第4話

 

ヴァンは、すぐにこの支店に馴染んだ。次々に仕事を片付け、この支店の長所や短所もすぐに見抜き、支店長達とも意見交換をするようになった。昔からここにいたかのようだ。



そしてヴァンがこの支店に来て1ヶ月後、ヴァンは上司からも部下からも慕われ、皆が彼を頼るようになっていた。




とある昼休み、ニナとアリサとルドは外のベンチに並んで座り、いつものようにお喋りしている。



「ヴァン様、マジですごいよね。」



「副支店長?まぁ確かに、めちゃくちゃすごい人だとは思う。」



「ニナが誰かに興味持つなんて、天変地異だ!」



「いや、すごすぎて別に意識してなくても、目や耳に入ってくるし…て、失礼だぞ!ルド!」



ニナはルドの頭をぐりぐりする。



「ヴァン様、もうアードゥ見つけてるのかなぁー。」



「公私ともに充実してそーだよな。」



––アードゥ…生き生きと自分の力を発揮している彼でも、家に帰ると操り人形になっているのかな…。



「ニナ?」



「えっ?」



「どしたの?暗い顔して…」



「そ、そう?」



「あ、さてはヴァン様にアードゥがいたらどうしよって考えてた!?」



「は?」



「ついに、ニナが恋心を…!?」



「な、なんでそーなんの!全然違うし!」



アリサは1人で盛り上がっている。

ルドは、何も言わずに少しムスッとしている。






「…なになに、アードゥの話?」



3人は、バッと後ろを振り返った。



「…!」



「…ふ、副支店長…!」



後ろには、ヴァンが立っている。

アリサはバッと立ち上がった。



「ふふ。君達、仲が良いね。」



「あ、あわわわわわわ…」



アリサがあたふたしている。

ヴァンの笑顔に、ノックダウン寸前である。



「…ルド君にニナさんにアリサさんだね。こうやって話すのは初めてだね。改めて、よろしく。」



「な、なんで俺達の名前…」



「支店のみんなの名前は把握してるよ。…引き継ぎや自分の仕事で、みんなに挨拶できていなかったからさ。やっと仕事が落ち着いたから、今挨拶にまわっているところなんだ。」



「そそそんなご丁寧に…」



アリサは顔を赤くして言う。



…人たらしだな。

ニナはヴァンに対して思った。



「みんなアードゥの話をしてたみたいだけど、お相手はもう見つかったのかな?」



「い、いえ…!まだ誰も見つかってなくて…!」



「そっか。早く見つかるといいね。アードゥは心の拠り所だもんね。」



「はい!出逢うのが楽しみです!」



「ふふ、頑張ってね。応援してるよ。」



ヴァンはアリサとルドを見た後、ニナをじっと見ながら言った。



––…まずい。アードゥに興味が無いって上司にバレたら、この銀行に居づらくなる。そんな思考、異常だから。



「は、はい。ありがとうございます。今以上に頑張れそうです。」



ニナは、心にもないことを口にした。



「…何かあったら、遠慮なく相談してね。いつでも力になるから。じゃあね。」



「ああありがとうございます!」



アリサはシュバッとお辞儀をした。



そして、ヴァンは軽く手を振って店の中へ戻っていった。



「…はぁあああっ。近距離ヴァン様イケメンすぎて死ぬかと思ったぁあ。」



「…まぁ、たしかに顔面は神だね。」



「え?なんて?」



「ううん、なんでも。」



「ニナ、惚れたのか?」



「まさか!なんか、胡散臭い。」



「は!?ニナ…呪われるよ!?」



「誰にだよ!」



アリサはニナにドン引きしており、ルドは少しホッとしている。



「てか、顔なら俺も負けてなくね!?」



「……。」



ニナとアリサはルドを見たまま何も言わない。



「おい!」



「あ、時間だ。戻ろう。」



「賛成。」



ニナとアリサは立ち上がり、店へ戻る。



「おい!なんか言えよ!」



ルドは2人を追いかけた。

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