第11話 裏中等部校舎三階に到着

 校舎に入ると、学校ではお馴染みの下駄箱がずらっと立ち並ぶ。

 私達の担当は校舎の三階なので、入って直ぐの階段に向かう。

 勿論、靴を履き変えたりはしないよ。本物の学校の校舎じゃないからね。


 僅か数メートル進んだ所で、ベタベタと湿り気のある足音が此方に向かって響いて来る。足音の発生源は一つでは無く三つ。正体は魔物では無く、妖怪の類の怪異だろう。古来より足音を響かせる怪異や幽霊は、頻繁に現れるメジャーな怪異だし、ここは学校だから特に珍しくもない。


 ベタベタと廊下と下駄箱に、泥だらけの無数の足跡を付けながら、姿を見せる事無く近づいて来る。足跡を見せて姿を見せないのは、恐怖心を煽る為なのだろうけど、怪異を掃除しに来ている私達にすれば、足跡を残してる時点で只の鴨だ。


 廊下に足跡を残し向かって来る奴を、緑髪先輩がレイピアでサクッと串刺しにする。下駄箱を経由して来たもう二体は、私の拳としおちゃんの鉄球がボコッと減り込んでお亡くなりになった。


 恵美瑠お姉様に貰った、指抜きグローブの感触を確かめる為に、試しに殴って見たけど。殴った怪異が良くなかった。ヌルっとした感触と、硬いゼリーの様な弾力が気持ち悪かったのだ。あんまりにも気持ち悪くて、反射的に手を観浄眼で浄化してしまったよ。使うつもり無かったのに……。

 うん。この手の奴は、もう直接殴るのはやめよう。

 今度は、グローブ法術の理力の盾越しとか、見えざる手を使って殴ろうっと。


「一階を担当してる班の討ち漏らしかな? まあでも、秋素戔宮さんと金華さんの実力を、少しは見れたから良かったかな?」


 緑髪先輩は、私としおちゃんがちゃんと戦えるのを見て、如何やら安心した様だ。

 私としおちゃんがどれだけ動けるは、緑髪先輩の二級退魔士試験の合否にも、直接関わる事なのだから然も有りなん。

 緑髪先輩は「じゃあ、三階に行こうか」と歩き出す。


「へっ、中々やるじゃねぇか、一年のひよっこがよう! しかし、このかいぎ……」


 青髪三白眼先輩が、カッコつけたポーズを取りながら、威勢よく何か言っている。

 スルーして、しおちゃんと一緒に班長である緑髪先輩の後をついて行く。


「ふっ、海祇詞君行きますよ?」

「この俺……って、Σおい!? 俺を置いてくなよ!」


 眼鏡マッシュルーム先輩の慈悲で、声を掛けて貰い気が付いた青髪三白眼先輩が、後から追いかけて来た。


「遠野ヶ咲君助かるよ」

「これ位当然です!」


 緑髪先輩と眼鏡マッシュルーム先輩は、長い付き合いを感じさせるやり取りする。

 あと、青髪三白眼先輩の扱いにも、慣れてる気がするね。

 この三人は、元々班を組んでた事でも在ったのかな?


「しおちゃん。先輩達、仲良さそうだね」

「そうかな? 私と真緒ちゃんの方が、もっともーっと仲良いよ!」

「え? うん、それはそうだと思うけど……」


 謎の対抗意識を燃やして、しおちゃんが手を繋いで来る。

 しおちゃん、階段で手を繋ぐって危なくない?


 階段の上に、ふと気配を感じ見上げると。おかっぱ頭の少女が、階段の上からこちらを覗き込んでいた。私が魔物だと認識した所で、しおちゃんの鉄塊が飛翔し、おかっぱ少女の顔面をグシャッ! と粉砕した。

 しおちゃんが私の方を見て、「真緒ちゃん、私凄いでしょ?」って感じでウインクする。私は、私に褒めて欲しそうにするしおちゃんを、大型犬見たいだなぁと思いながら、「しおちゃん凄いねぇ」と褒める。

 う~ん、しかし。このしおちゃんの判断能力と容赦のなさよ。


「噂には聞いていたけど、金華家の『鉄星陣』、汎用性が高くておまけに反応も良いんだね。これはかなり強いね」

「シンプルだからこそ強い、と言った所でしょう」

「ピンク髪後輩やるじゃねぇか! だが、この俺かい……」


 緑髪先輩が、言葉に多少の驚きの感情を乗せて話。眼鏡マッシュルーム先輩が、情報魔術士らしく『鉄星陣』の強さをシンプルさ故と見抜く。

 そして、青髪三白眼先輩の戯言はスルーする。


 おかっぱ少女の居た所に来ると、緑髪先輩が何かを拾ってる。

 魔力を僅かながら感じさせる石の様な物だ。


「ん? ああ、これかい? これは、生まれたばかりの始まりの魔物が、倒され消える時に遺す、残滓の様な物だよ。ゲーム何かの創作物的に言うと、ドロップアイテム見たいな物だけど。まあこれも、掃除対象だね。何せ、生まれたばかりの始まりの魔物が遺す物は、殆どゴミ同然だからね」


 ほ~、なるほど。差し詰めこれが、魔物の核になった何かで有り、少々時間が経った事で、一部受肉した物なのだろうね。でもこれは確かに、ドロップアイテムだよね。

 まあそれに、緑髪先輩がゴミ同然と言う様に、この程度の魔力しかないんじゃ非常に使い難い。こんなの、効率的に魔力を抜き出して集める装置か、よっぽど大量に集めないと、碌に使い道が無いだろう。それでも、コスパは最低だろうね。


 そんな話をしながら階段を上がり、私達が清掃を担当する校舎三階にやって来た。

 校舎三階の廊下は、LED照明が明滅し廊下の所々に、不自然な暗闇を作っている。

 非常に良くない雰囲気だ。廊下から見える教室の全てから、明らかに瘴気が漏れ出て来ており、間違いなく大物が居るだろう。

 ちなみに、瘴気とは世に存在する様々な力が、人や生物の肉体や心に、悪影響を及ぼす状態に為った物全般を指す。祟りや呪い霊瘴等も、ある意味全て瘴気と言える。


「これはまた、酷い事に為っている見たいだね。今年三年生に為った僕も、来年までにこれだけの瘴気を発生させてしまうのかなぁ……」


 緑髪先輩は、私の目から見ても大丈夫だと思うから、気にしない方が良いと思うね。まあ、言わないけど。


「ははっ、流石は三年生の教室。我が学校が幾らエレベーター式と言っても、受験や繰り上がり試験が無い訳じゃないですし、こうなっていても仕方ないですね」

「ここが三階か始めて来たがこの俺スーパー……」


 眼鏡マッシュ先輩説明ありがとう、青髪先輩は当然スルーで。

 なるほどね。外部受験や繰り上がり試験が有るから、この紫凰院学園でも受験勉強は避けられないと言う事らしい。それでも、エレベーター式な分普通の中学校で生じる瘴気よりも、少なく為る筈だと思うのだけど、もしかしてそうじゃないのかな?


 う~ん? あ、そっか。退魔士として、高い素養を持つ者が集められているから、僅かとは言え寧ろ強い瘴気が発生してるのかも。


「それじゃ皆、教室は後にして、先ずは廊下の掃除から始めようか」


「亀津楯先輩の言う通り、教室は後の方が良さそうです」

「へっ、このスーパー退魔士海祇詞異能が……」

「分かりました先輩」


 青髪先輩が何か言っているが、気にせず返事をする。


「ちょっ、おま、さっきから……」

「はい! 真緒ちゃんと一緒に頑張ります!」


 青髪先輩が何か言おうとしていたが、しおちゃんがカットインして、私に抱き着きながら緑髪先輩に返事をしたので、当然の如く青髪先輩をスルーした。

 青髪先輩がまだ何か言ってる様だけど。気にせず大掃除のスタートだよ!

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