第8話 武道館の前で死に掛けた話
「それで、天兄と恵美瑠姉は、まおに話があるんじゃないの?」
火威斗君が、天軌お兄様と恵美瑠お姉様が、何故ここに来ているのか聞いてくれる。
「ああ、そうだった。父上から真緒に渡して置くように、頼まれていたんだよ」
天軌お兄様が、剣帯付きの、やけに身幅の広い鞘に入った剣を、私に渡してくる。
鞘から抜いて見ると、日本刀や太刀の倍の身幅が有る両刃の直剣だと分かる。
大体身幅は7cm位かな?
剣身の厚み、日本刀で言う重ねも3cm位とかなり有り、刃長は70㎝。
全く読めない謎の文字が、剣身に書かれているのも何か良い。
斬る突く以外にも乱暴に打っ叩くのにも使えそうで、かなり良い感じだね。
それに、鞘と剣に視線除けと認識阻害の術式が施されていて、一般人対策もバッチリだね!
「ほむほむ、これは良いですね♪」
「如何やら父上が送った剣。真緒は気に入ってくれた見たいだな。良かったよ。それと、俺からも入学祝いが有るんだ。真緒に是非身に着けて貰いたいなぁ」
天軌お兄様が、私に用意してくれた入学祝いのプレゼントは、紫の宝石で彩られた鳳凰がモチーフの、髪留めとしても使える髪飾りだった。
鳳凰の瞳はヴァイオレットサファイアで、翼含む全体がロードライトガーネット、中でも紫が強いパープルガーネットが使われている。
そして、地金はゴールドと間違いなくお高い品物だ。
ちなみに、軽量化の術式が施されており、とても軽く頭皮にやさしい使用だ。
しかも、頭部を守る護符としての力も有る見たい。
早速左目に掛かる前髪を、プレゼントの鳳凰の髪飾りで留めて見る。
「どうです? 天軌お兄様、似合ってますか?」
「おお、真緒! とても似合ってるぞ! 流石はMy sweet angel!」
「そうですか。プレゼント、ありがとうございます」
ちゃんと私に似合っている見たいで、良かった良かった。
「お兄様の用は終わったのだから、早く退いてくれないかしら?」
「恵美瑠お前。もう少しくらい、可愛い
「真緒ちゃんは、私の可愛い
実は秋素戔宮の家系は、基本家族や親族に向ける愛情がとても強い一族なんだ。
なのでこの二人、私の前では何時もこんな感じだけど、兄妹仲は実際の所とても良いんだよね。
「くっ! 恵美瑠。お前も俺にとっては可愛い妹なんだぞ? 幾ら何でも、兄だって邪魔とか言われたら、傷つくんだぞ!?」
「はいはい。時間が無いんだから早く退く!」
恵美瑠お姉様の言う通り時間が無くなるため、天軌お兄様は胸を押さえながら渋々引き下がる。うん、恵美瑠お姉様にぞんざいに扱われ、天軌お兄様は大ダメージを受けたようだね。なむなむ。
「それじゃ真緒ちゃん。私からの入学祝いよ。受け取って」
恵美瑠お姉様が私にプレゼントしてくれたのは、手甲付きの指抜き手袋と宝飾腕時計だ。まさか、中二病の村瀬 零兎君を彷彿とさせる指抜き手袋を貰うとはね。
まあでも、指ぬき手袋は実用性バッチリの装備だから嬉しいけどね。
それにこれは、手甲付きだから相手を殴ったり、相手の攻撃を弾いたりする事も出来るし良い感じだね!
宝飾腕時計は、プラチナとゴールドがふんだんに使われ、様々な色のカラーストーンが文字盤に使用されている。うん。これ、物凄く高いやつだよ!
今の時代、時間を知るのは
「恵美瑠お姉様。ちゃんと似合ってますか?」
指ぬき手袋と宝飾腕時計を着けた手を、恵美瑠お姉様に見える様に見せる。
「うんうん。流石真緒ちゃん、バッチリ似合ってるわ! その指抜きグローブには、理力の盾と見えざる手の二つの法術に防護術式が組み込まれてるのよ。とっても便利だから沢山使ってね。宝飾腕時計の方は、時間回帰の魔法が込められた魔導具よ。1時間以内なら何でも戻せるから即死攻撃も安心よ!」
Oh! 過保護。いや、物凄い便利だし有り難いけど。
これは、お値段が想像できない位お高いのでは!?
「おい、恵美瑠。幾ら何でも、それはやり過ぎだと思うぞ?」
「え? お兄様は、可愛い可愛い私達の
「なっ、そんな訳ないだろう! 真緒は我が家の宝だぞ! 傷付くなんてとんでもない!」
「なら問題ないわね!」
「お、おう」
時間回帰魔導具の宝飾腕時計は流石にやり過ぎだと、恵美瑠お姉様に意見した天軌お兄様だけど、直ぐに丸め込まれてしまったね。それにしても、恵美瑠お姉様の目のハイライトが消える瞬間は、いつ見ても背筋がゾクッとするよ。
「その腕時計、基本的に真緒の余剰魔力を蓄積した分で、効果を発揮するから邪魔にならないわ。勿論、魔力を意図的に時計に送り込んで、時間回帰の魔法を発動する事も出来るし、装備者が命の危機に瀕した場合は、自動で時間回帰が発動するわ。仮に蓄積魔力が足りなくても、装備者とその周囲から魔力を徴収して発動するから、真緒の安全はバッチリなのよ!!」
う~ん、この性能、見た目はブランド物の宝飾腕時計だけど。
実はコレ恵美瑠お姉様が、家のお三方に頼んで魔導具に作り替えた物なのでは?
もし、お三方が関わってると為ると、これはもう神器だよね。
うん、これが一番可能性が高そうだね。
まあそれは兎も角、恵美瑠お姉様にお礼を言わないとね!
「恵美瑠お姉様ありがとう。これが有れば、安心して討滅士のお仕事が出来るよ」
「真緒ちゃん!」
私の言葉に恵美瑠お姉様は感極まった様で思いっ切り抱き着かれる。
ミシッ!! うぐっ!! く……、苦しい!! ぎぶ……。
「おい恵美瑠! お前のそんな馬鹿力で抱きしめたら、かよわい真緒が死んでしまうだろうが!」
「ああ! なんてこと真緒の顔が真っ青だわ! 一体誰がこんな事を!」
それは恵美瑠お姉様ですよ。それにしても、なんだかとっても気分が良いなぁ~。
「まお家は、相変わらずだなぁ~」
火威斗君が緊張感のない暢気な発言をしてる。
「真緒ちゃんしっかり!」
「まお! 気をしっかり持って!」
「真緒さん!」
しおちゃん、さっちゃん、啓示君が、何だか緊迫感のある声を上げ、深刻な顔して私を心配してくれている。
「姉さん、真緒さんはもう……」
「うそ……そんなの嘘よ……」
「真緒ちゃん……うっ……ぐす……」
ん? 皆絶賛お通夜ムードで、しおちゃんが号泣してるよ。どゆこと?
「真緒ちゃん、死んじゃやだよぉー!」
「まお! まお! お願いだから目を開けてよ!!」
よく見ると、私が地面に横たわってるね?
しおちゃんとさっちゃんが、私に必死に呼びかけてるけど。私はここだよ?
う~ん。皆私が死んじゃったって言ってるし、恵美瑠お姉様なんて顔真っ青だよ?
あの皆、私死んでませんよ~?
「真緒なんで、くぅっ!」
「真緒さん……ぅっ」
あっれぇー? もしかして私本当に死んでる!?
天軌お兄様も啓示君も、ガチ泣きしてるんですけど?
でも、意識はしっかり有るし、何か力が漲って来てるけどなんで?
あ! そっか私、半分は霊鬼。所謂精霊だから、完全に死んでないんだ!
あの皆、動揺しすぎて霊視忘れてますよ~?
兎に角、今の状態は、半殺しもしくは半死半生? でも言葉の意味を考えると違うかな。私は文字通り半分生きてる状態だし、まだ生命の危機では無いから腕時計の魔導具も、自動発動してないんだね。
取り合えず、この状況は良くないし、魔力を腕時計に送って効果を発動させよう!
霊体であれば魔力を操るのは容易い。
腕時計に魔力を集め魔導具として起動する!
腕時計の文字盤の上に、魔力の光で出来た時計を模した魔法陣が現れ、魔法陣の時計の針が逆回転する。
青ざめて土気色になり、ピクリとも動かず生命を感じさせない私の身体に、時間回帰の魔法が私の身体に生気を戻して行く。
良かった。これで私の命は助かったよ!
あっ、でも如何やって体に戻れば良いのだろう?
これって幽体離脱見たいな物だよね?
なら体に戻れ! って念じれば戻れるかな?
次の瞬間、私はパッと目を開く。如何やら無事に体に戻れた様だ。
「ま゛、真緒ち゛ゃん! よがったよ~……うわあああぁぁぁん」
しおちゃんが、私に抱き着いて大泣きしている。火威斗君以外、皆私が死んでしまったとボロボロ泣いてたんだ。今は嬉し泣きになったけどね。
私が肉体的に蘇って目覚めた後も大変だった。
私は、あの状態でも死んではいなかったと云う事を伝え、自分が私を手に掛けてしまったと、自殺しそうな勢いの恵美瑠お姉様を、何とか宥め賺し落ち着かせた。
その後も、恵美瑠お姉様は、色んな感情がごちゃ混ぜの状態で、兎に角私に謝ろうとして、土下座で地面割ってたからね!
あれだよ。愛情と、物理的なパワーが強すぎただけの、不幸な事故だったんだよ。
ちなみに、火威斗君がちっとも動揺してなかった理由は、恵美瑠お姉様のプレゼントの腕時計の魔導具が、全く反応してなかったを見て、全然平気だって分かっていたからだそうだ。
いやまあ~、そうなんだろけど。火威斗君ってもしかして、サイコパスなのかな?
はぁ~、思わぬ処で死に掛けたけど、これから大掃除なんだよね。大丈夫かな?
私、前日に強制的に討滅士デビューして、寝不足で弱ってた所に恵美瑠お姉様の全力ハグを受けて逝き掛けるし、なんだかとっても不安になって来たよ……。
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