第10話
ニナは、翌日もその次の日も心のモヤモヤが晴れず、二日酔いのせいということにして誤魔化していた。
そして、出勤日。
ヴァンは今まで通り、ニナを特別意識することなく仕事をしている。
それから3日が経った。
––意識してんのは、こっちだけか。
「…て、何意識してんだ私。」
「え?なんか言った?」
アリサがニナの独り言に反応した。
2人は今、隣同士で窓口をしている。
「え?いや?」
ニナは無理矢理すっとぼける。
「なんかさー、ヴァン様、今週元気ないよねぇ。」
アリサが遠くにいるヴァンを見つめながら言う。
「え?」
ニナは驚く。
「なんかあったのかなぁ。」
「アリサ、わかるの?」
「え?何が?」
「副支店長の気持ち。」
「えー、見ればわかるよ。負のオーラ出まくり。」
「え…全然わかんないんだけど…。」
「うっそ!めちゃくちゃわかりやすいじゃん!」
ニナには、どう見ても落ち込んでいるようには見えなかった。
「…3次元、ムズい。」
「え?なんて?」
「なんでもない。」
ニナは少し安堵した。
そして、ニナは気付く。
––あ、あれ?私…喜んでる?
––しかも、私のことで悩んでるって期待してる?
「…はぁ。私の心に…入ってこないで…。」
「……。」
そして、昼休み。
「ルド、ごめん、今日ちょっとニナ借りる!」
アリサが突然言い出した。
「は?どゆこと?」
ルドは頭に?が浮かんでいる。
ニナも同じくである。
「今日は1人でご飯食べて!」
「あ、ちょ、おい!」
「え?ちょ、アリサ!?」
アリサはニナを外へ連れ出した。
ニナとアリサは弁当を買い、外のベンチに座る。
「アリサ、急にどうしたの?」
「どうしたの、はこっちのセリフ!」
「え?」
「私、とっても勘が良いんだよ!…ヴァンさんと、何かあった?」
「…!」
「図星ね。さぁ!正直に話してごらんなさい!」
––本当のことを話したら、この友情はどうなる…?
ニナの額から、だらりと汗が流れる。
「…あ、あの…」
「うん。どした?」
アリサが優しい目で見つめている。
「…実は、副支店長が…私の…アードゥ、みたいなの…。」
「え!?」
「副支店長が教えてくれてね。でも…私は全然好きになれなくて…適当にあしらってたんだけど…最近、モヤモヤがとれないの。彼が頭から消えてくれない。こわい。すごくこわい。私が私でなくなりそうで…」
ニナは泣きながら、思いを吐き出した。
「…そっか。1人でよく頑張ったね。でもね、それは認めてもいい気持ちだと思うよ。アードゥってさ、見た瞬間に相手に惚れちゃうんでしょ?でもニナは違う。心が揺れ動いて、揺れ動いて、少しずつ、気持ちが彼に傾いてる。それってさ、ニナ自身の気持ちなんじゃない?」
「…私…自身の…?」
「うん。自分自身の心から芽生えた感情なら、それを大切に育ててあげても、いいんじゃないかな?」
「…そう、なのかな…。」
「そうだよ!…大丈夫!もし、ニナがニナでなくなりそうな時は、私がぶん殴ってあげるから!」
「アリサ…。」
「あ、言っとくけど、私ヴァンさんに本気なわけじゃないからね?…って、わかってるか。ま、でも、本気だったとしても、ニナのこと嫌いになったりしない。むしろニナが自分の気持ち隠してる方が嫌かも。私、ニナの親友だと思ってるから!」
「…私も…私もアリサが1番の親友だよ…。ありがとう…本当に…。」
ニナはぼろぼろ泣いている。
「…ちょ、やめてよ!そんな…泣かないで…こっちまで…」
アリサもつられてぼろぼろと泣き始めた。
「ニナ。私、ニナのこと応援してるから!どんな道を選んでも!」
「…うん!ありがとう。アリサに話せて、良かった。」
「やーん、照れちゃう!」
アリサはニナに抱きついた。
「…私、アリサにこのこと言うの、ずっと躊躇ってたの。もし話して、アリサが離れていったらどうしようって…疑ってごめんなさい。」
「…ふふ、正直に話してくれて、ありがと。まぁ正直、私もニナの立場だったら、躊躇ってたかもだし?おあいこってことで!」
「…ふふ、アリサ大好き。」
「それ、ヴァンさんにも言ってあげて♪」
「そ、それは…まだ…」
「おぉい、恋愛初心者。て、私もか。…ほれ、顔直しに行くべ。」
「イエッサー。」
2人は笑い合いながら、化粧室へ向かった。
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