第7話
「ニナ、おはよう。」
「げっ!?」
出勤の途中、ヴァンがニナを待っていた。
心の準備をして来たはずだったが、遭遇があまりに早すぎて、動揺してしまう。
「一緒に行こう。」
「あ、あの…」
「ニナが心を開いてくれるまで待つとは言ったけど、アタックしないとは言ってないよ?」
「っ…。」
もう呼び捨てが当たり前になってるし。
ヴァンは勝手にニナの隣を歩き始めた。
「今日は天気が良いねぇ。」
「…そうですね。」
実際、曇ってるし、そうでもない。
「あ、あの犬かわいい。なんていう種類かな?」
「…チワワかと。」
見りゃわかる。
「…ね、今度ご飯でも行かない?ニナのこと、もっと知りたいし、僕のことも、もっと知ってほしいんだ。」
第三者から見れば、超絶イケメンに迫られてるなんて、羨ましいとしか出てこない。
しかしニナは、げんなりしている。
「…私は別に知りたくないので…」
「そんな冷たいこと言わずに、さ!」
「…考えときますね。」
「ほんと!?やったね!」
ヴァンは、無いはずの尻尾を振っているのが見えるくらい喜んでいる。
…そんなに喜ばれると、断りにくいんですけど…。
そんなことを考えていると、職場に到着した。
「え!?お、おはようございます…!い、一緒に出勤…ですか!?」
後ろから、アリサが声をかけた。
隣にはルドもいる。
ま、まずい…何て説明しよう…。
「おはよう。さっき、ばったり会ってね。君達の話も聞いたけど、とても優秀なようだね。この調子で頑張ってね。」
「えっ!ああありがとうございます!!!」
ヴァンはニコッと笑うと、自分のロッカーへ向かった。
…隠してくれた?まぁ、彼もバレたらいろいろ面倒か。
「あーびっくりした!朝からヴァン様と話せるなんて!ニナ、ラッキーだね!」
「あぁ…うん…」
––アリサが、私のアードゥだと知ったら、どんな反応をする…?いや、アリサは副支店長に本気なわけじゃない。…でも…。
ニナは不安になった。魔法が、友情すら壊してしまうのではないかと。ニナは、やはりアリサに告白できなかった。
それから、ヴァンの「人目を盗んでアタック作戦」が始まった。
ニナに書類作成やコピーを頼んでデスクに持ってこさせたり、ニナのお茶出し当番の時に給湯室に現れたりした。その際に、できるだけたくさん話しかけて、食事にも誘った。
ニナは、より一層げんなりした。
仕事は増えるし、仕事の邪魔だし。
なにより、あの完璧で顔面が神のヴァンが、なんの取り柄もなく普通顔の自分にのめり込んでいることが恐ろしかった。魔法の威力は、ここまで凄まじいものなのかと、実感せずにはいられなかった。
そして、とある金曜日。
リリアベルデーのため、終業チャイムが鳴ると、皆急いで帰り支度をする。
ニナはゆっくり支度をし、久しぶりに1人で帰宅していた。
「ニーナ。」
後ろから、声をかけられる。
既に聞き飽きた声だ。
––今日こそ言おう。
「…あ、あの!」
ニナが振り返る。
「ん?…もしかして、食事の返事…!?」
ヴァンは喜ぶ。
「…いえ…。あの、私、申し訳ないんですが、副支店長の気持ちには応えられません。私は貴方に気持ちは無いし、これからも生まれない。だから、ほんと、申し訳ないんですけど…」
「…それ、本気?」
「…はい。すみません。」
「…アードゥでも?」
「はい。」
「……おかしいと思わないの?」
「…え?」
「……まぁ、いいや。わかったよ。」
とても聞き分けが良く、ニナは拍子抜けする。
「じゃ、お疲れ様。」
ヴァンはニナを通り過ぎ、家へ帰って行った。
––何、あっけな。結局遊びだったの?
ニナの心の中に、少しずつ苛立ちが生まれ始めた。
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