第9話 紫凰院学園裏中等部の事と班編成

 少しゴタゴタしてしまったが、武道館の中に入る。

 今日は寝不足な上に死に掛けたから、本当はもう帰りたい所なんだけど。今日死に掛けた事で、眠っていた霊鬼の力が強制的に目覚めたのか、すこぶる調子が良いのだ。体のダメージも魔導具のお陰で全く問題ないし、これで大掃除をしないで帰るとは言えないよね。


「む……随分と遅かったが、何か有ったのかね?」


 庵野閣下は、最初は遅れた事を注意しようと思っていた様だが。武道館に入って来た皆の様子を見て、寧ろ心配になった様で、何かあったのか聞いて来る。


「はい、庵野閣下。少々私が物理的に死んでしまいまして……」


「んん? 死んで居ただって……?」


 先の事を掻い摘んで話す。ギュっと私の左腕を掴む力が強くなる。うん、実は私が目を覚ましてから、ずっとしおちゃんが私の腕を放してくれないのだ。


「それは……何と言うか、災難だったな秋素戔宮君」

「真緒ちゃん、大事に至らなくて良かったわ」

「秋素戔宮君。念のため、保健室に行った方が良いと思うのだが?」


「それは大丈夫です」


 庵野閣下や夏美さんも心配してくれ、宇童大佐は保健室に行く事を進めてくれるが。生憎あいにくとこちらは今、人生で一番調子が良いと言えるくらい、絶好調に為って来ているのだ。

 何せ今も、現在進行形で、どんどん力が高まって来ているのを感じるのだ。


「ふむ、そうか。ならば、今回の大掃除の概要を、生徒諸君に話すとしよう」


 庵野閣下が先ず話してくれたのは、新一年生や力が目覚めて今回初めて参加するニ,三年生に向けての話だ。


「この紫凰院学園には、怪異,魔性対策の一つとして、結界術により学園で生じた負のエネルギーを送り込む、専用の異相空間領域が作られている。疑似的に作り出した異相空間領域に、負のエネルギーを送り込む事で、現実空間に魔物が出現するのを抑えられる。その上、負のエネルギーに引き寄せられ、怪異や魔性が学園外部からやって来るのを減らす効果も有る」


 要約すると、RPGゲームに良くあるダンジョンを意図的に作り出したって事だ。

 魔物の出現場所もある程度は限定できるし、理に適っているって訳だね。


「異相空間領域への入口が、この武道館の神棚の後ろに有り、我々はその異相空間領域を、紫凰院学園裏中等部と呼んでいる」


 裏中等部!? なんかワクワクする響きだね!


「今回の大掃除では、初日はこちらが用意した編成で裏中等部に行って貰う。そこで、溜まった負のエネルギーの浄化と、魔物の討伐を行って貰う事になる」


 なるほど、まさに掃除って訳だ。浄化も魔物討伐も掃除には変わりないもんね。


「初日の編成は、新一年生と力に目覚めたばかりの生徒を、三級退魔士の資格を持つ三年生の生徒に引率して貰う。これは、二級退魔士の資格を得る為の、指揮能力を図るテストでも有るから、心して置く様に。それと翌日からは、同じクラスでチームを組み、大掃除を行う事になる。今回の大掃除の期間は、二週間を予定している以上だ」


 如何やら五人編成でチームを組む様だ。

 私としおちゃんが同じ班になって、さっちゃんと会計コンビは別の班になった。

 三年生と二年生の先輩が、こちらにやって来る。


「君達が、新一年生の秋素戔宮さんと金華さんで良いのかな?」


 鮮やかな緑の髪にシトリンの様な黄色の目をした、三年生と思われる男子が話し掛けて来た。その男子の制服よく見ると、ブレザーの胸ポケット上部には、赤と紫のラインが入っている。

 私の制服の胸ポケットの上部は紫一色だから学年で色が違うのかな?


「はい、私が秋素戔宮で、彼女が金華です。すみません。彼女今、ちょっと精神的に参ってるので……」


 しおちゃんは、さっきまで号泣してた所為で元気がなく、今も絶賛私の左腕をロックしている。


「あー……、さっきのあれ物理的に死んだとかって奴かな?」

「そうです」


 声を掛けて来た緑髪男子と、後から来た青髪三白眼と茶髪マッシュルームカット眼鏡の二人の男子も、ちゃんと察してくれたようだ。


「分かったよ。でも取り合えず、今日これから班を組んで行動する事に為るから、自己紹介をして置くよ。僕の名前は亀津楯きつたて 祈織いおり三年生だ」


 この緑髪にシトリンの様な目をした男子が、三年生でこの班のリーダーって事になるのかな? 胸ポケットに赤と紫のラインが入ってる人は、三年生って事で良い見たいだね。


「改めて、私は秋素戔宮 真緒一年生です。しおちゃん……ほらっ」


 私はしおちゃんに、挨拶をする様に促す。まあ、元気がないのは私の所為でもあるけど。先輩とは初対面だし、此処は何とか頑張って挨拶して貰いたい所だよ。

 それに、まだ名前を聞いていない二人の男子含め、今ここに居る五人で、今日は裏中等部の大掃除を行う訳だからね。


「……うん。私は金華 栞です。真緒ちゃんは誰にも渡しません!」


 んん? どこから、私を渡さないと言う話が出て来たのか分からないけど。

 取り合えず、しおちゃんが元気になって良かったよ。


「えっと……うん、分かったよ。よろしくね」


 緑髪先輩が若干引き気味だよ。


「先輩。そろそろ、俺らも先ずは挨拶したいんっすけど?」

「うんうん」


「おっと済まない。気にせず挨拶してくれ」


 今度は、青髪三白眼とマッシュルーム眼鏡の人が、挨拶する見たいだ。


「俺は二年の海祇詞かいぎし 港太こうた。四級退魔士の下っ端だ。だから俺には、あんま期待すんなよ」


 青髪三白眼の人は二年生の様だ。ブレザーの胸ポケットのラインは青と紫で、今の二年生はこの色なのか。覚えた。


「僕は遠野ヶ咲とおのがさき 達臣たつおみ。海祇詞と同じ二年生だ。よろしく!」


 このマッシュルーム眼鏡の人も二年生の様だ。


「はい。よろしくお願いします」

「よろしくです」


 挨拶はちゃんとしないとね。


「それじゃあ、班を組むにあたって、得意な事だけは聞いて置きたいんだけど。先ずは、僕から話しておこうかな?」


 出来る事の確認は重要だね。で、緑髪先輩はどんな事ができるのかな?


「僕は、細剣術による近接戦闘と、風を扱う魔法が得意だ。風を扱う関係で、索敵なんかも得意だね。次は秋素戔宮さん、教えて貰えるかな?」


 緑髪先輩の腰の辺りを見ると、レイピアらしき物を帯剣している。

 それを確認した後に、私は口を開く。


「構いませんよ。私は剣術と格闘術による近接戦闘が得意です。後は、術法もそれなりに使えますね」


「私は強化や回復ができます。でも、真緒ちゃんと一緒で、前で戦う事の方が得意です……真緒ちゃんを助けられなかったけど」


 私が答えた後、しおちゃんが自分に出来る事を話す。その後、小声で何か言ってた様だけど聞き取れなかったよ。次に、青髪三白眼先輩が口を開く。


「それじゃあ俺、スーパー退魔士海祇詞の力を教えて得やるぜ! 俺はオールレンジ魔法攻撃と、渦を操る異能を持っている惚れるなよ!」


 Σええ、何この人!? 最初の挨拶と、言ってる事とかテンションが違い過ぎるんですけど!?

 なんか変なポーズ決めて「決まった」とか言ってるし、ダウナー系気取ってた挨拶は、もしかして何かの振りだったのかな?


「んじゃ、そう言う事何で」


 あ、最初の感じに戻った。情緒不安定なのかな?


「次は、僕の出来る事を話すよ。僕は情報魔術士だ。情報魔術以外にも魔法が少々使えるね」


 ほうほう、眼鏡マッシュルーム先輩は情報魔術が使えるんですか。魔術は強度と深度は低いけど、干渉度が高いのが特徴で、情報魔術と為れば、ほぼ万能の力を秘めている。眼鏡マッシュルーム先輩の、情報処理能力次第では相当強力だね。


「情報魔術士を名乗れるなんて、先輩凄いですね」


「お、君は分かるのかい!? そうなんだよ! 情報魔術士の資格を中二で持ってる僕は凄いんだよ! なのに、仲間内ではあんまり凄さが伝わって無いんだよなぁ……はぁ~なんでだろ」


 なかなかのオーバーリアクションだね。この眼鏡マッシュルーム先輩。


「あ~、情報魔術士の事は何も知らないと、凄い便利なヤツくらいにしか思われませんからね~。ご愁傷様です」


 ちなみに魔術とは、その発生が魔法を扱う為の法則エネルギーを、認識を上手く出来なかった者達が、何とか魔法を使おうとして編み出したのが、大元の魔力由来の技術体系だ。

 魔術は、元が不完全な物であると言うのも有り、使うのには手間が掛かる上に効率も悪い。それでも、魔法を使う為の前段階としての意味合いで、修める者も多くいる。何故前段階なのかと言うと、魔術を昇華させると魔法に為るからだね。

 じゃあ、最初から魔法を自由が使える者には、意味が無さそうに思うかもしれないがそうではない。

 何故なら、魔術に使われる魔術言語式が、今では魔法の制御や行使の保護に、改造や開発にも使われる技術であるため、魔術師や魔法師を名乗るなら、是非とも抑えて置きたい技術だったりするからだ。

 この魔術言語式を使った技術は、総じて魔術プログラムと呼ばれ、プログラムで保護されていない術法など、プログラムに詳しい者にとっては、簡単に阻止したり支配権を奪ったり出来る物なのだ。なので、この魔術プログラムによる術式や法式の保護や暗号化は、必須と言われている。

 しかも、この魔術プログラムの技術、他の法則エネルギーの術法にも応用できるから、より重要性が高いんだよね。

 要するに、今現在使われている術法は、皆魔術言語式による保護や暗号化を受けているって訳。保護や暗号化されて無い術法は、いつ制御を奪われても可笑しくないから、危なくて使えないよって事だね。


 で。中でも情報魔術とは、術者の認識できる物事の情報を、魔術言語式で書き換える事によって事象改変する魔術体系の事で、魔術言語式による魔術プログラムの、引いては魔術と云う技術の集大成が、情報魔術と呼ばれる物なのだ。

 勿論、情報魔術も情報魔法と云う、人が扱うに置いては最高クラスの魔法へ昇華する。つまり、眼鏡マッシュルーム先輩はかなり凄い人だ。


 ちなみにこの情報魔法、魔女や魔法使いと呼ばれる者達が使う、理不尽な力を発揮する魔法の正体の一部だとされているんだよね。

 何故一部なのかと云うと、情報魔法だけでは説明できない、理不尽な現象を引き起こすからだ。

 私はお三方から、魔女や魔法使いは特殊な秘法を使い、自分だけの法則マイルールと呼ばれる固有法則を作り、それによって得た多種多様な自分だけの法則マイルールが、彼らの理不尽の正体だと教えて貰った。

 この秘法、自然エネルギーと魔力波長技術、そして情報魔法が揃う事で使用可能となり、それで自分だけの法則マイルールを作り出すと、誰でも魔女や魔法使いの仲間入りなんだそうだよ。


 ちょっと思考が逸れたけど。この班は前衛三人に、後衛二人で悪くはないね。

 緑髪先輩は索敵も出来るし、眼鏡マッシュルーム先輩は情報魔術なんて便利魔術が使える。青髪三白眼先輩は、きっと後衛のダメージディーラー何だろうし、私としおちゃんも色々出来るから、多分大丈夫なはずだよ。多分。

 ああ、ちょっと昨日今日と私、ついてない感じがするから不安かも。


 緑髪先輩に連れられ、武道館に有る大きな神棚の裏側に移動して来た。

 神棚裏の壁には両開きのドアが有り、そのドアの壁周りは鳥居を思わせるデザインが施されている。

 鳥居は境界を示す。このドアの先は別の領域である事を暗に示しているのだろう。


 それにしても、紫凰院学園の中等部の事をまだ良く知りもしないのに、裏中等部を探索するのかぁ、何とも言えない気持ちだよ。

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