドは、笑顔でニナの頭を撫でた。



「じゃあ、お先に失礼します。」



ニナは帰って行った。



「…本当に仲良しなんだね。」



ヴァンはルドに言う。



「ずっと一緒にやってきてますからね!…まぁ、あいつは特別ですけど!」



ルドはニッと笑う。



「…その、付き合ってる、の?」



「え!まままさか!…まさか。」



ルドは少し顔を赤らめ、軽く下を向く。



「…そっか。寒いから、中に入ろう。」



「そっすね!」



ヴァンとルドは中に入っていった。



ヴァンは冷静を装っていたが、気が気ではなかった。

それと同時に、先日のクロエとの件を思い出していた。



––ニナに謝りたい。そんで、ちゃんと気持ち伝えたい。



ヴァンは急いで仕事を片付けた。









ニナは、一度帰った後バッティングセンターに来た。



––♪♪♪ホームラーン!


––♪♪♪ホームラーン!


––♪♪♪ホームラーン!



周囲の人間が、唖然としている。

もう、プロ野球選手になれるのでは。



ニナは休憩スペースの自動販売機で飲み物を買う。それを飲みながら、時刻を見るため鞄からスマホを取り出した。



「ん?」



不在着信3件。…全てヴァンである。



「あ…連絡先、交換したんだったか。」



ニナは折り返そうか迷った。

しかし、仕事の話の可能性もある。無視はできない。



––♪



「!」



ちょうどヴァンから着信だ。



「……は、はい。」



「ニナ!?今、どこにいる?」



「えと…」



––カキンッ!



「…あのバッティングセンター?」



「あ…はい。」



「待ってて。すぐ行く!」



「えっ。」



電話は切れた。

とりあえず、休憩スペースで待つことにした。



10分後、ヴァンが息を切らしてやってきた。

スーツのままである。



「ハァ…ハァ…ニナ…待たせてごめん。」



「いや…そんな急がなくても…」



「その…すぐ会いたくて。」



「…!」



その言葉に、悩みも冷静さも全部持っていかれる。代わりにやってきたのは、身体の火照り。



「…もう打ち終わったの?」



「はい、帰ろうと思ってたとこで。」



「じゃあ、送ってってもいい?」



「あ…はい…。」



ニナとヴァンは、バッティングセンターを出た。




「…あの、今日は謝りたくて。」



「?」



「…クロエのことだけど。」



「…。」



「同期以外のなんでもないから。正直に言うと、2人で飲みに行くこともあった。でも、それ以上のことはない。俺はあいつに、そういった感情はない。全く。この前の…なんか初めてされた。だから俺も動揺して…」



「別に、気にしてないので大丈夫です。」



「え…」



「私達は上司と部下。クロエさんと同じ、会社の仲間。だから、気にする必要ないかと。」



「…嘘。」



「え?」



「嘘…で…あってほしい…です。その言葉…。」



ヴァンは悲しい顔で、下を見ながら言う。



実際、ニナも相当強がって出てしまった言葉である。

ニナは、余裕のないヴァンの様子を見て、強がりの自分が少しずつ破壊されていく。




「…んで…」



「?」



「なんで…私の中に入ってくるの。」



「え?」



「私の中で、貴方がどんどん大きくなって…戻りたいのに、戻れない。振り払いたいのに、振り払えない。悪霊なんですか?」



「あ、悪霊…?」



「…悲しかった。悲しかったです。貴方は、私にこんな迫っておきながら、他にいい人がいて…。」



「本当にごめん…。でも俺は、ニナしか見てない。クロエをいいと思ったことはない。これからも、そう。それは信じてくれると嬉しい。」



「……善処、します。」



ニナの目には涙が溜まっており、今にも溢れそうである。



「…あの、触れてもいいですか。」



「…い、今だけなら。」




ヴァンはニナをふわっと優しく抱きしめた。





ニナは、顔に触れる程度だと思っていた。しかし予想をはるかに上回り、ニナの涙は引っ込み、顔が一瞬で真っ赤になった。



「な、ななな…」



頭の中も目もぐるぐると回る。

恋愛初心者には、キャパオーバーである。



「…ニナ?」



ヴァンは少しだけニナを離した。



「ななななな!」



ナナナマンである。



「え?なんて?」



ナナナマンは、ヴァンから離れた。

全身真っ赤で、蒸発しそうである。



「なーっ!恋愛上級者め!」



ニナはヴァンを指差してそう言い、走り去ろうとする。



「ちょ、ニナ!待てって!」



「待ちません!お疲れ様でしたーっ!」



「あぁもう…。ニナ!俺、誰にも負けないから!」



「…え?」



ニナは立ち止まって振り返った。



「負けないから!」



「…?…頑張って、ください?」



ニナは言葉の意味がわからず、とりあえず応援した。



「ふはっ、さんきゅ!」



「…へへ、お疲れ様でした!」



ニナは最後に笑顔を見せ、走って帰っていった。



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