掌編小説・『おやじギャルの晩酌』

夢美瑠瑠

掌編小説・『おやじギャルの晩酌』

 


 私は庭野・涼女すずめというどこにでもいるようなありふれたJKなんですが、最近毎晩お父さんのご相伴にあずかっているうちに夕食に焼き鳥でビールをいただくのが癖になってしまったんです。

 焼き鳥にビールで晩酌なんてホントおじさんみたいで、とてもBFなんかには言えないような恥ずかしさもありますが、アルコールと肴の取り合わせとしては昔から定番中の定番になっているこの絶妙のコンビネーションは、やはり人間の味覚をとりこにするような強烈な魔力、呪縛力があります。

 もちろん未成年なのでそんなに大っぴらにビールを呑むわけにはいかないのですが、お父さんも喜ぶし、そんなに大酒を呑まなければ「百薬の長」だわ、と正当化して、実は病みつきになっている「黄金コンビ」の晩酌を毎夜楽しんでいるのです…


 夕方、皆が一日の労働から解放されて家路についているころから、父と私は食卓について早々と「焼き鳥にビール」の晩酌を始めます。

 ビールはキンキンに冷えて、レンジで温めた焼き鳥は湯気を上げています。

 「おひとつどうぞ」と、私は二人のグラスに泡立っている甘苦いビールを注ぎます。「おう。すまんな」美しく成長した娘と晩酌ができて、父は満足そうです。

 「乾杯!」と、父が言うので、「CHEERS!」と、私は覚えたての英語で応えます。

 母がまだ台所で忙しく献立を用意しているときにこうやってアペリティフみたいに焼き鳥で一杯やる感じがすごくうきうきして楽しくて、満たされた家庭の幸福を感じます。

 ぐーっと冷たいビールを流し込むと、芳醇な味と香りが口腔内にじゅわっと広がる。炭酸の刺激がたまらない。

 私はまず茶色い焼き色のついている焼き串の端をつまんで、持ち上げる。甘辛いタレのかかった焼き鳥にかじりつくと、まごうかたない濃厚な美味。さっきのビールの苦みととろけあって、頭の芯が痺れるほどおいしい。

 間髪を入れず二口目のビールをごくん、とやる。大人っぽい精妙なビールの風味と鳥の肉の旨味とべっとり絡んだ甘いタレの絶妙のハーモニー。

 それら全部を舌の上でしっかり咀嚼して、味わい尽くす。これぞ至高のひと時、です。

 苦いはずのビールが甘く感じるほどの絶妙の味覚のパラダイスです。


 焼き鳥の串には鳥肉と白ネギが交互に刺さっていて、この白ネギも少し辛くて香ばしくてシャキシャキして美味しい。

 鴨葱かもねぎ、とかいうけど鳥肉とネギというのも黄金バッテリー、唯一無二の好一対、だと思います。


 …一本の焼き鳥をすっかり平らげるころには、少しビールの酔いが回っていて、私も父も陽気な、饒舌な感じになります。

「涼女はほんとに焼き鳥が好きだな。シアワセそうに頬張っているなあ。だけど「毎晩焼き鳥でお父さんと一杯やっている」とかあんまりよそでは言うなよ。お嫁の貰い手がなくなるかもしれん」

「分かってる分かってる。秘密だからこんなにおいしいのよね」

「罪の甘美な味、だな。だけど大人になったものだ。この辺の肉付きなんか素晴らしいな」

 父は目じりを下げて私のむき出しの二の腕のあたりを触ろうとします。

「キャー!だめよ!近親相姦パパ!」

 私はグラスに少し残ったビールをぶっかけました。

「わっ!ぺっぺっ!ひでえ娘だな」


…こんなこともありますが二人の晩酌はほんとに楽しくて、ビールも焼き鳥も死ぬほどおいしくて、私は今青春の真っただ中で、薔薇色の人生、ラヴィアンローズを謳歌しています。

 父は「酒とバラの日々」という映画みたいなアル中男に近いですけどね。エヘッ。


<了>

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掌編小説・『おやじギャルの晩酌』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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