焼き鳥を食べる話

常盤木雀

焼き鳥

「焼き鳥、おいしいね」


 そう言って笑う彼女に、私は笑い返すことしかできない。


 彼女は無垢だ。無知で、無邪気で、愛らしく笑う。

 私は彼女を嫌いではないし、私自身彼女に絆されている自覚はある。それでも、皆騙されすぎだと呆れたくなることもある。


 ――その焼き鳥、元は今日触れ合いパークであなたが可愛い可愛いとはしゃいでいた鶏だよ。


 そう言ってやれたら、どれだけすっとするだろうか。


 私はいつでも彼女のお世話係だ。

 同い年で、彼女だってそれなりの年齢だ。血縁関係もなく、彼女自身に支援が必要な何かがあるわけでもない。世話をしなければ良いのかもしれない。

 しかし、そばにいれば、彼女の無邪気さに危うさを感じて、手助けしなければならないような気持ちになってしまうのだ。同時に、彼女の様子に気を配ることに疲れてもいる。

 いい加減落ち着いて、対等な、支え合えるような関係になれないものか。私が世話を焼くのではなく、互いの不足を補うような、それぞれが自分の楽しみに没頭できるような、そんな友人にはなれないか。



「口元、汚れてるよ。ほら」


 ペーパーを渡せば、嬉しそうに笑う。


「ありがとう」


 口を拭う彼女に、もっと右だと指摘する。彼女は真剣な表情で汚れを探し、成功を告げると顔を明るくする。


 ――わかっている。

 あれこれ言っても、結局私も彼女に惹かれているのだ。困ったやつだと思いながらも、離れない言い訳を探している。

 他の皆は彼女を甘やかすけれど私は違う、とか。彼女は私がいないとだめだ、とか。都合よく考えかけては我にかえって、それでも彼女に苛立つこともあって、どうしたら良いのだろう。


 彼女は私といて楽しいのだろうか。文句ばかり言うつまらない人間と、渋々ながら交流しているのかもしれない。

 目が合えば微笑む彼女の本心は、振る舞いどおりに無垢なのだろうか。



 彼女はまた焼き鳥を口に運んでいる。



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