第5話


それから数日後。

終業時刻になり、各々帰り支度をする。

今日は金曜日、リリアベルデーだ。

多くの企業が、リリアベルデーは残業をさせないようにしている。アードゥパーティーに参加できるようにするためだ。

ニナの勤める銀行も、例に漏れずノー残業デーとなっている。



「俺、今日弟迎えに行かないといけないんだ。先に帰る。」



ルドが急いで支度をしている。

彼には2歳下の弟がいる。弟は身体が弱く、入退院を繰り返しているようだ。



「今日、退院だったっけ。」



ニナが聞く。



「おう!久しぶりに、美味いもん食わせてやるんだ!」



「ふふ、たらふく食わせてあげな。」



ニナが微笑む。



「気をつけてね!」



アリサが言う。



「お前らもなー!じゃ、おつかれ!」



ルドは帰っていった。






「…あいつ、なんでモテないのかなぁ。」



ニナと帰りながら、アリサが言う。



「良い奴なのにね。」



ニナは笑う。



「ニナ、今日もパーティー行かないの?」



「うん!今日、新しいゲームが届いたから!」



「相変わらずだねぇ。」



アリサは笑う。



「今日ずっと楽しみにしててさぁ。早起きして、出勤前にコンビニで受け取ってきたんだから……あれ、あれ?」



鞄を漁る。ゲームの袋が無い。



「…うわ、最悪。ロッカーに置いてきたかも。」



「ありゃ!大変じゃん!」



「…ごめん、銀行戻るわ。今日はここで!」



「うん、まだ開いてるといいね!」



「そうだ…今日金曜じゃん。急いで戻る!じゃあね!」



「はいよー。おつかれ!」



ニナは走って銀行へ戻った。





銀行に着き、扉を確認すると、まだセキュリティはかかっていなかった。



急いで女子ロッカーへ向かう。



「…あった、良かった…。」



ニナは袋を大事に鞄へしまい、出入り口へ向かった。



「…あれ、ニナさん?」



出入り口付近で、後ろから声をかけられた。

後ろを振り返ると、ヴァンがいる。



「あ…副支店長。お疲れ様です。」



「忘れ物かい?」



「あ、はい。すみません、もう帰ります。」



「…ちょうど良かった。ニナさん。君に伝えたいことがあるんだ。」



「え…?」



ヴァンは、何故かジャケットを脱ぎながらニナに近づく。



ニナは驚いて後退りし、扉にぶつかる。



「急にごめんね。でも、今から言うことの方が驚くと思う。」



「な、なんです、か…?」



しばらく、沈黙が続く。



そして、ヴァンが口を開いた。



「…ニナ。僕が、君のアードゥだって言ったら、どうする?」



「………え?」



ヴァンはスーツを半分脱ぎ、左腕を露わにした。



左腕には…ニナと同じ、薔薇と星が3つ描かれた紋様。



「……え、……え!?」



ニナは驚きを隠せない。

ヴァンはニッコリと微笑む。





波乱の幕開けだった。

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