第10話 殆ど魔物話と裏中等部の大掃除開始

 裏中等部に入る前に、魔物の事をもうちょっと詳しく話して置こう。

 先ず共通するのが、魂を持つ全ての存在が、精神活動等を行う事によって生じる負のエネルギーが、核を得て発生した物が主な物である。その生まれから、存在そのモノがバランスを欠き、決定的に歪んでしまった物が魔物だ。

 そして、魔物と一言で言っても、魔物は大きく分けて三つのタイプが存在する。


 一つ目は、始まりの魔物。これは、発生してからそれ程時間がっておらず、存在が不安定で脆い。ダメージを与えて倒せば、直ぐに跡形もなく消え去る。

 このタイプには流行り廃りが有り、新しい種類の魔物がどんどん出現し、負のエネルギーの傾向が偏れば、それに即した物も現れる。

 裏中等部は、間違いなく偏った傾向の魔物が出るだろうね。


 二つ目は、受肉した魔物。これは色んな条件を満たす事で、確固たる実体を得た魔物の事を受肉した魔物と言う。

 受肉した魔物は、確固たる実体を得た為。始まりの魔物よりも、存在が自然の物に少し近くなっている。その為この魔物は、自然に数を増やす物や、ある程度の知性を持ち、人と契約をを交わす物も居る。

 分かり易く言うと、このタイプの魔物はテイムで出来るって事だね。

 自然の物に少し近づいた為、強力な浄化や浄化相当の契約のパスが得られるなら、完全に存在の歪みを取り除き、一個の魂を持った自然な存在となる。


 ちなみに、契約とは主に従魔契約の事で魔物以外にも当然行われる。

 契約パスとは契約が成立すると出現する、霊力によって作られたコードである。

 主に幽体又は霊体的繋がりを示す物で、コードによって繋がっているため、双方の精神状態の影響を受ける。幽体なら健康状態もかな?

 勿論、術式なり法式なりを組み込んで、ある程度は如何にかなるけど、完全には無理だね。


 三つ目は、魔物堕ちだ。普通は魂が狂って、狂物と呼ばれる物に成る筈の所。何故か存在その物が、狂ってしまった物が魔物堕ちだ。

 人や動物も、一個人,一族,一種族まるまると、魔物堕ちする事がある。

 まあ、魔物堕ちは滅多に起きないんだけどね。

 魔物堕ちの原因については、色々な事が複雑に絡み合って起こる為、特にコレと云ったモノは言えない。

 元々が、魂を持った自然の存在である為。世代を経ても高い知性を持ち、浄化や浄化相当の契約のパスを得る事で、浄化されれば元の種族や存在に戻れる可能性が非常に高い。浄化で元の種族に戻せたら、大昔に絶滅した種族だった。なんて事も有るらしいね。


 さて、魔物について話して、何が言いたいのかと云うと。

 恐らく裏中等部に出る魔物は、この学校独自の物に、過去から現在と生徒の間で流行ったアニメや漫画,ゲーム等。それだけでは無く、虐め関連や思春期特有の性に関連する魔物も出るかも知れない。

 そして、この時期特有の妄想の産物に由来する物が、出て来るって事なんだよね。

 思春期の妄想関連では、卑猥な魔物も出るらしいけど。まあ不快なだけで、退魔士には何ら脅威ではないんだけどね。

 ほら、霊性が高く為るとそう言う事は、両想いで本当に好きでないと出来なくなるって奴ね。退魔士に成れる様な人は、皆霊性が高くてそれが当てはまるから、そう言う被害は出ないんだ。

 まあ兎に角、これは魅了等の力を用いても、何の影響も与えず意味はないと分かっている。これ等の事は、人々が知っていようがいまいがに関わらず、世界のみ為らず全ての存在の根底にしかれた法則ルールだと、私は教えられている。

 勿論、一般の人達がそれ系の魔物被害に遭う可能性が有るから、即抹殺だけどね!


 で。裏中等部は、そう言ったタイプの魔物が、間違いなく出るって事が言いたいんだよね。

 家のお三方の、特に珠玉お姉様に、男子中学生の思春期妄想パワーは危険だからって、散々言われてるからね。退魔士に直接的な実害はなくとも、服を剝かれたとか溶かされたって言う話は、良く聞くそうなんだよ。嫌に成るよねぇ。

 じゃあ、何で中学生にそんな物の相手させるのかって言うと。退魔士をして居れば、必ず性にまつわる怪異や魔性の相手をする事になる。そう言う昔話や、逸話,叙事詩,伝説,神話なんて良く有るからね。

 つまり、遅かれ早かれ関わるのだから、強制的に慣れさせ様と云う意味も含め。この裏中等部の大掃除は、退魔士初心者であり中学生でもある私達が、やる事に為っているって訳。まあうちは、討滅士なんだけどね!


 ちなみに、北界深域近くで倒した怪異は、様々な物の源である混沌から生まれた生物の様な物、生物擬きと云う物であり魔物とは違う物だよ。


 長々と話したけど。他の班が、開け放たれた扉の先へ次々と進んで行く。

 ドアの向こう側の裏中等部の様子は、良く見えないが順番が来た。

 しおちゃんが既に抱えている、私の左腕に更にキュッと力を込める。

 流石に、裏中等部内に入ったら腕を離して貰おう。


 ドアの向こう側は、先程まで目にしていた神棚の裏だった。武道館の中だね。

 なるほど。裏中等部は、現実の中等部をまんまコピーした、低波長帯の異相空間のようだ。そして、この武道館は出入り口と言う事も有って、最初から安全地帯として設計されていた様だね。入って来て、いきなり襲撃される何て嫌だもんね。


 ちなみに何故、低波長帯だと分かるのかというと。負のエネルギーと言うのは、どんなに力が強かろうが、その力の波長は低くそして暗くなる。だから負のエネルギーの誘引は、必然的に低波長帯の異相空間が求められる。

 ついでに言うと、異相空間の構築に向いている力は、魔力または霊力が向いている。異相空間の強度を考えるなら、霊力の方が良いかもね。


「それじゃ、僕らはの担当は、中等部校舎の三階だから、直ぐに行こうか」


 緑髪先輩の先導を受け、武道館から出ると、大掃除は既に始まっていた。

 他の班の生徒が、自身の持ち得る力を駆使して、魔物を倒している。

 裏中等部をザッと見回すと。昼前で雲も無いのに薄暗く、ねっとりと絡みつく様な、嫌な空気を感じさせる。

 負のエネルギーが、相当溜まっているのが分かるね。

 見回した中で一際目についたのが。今、私の中で絶賛サイコパス疑惑真っ只中の、火威斗君だった。火威斗君は、式神で他の生徒のディフェンスとサポートを行い、その上炎の異能を駆使し魔物を焼き殺していた。

 サイコパス疑惑が有るとは言え、火威斗君優秀だなぁ。特に式神が便利過ぎるよねぇ。それにしても、焼き殺していた魔物が、陸上選手のスポーツウェアを着たゴブリンとしか言い様がないのは、何とも言えないよね。


 ゴブリンと言えば、様々なメディアに、ザ・モンスターとして取り上げられている為、魔物として良く出現する。しかも、女性の天敵として表現される物がメジャーな物なため、その性質を如何なく発揮し、女性退魔士に非常に嫌われている魔物だ。

 人の業によりそうなったとは言え、非常に迷惑極まりない。

 でも、実は一番迷惑を被っているのは日本語では小妖鬼、海外ではゴブリンと呼ばれる人準拠種族である彼等だろう。

 創作や魔物のゴブリンの所為で、風評被害が相当酷いらしいよ。

 同じ様に創作から始まり、その影響で魔物が現れて、ゴブリン同様風評被害を被っている種族は、結構いるんだよねぇ。

 ちなみに、小妖鬼ゴブリンと呼ばれる彼らは、身長が低くて耳が尖っているだけで、肌の色も別に緑じゃないし、一般的な小人系妖精種と大して違いは無いよ。


 校舎に移動するまでに、色んな姿のスライムや、男子中学生の妄想の化身ローパー等が見受けられた。

 スライムなんて、類似の物が沢山さん知られている所為か、目が付いてる玉ねぎ見たいな奴に、ゼリー状だったり水饅頭見たいに体の中に何か入っている奴、触手を伸ばして来る奴と色々いる。ローパーなんて酷い物だよ。オーソドックスな物から、存在するだけで公然猥褻罪に問われる様な物まで、千差万別だったね。

 観浄眼でサクッと始末したくなったけど、これは訓練&三級退魔士の三年生達にとっての試験でもあるから我慢したけど……。いや、本当は触手スライムと、卑猥な形をしたローパー、服を溶かす魔物は、こっそり消したけど内緒だよ。


 校舎の入口まで来ると、漸くしおちゃんが腕を離してくれた。

 流石に此処からは、戦闘は避けられないからね。

 私は三泉を開き、全身を廻るエネルギーの経路に、通常時を上回るエネルギーを通す。所謂戦闘モードって奴だ。


※『三源泉』の事は大抵『三泉』と略すよ。


 しおちゃんや先輩達も皆三泉を開いて、全身にエネルギーを廻らせた戦闘モードに為っている。その証拠に、皆の全身を廻るエネルギーが、色鮮やかに輝くオーラと成って、私の瞳に映し出されるからだ。

 皆のオーラは、まるで宝石見たいに煌めいていてとても綺麗だ。

 これだけで、観浄眼を使わなくても、悪い人は居ないって分かる物なんだよ。


「皆、校舎に入ると戦闘は避けられないからね。一年生は、武器を持っているなら、手に持って置いた方が良いよ?」


 緑髪先輩が、レイピアを抜剣しつつ私達に話しかける。


 おっと、そうでした! 私には、広継伯父様が用意してくれた剣が有ったね!

 早速鞘から、剣を引き抜く。う~ん。この謎の文字が、薄っすらと浮かび上がるのと。この肉厚の剣身の、鈍器っぽい感じが良いよねぇ。


 ふと、恵美瑠お姉様から貰った腕時計が目に入り思う。この腕時計の効果を聞いて、非常に過保護だと思ったのだけど、事故見たいな物とは言えもう既にお世話に為ってるし、また直ぐに使うかも知れないぁ、とそう思えたんだよね。

 他は、もう既に身に着けてるから問題ないね。視線をしおちゃんの方に向けると。


 しおちゃんが、スポーツバックから大量の金属塊を取り出していた。

 あのスポーツバックも、当然普通の物では無いだろう。如何見ても、容量以上の金属塊が出来て来てるし、ゴトゴトと凄く重そうな音を立ててるからね。


 金属塊に、しおちゃんが力を通すと。球体に変化し、フッと浮かび上がる。

 周回軌道を回る衛星の様に、しおちゃんを中心に鉄球が浮遊する。

 この魔法式、しおちゃんから名前を聞いた事がある。

 確か『鉄星陣』と言う、そのまんまな名前で、金華家独自の魔法式だった筈だね。

 魔法式なだけあって、わざわざ金属を用意しなくても、本当は良いそうだけど。

 燃費や特殊な金属を使える事から、予め準備して置いた方が色々と良いらしい。

 だから、しおちゃんが用意してたあの金属は、只の鉄じゃないんだろうね。


 緑髪先輩以外は後衛の為、特に装備は無いらしい。

 あ、眼鏡マッシュルーム先輩は、Mミアが既に装備見たいな物だね。

 皆の準備が整い、それを見た緑髪先輩が頷く。

 いよいよ、大掃除をするため、裏中等部の校舎に入る。

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