第3話 初陣

 現在、北領閉鎖線付近に結界を用い、安全地帯を作り出しており、空港もその結界内に存在する。当然、北界深域に接する北領閉鎖線付近は全て異界化しており、かつての北海道の面影は全く残っていない。

 今では写真と映像でのみ、その頃の姿を窺い知れるだけだ。

 と言っても、かつての姿を見れるのが写真や映像だけなのは、日本全国だけじゃなく世界中がそうなのだけど。


 これも、第三次世界大戦の所為と言っても良いのかな?

 まあ、原因はここ北界深域だから間違っては無いか。

 この世界の空間に、大穴が開いたと言う事はもう知ってると思うけど。この大穴は空間的には穴だけど、物理的には栓の役割を果たしていたんだ。

 物理的に消滅してしまった、北海道の大部分を含む周辺地域と周辺海域、更にその下に有った地殻とマントルの穴を塞ぐ栓。

 じゃあ、その栓である空間に開いた大穴が、無くなったら如何なるのか?

 2034年2月24日、惑星規模の超巨大地震が起こった。それが答えだよ。

 地震は、世界維持を主とする派閥の神々が、代わりの構造体を置く事で直ぐに治まったけど、それでも惑星規模の超巨大地震の被害は、第三次世界大戦の復興の最中と言う事もあり、大きな被害が出たんだ。多くの人が無くなり、住む場所も惑星規模の地殻変動の所為で、一部の土地や地域を残して全て破壊されて無くなってしまったし、全てが以前とは大きく様変わりしてしまったんだ。それは日本を含む数多くの国々も同じで、復興の為にどの国も体制を刷新する必要が有ったんだ。

 だから、新日本政府が樹立され、日本の地方行政も刷新された。日本の地域は、北領,東北領,関東領,中部領,三重領,関西領,中国領,四国領,九州領,琉球領の、10ブロックに分けて行われる様になったんだ。

 それに、日本を含む多くの国家が、実質一回滅んで建て直す事が出来たのも、つい最近と云う事なんだよね。

 ちなみに、復興も建て直しも、人類含む人基準の魂の守護を目的とする、神々の派閥の力が大きかったのは、言うまでも無いね。秋素戔宮の守護神であるお三方も、この派閥だね。


 北領の苫小牧退魔師団駐屯地に着いた私達は、早速伯父様の意向で私に怪異討伐と北界深域の様子を見せるため、駐屯地の結界の外に出る。

 結界の外には、三週間前までは存在しなかった廃墟の町が出現していた。廃墟の町は長い年月が経過している様に見え、これが三週間前まで草原だったとはとても思えない。


「この廃墟が三週間前まで、本当に存在しなかったんですか?」

「ははっ、不思議かい。真緒ちゃん? 混沌の影響による異界化なら、この位は割と起こる物だよ」

「そうなんですか? こんな風に変わってしまう何て、道に迷ったりしそうで、なんか大変そうですね」

「ふはっ、そうだね。真緒ちゃんは特にそうだろうね。くくっ、そうならない為に座標機を持って来ただろう」


 伯父様が笑いを堪えながら、複雑な羅針盤の様な装置を見せる。これは北領では必須とされる座標機だ。

 伯父様が笑っているのは、私が良く迷子になるからだ。

 私に自覚は余りないが、私は如何やら方向音痴らしいのだ。

 確かに通っていた小学校へ行く道も、卒業式の日に間違えたけど。何も笑う事は無いと思う。酷くない? 伯父様をジト目で見つつ。


「それでは改めて聞きますけど。伯父様、私の初陣の課題は何です?」

「はははっ、そんな目で見ないでくれよ真緒ちゃん。そうだね、課題はこの廃墟の町で、50体の怪異を見つけて討伐する事にしようか」

「討伐数、増えてるじゃないですか……」

「真緒ちゃんなら、多分それ位大丈夫でしょ? で、終わったら北領閉鎖線から、北界深域を覘いて見ようか」


 伯父様の顔を見ると如何やら討伐数が減る事は無そうである。


「はぁ~、分かりました。直ぐに終わらせたいですし、急ぎます」


 私は、人体に有る三つの力の源泉、幽泉,霊泉,魂泉の三源泉を開く。

 幽泉は生命エネルギーや氣の力を、霊泉は精神エネルギーや霊力や魔力と言った力の、魂泉は全ての力の源される意志の輝きと念力など魂の力、それぞれが湧き出る、人体の大きな力の出入り口の事で、人によって場所が違うのも特徴だ。


 私の場合三源泉は、心臓に幽泉、左目に霊泉、右目に魂泉が有る。右目は、万象眼のスイッチを入れない様に開くのが、少し難しい。霊泉と魂泉の位置は、私の両眼が異能の媒体だからである。幽泉の位置は、丹田に並んで良くある場所の心臓に有り、身体能力の強化に向いている場所だそう。

 氣とか霊力とか、そう言った力については、私の日課である鍛錬の時にでも語ろうと思う。


 三源泉を開く事で、私は仏教で言う所の、阿頼耶識あらやしきまで認識出来る様になる。この状態に為ると些細な変化も感じ取れる。

 当然、怪異が何処に居るかなども丸わかりだ。

 認識したのなら、それは観えているのと同じ事、観浄眼の出力を少し上げるだけで、私に認識された怪異は消滅して往く。


「ちょちょ、ちょっと待って真緒ちゃん!? それは駄目でしょ! 観浄眼を使ったら試験にならないでしょ!?」

「えぇ~? ダメなんですか。私の力なのに……?」


 小首をかしげて伯父様を見る。


「可愛く言っても駄目だからね! 観浄眼が強力な異能である事は、もう分かってるんだから今更知る必要もないでしょ? 伯父さんは、異能無しの真緒ちゃんの実力を見たいんだよ?」

「ふぅ~、やれやれ伯父様。そう言う事は早く言ってくれません?」


 やれやれ、全く伯父様は本当に困った人だよ。そう言う事は早く言ってくれないと。お陰で怪異を無駄に消してしまって、勿体ない事をしたよ。それに、観浄眼を使えないと為ると、とても時間が掛かるじゃないですか。面倒だよねぇ。


「いやいや、伯父さん、そんなに悪くないと思うけど? 初陣って実力を見るために、付き添いが居るんだからね。もう分かってる事を見る為じゃないんだよ?」

「ふぅ、そう言う事にして置きますよ」

「真緒ちゃん!?」


 観所眼を使えないと分かったので、言い終わると私は、氣で強化した脚を駆使して、怪異を感知した場所に向かって、廃墟の町を駆け抜ける。

 慌てて伯父様が、私を追いかけて来るのを感じつつ、私は怪異の姿をその眼に捕らえる。


 そこに居たのは、人型をした黒い影の様な怪異、これは所謂シャドーピープルと云う奴だろう。私がこの影にする事は簡単だ。結界を出る時に伯父様から渡された剣で、このまま思いっきり叩き切るだけだ。


 ズバッ! と一閃叩きると。影が揺らぎ、切った所から崩れる様に消えて逝った。


「ヒュ~♪ お見事! これであと49体だよ、真緒ちゃん」


 私は伯父様をジト目で見た後、次の標的に向かって駆け出すのだった。

 この後無事に怪異50体の討伐を終え、北界深域も閉鎖線越しに覘き見て来た。

 正直北界深域は、如何見ても今の私が行くような場所では無かったため、初陣が北界深域の中で無くて良かったと思うのだった。

 これが、私が討滅士デビューを飾った初陣の日の話だ。

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