第4話 紫凰院学園中等部入学式の朝の事
と言う訳で、今朝方北領から家に戻って来た私は、寝不足のまま紫凰院学園中等部の入学式に臨むのだ。眠い……。
身支度を整えた私は自分の制服姿を鏡で見る。元々眠そうな目と言われるのだが、寝不足の所為で余計に眠たそうな顔になっている。
紫凰院の制服はブレザータイプで、白を基調に刺繍と飾り紐等が着き、襟や袖にネクタイと同じ色の紫苑色が使われている。
スカートは、制服に良くあるプリーツスカートで、本紫色だ。
ふむ。寝不足顔なのは頂けないが、制服を着た私はなかなかイケてると思う。
二階の自分の部屋から、両親に制服姿を見せに下へ降りると、朝ごはんの良い匂いが届き、思わずくきゅ~っとお腹が鳴る。
そう言えば、ご飯も碌に食べて無かった気がする。
「真緒ちゃん、おはよう。あら? 如何したのかしら? 顔色が良くないけど、真緒ちゃん寝てないの?」
お母さんが、私の寝不足顔に気が付いて声を掛けてくれる。
「うん。昨日から伯父様に連れられて、討滅士の初陣デビューの為に、北領に行ってたから眠くて……」
「まあ! 兄さんったら、今日が真緒の入学式だって知っているでしょうに! 後でお話しないと行けないかしら……?」
普段のお母さんと違って目をクワッと見開き、背後にゴゴゴ! と言う効果音が見えそうな位にお怒りの様だ。
普段のお母さんは、私以上に眠たそうな眼をしている。所謂、糸目だね。
こうやって、お母さんの目を改めて見ると、私の濃い紫の左目は、母親似なんだとよく分かる。金色の右目は、お父さん似だね。
ちなみに、お母さんは、紫のハイライトが入る、ボリュームの有る長い黒髪を、一纏めの三つ編みにして、右側の手前に垂らしている。
「広継さん無茶するからなぁ。真緒も大変だろ?」
そうやって気遣ってくれるのがお父さん、秋素戔宮
艶々の黒髪に、黒縁のアンダーリム眼鏡、切れ長でキリッとした金色の双眸に、イケメン俳優顔負けの、甘いマスクに色白の肌。私の金色の右目と、色白の肌には、遺伝子の為せる業を感じるね。
「そうだね。伯父様は、行き当たりばったりが多すぎる気がするよ」
「ははっ、広継さんは相変わらずかぁ」
家族の会話を楽しみつつ朝食を済ませた後、お母さんが流石に目のクマが目立つからと、ナチュラルメイクを私にしてくれた。両親も一緒に入学式に出席するので、私が初登校で迷子に為っては困ると用意された、送迎の車に三人で乗り込む。
ちなみに、私の入学式を見たいと、天軌お兄様と恵美瑠お姉様も出席予定だ。
それと、伯父様から毎日車で送迎する案が出ていたのだが、友達との時間が取れなくなるので却下しました。
送迎の車の中から、美しい桜並木をぼんやりと眺めていると、紫凰院学園中等部の校舎が見えて来る。高等部の校舎は、中等部の校舎とは少し離れた所に有るの為、ここからは見えない。
ふぁ~っとあくびを掻いた後、私は目を瞑り幽泉を開く。体に氣を循環させる事で、生命エネルギーを活性させる。ふぅーッと息を吐き、活性化した生命エネルギーで脳機能を回復させ、眠気を吹き飛ばす。これぞ必殺、セルフ眠気覚ましだ。
車を降りて送迎の運転手須藤さんにお礼を言い、両親は入学式参加の受付手続きに行き、私は自分のクラスの教室に向かう。
「まーおちゃん!」
声を掛けらると同時に、後ろから抱き着かれる。この声と上から抱きしめられる感じから、友達の
「しおちゃん、おはよ」
「おや? 真緒ちゃん元気ない?」
振り返ると、光の加減で金色にも見える桜色の髪の毛をした、私よりちょっと長めのボブヘアの女の子が、私の肩に顔を乗せて来ていた。
このスキンシップ過剰で、元気なしおちゃん、攻防に優れた金属使いの退魔士の家系で、当人は植物を操る力と癒しと強化の術も使える、かなりのハイスペック退魔士だ。春休みに入って直ぐに、退魔士デビューしたらしいよ。
「ん~、伯父様の所為で、ちょっと寝て無くて」
「ありゃりゃ、それはご愁傷さまです」
しおちゃんも同じクラスなので、教室に一緒に行こうと歩き出すが、直ぐに袖を掴まれる。袖を掴まれしおちゃんを見ると、綺麗な翠色の瞳で相変わらずだなぁ、と云う感じで私を見て来る。
「どうしたの、しおちゃん?」
「あの真緒ちゃん。毎度の事だけど、そっちは職員室の有る方だからね?」
「Oh shit! むぅ~、今日は寝不足だから仕方ないよね」
「真緒ちゃんの迷子は何時もの事だよ?」
ふぅ、如何やら私のレアスキル、missing childが発動してしまったようだね。
まあ、そんなスキル無いけど。
「お二人さん! 何してんの?」
何時ものやり取りをしていると、耳馴染む声で私達に話しかけて来たのは、緑色がかった黒髪を右側でサイドテールにし、やや緑がかった黄色の瞳をした、快活そうな女の子だ。
「さっちゃん、おはよ~」
「おっはー、さっちゃん!」
「まお、しお、おはよっ!」
この子の名前は
さっちゃんは結界術の大家の家系で、天才と言われているらしいけど。結界は難しくて、私はあまり詳しくないんだよね。
勿論、退魔士デビュー済みで、三が日明けには初陣を飾ったそうだよ。
彼女達の家が退魔士の家系と言う事も有り、他の子に話せない事もお互いに話せたし、小さな頃から長い時間を一緒にいる、とっても仲の良い友達だ。
さっちゃんとしおちゃんは、所謂親友ってやつかな?
二人に、昨日から今朝に掛けての話をする。
「うわっ、伯父さん鬼なのでは? いや、鬼はまおの方だったか! はははっ!」
「確かに私は鬼だけど、どちらかと言えば精霊だし? それに半分だけだよ?」
「真緒ちゃんは、可愛い鬼っ娘さんだよ♡ 角は生えるのかなぁ?」
「う~ん。如何だろ? 霊鬼としても、先祖返りらしいから生えるかも?」
おおよそ一般人に聞かれたら、訝しがられ眉を
楽しく話をしていると自分達のクラスに到着だ。
私達のクラスは1-Aで、1年生はABCDの4クラス。1クラス28人で、1学年112人だ。これは今のご時世では多い方だと思うよ。
今の日本の人口は、ピークの時の半分以下、5380万人だ。これでもまだ日本は、人口があまり減らなかった方なんだよね。
教室に入ると、まだあまり他の人は着て居ない。
その代わり、割と見慣れたツートンカラーの赤毛に、右目が青く左目が赤味がかった黒のオッドアイの男子と、さっちゃん似の緑色がかった黒髪に、眼鏡を掛けた深緑色の目をした男子の、二人が視界に入る。
「よお! まお、しお、さち、おはようさん! 相変わらず仲いいなぁ~」
「真緒さん、栞さん、それに姉さんも、おはよう」
このツートンカラーの赤毛君は、
さっちゃん似の眼鏡君は、先程の発言からも分かる通り、さっちゃんの双子の弟で朝見
勿論、二人共仲の良い幼馴染だ。
「かい、けい、おはよう♪」
「会計、おはよ」
「火威斗君、啓示君、おはよう!」
「おい、まお! お前だけ、明らかにニュアンスが違うだろ!」
「え? さあ、何の事? 私も普通に、『おはよ』って挨拶したつもりだけど……?」
私は首をかしげながら、サッパリ分からないとアピールする。ほら、私今とっても眠いから、しょうがないね。
そんなやり取りをしてると、クラスメイトになる全員が教室に集まる。
パッと見、皆退魔士の素質がかなり高そうに見える。
それもそのはず、此処は中高一貫の有名私立進学校であると同時に、古い退魔士家系の子息令嬢達と、第一世代の退魔士である、超人に成り得る素質のある子を集めた、特殊な学校でもあるからだ。
何で、古い退魔士家系の子供達と、一緒にするのかと言うと。力と呼ばれる物は、それに触れる機会が多い程、目覚め易い。特に中高の、青少年少女と言う年齢は、人生に於いて、非常に力が目覚め易い時期なのだ。
中二病って言葉が有るでしょ? 妄想が膨らんで、色々と痛い事や恥ずかしい事を平気でしてしまう、アレだよ。でもそれは、別の側面から見れば、自身の可能性を信じ己の精神が、そして魂が活性化していると言う事なんだよね。
だから、素質の高い子供達を、既に力を発揮していて、尚且つ古くからの家系の持つ、神秘性で力を目覚めさせようって訳だね。
古い家系の退魔士の家の人は、仮に当人に退魔士としての力がなくとも、その血筋に培われてきた不可思議と神秘の歴史が、霊的な血統因子である、霊血として存在している。この先祖返りを引き起こす力を持つ霊血は、まさに神秘性を示し素養の有る者なら、高い確率でそれの影響を受け目覚めるのだ。
つまり、紫凰院学園とは、中高一貫の私立進学校の振りをした、退魔士育成機関なのだ。あっ勿論、進学校と言うのは本当だよ。
ガラガラっと、教室のドアが開くと。特徴的な、横長の逆三角形の眼鏡をした、綺麗な女の人が、教室に入って来る。多分この人が担任の先生だろう。
20代に見えるけど、伯父様がそうである様に、ある一定以上の力を持つ人は、見た目が若いままの人が多いので、年齢の判別は付かないのだ。
この学校の先生なので、見た目通りの年齢の可能性は低いだろうね。
ちなみに、髪の色と目の色は薄い小豆色って感じで、髪は頭の上に一纏めのお団子にしている。スーツをキリっと着こなし、如何にもできる女って感じの見た目だね。
それに、目から優しさがにじみ出ていて良い人そうである。
眼鏡は、目の優し気な印象を厳しく見せるためかな?
「はい。皆さん揃いましたね。私の名前は後藤 咲です。これから三年間、皆さんの担任を務める事になります。仲良くしましょうね? それでは皆さん、自己紹介をして行きましょうか」
自己紹介かぁ~、如何しようっかなぁ?
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