焼き鳥脂が飛び散っtail

葛鷲つるぎ

第1話

 ジュウジュウと音を立てながら肉は焼けていた。

 芳ばしい香りが鼻腔をくすぐり、食欲がそそられる。


「いやもうね、締切の二分前だよ? 間に合わないんじゃないかって、焦った~~!」


 将真しょうまは手にしていた焼き鳥を振り回した。

 向かいに座っていた、友人の賢士けんじは仰け反る。


「バカ、振り回してんじゃねぇ」

「あ、ごめん」


 将真は机に飛び散った汚れを拭きとる。

 彼らは将真の家にて焼き鳥パーティーを開いていた。本当は屋外で食べる予定だったのが、雨で変更になったのだ。将真の家は持ち家の一軒家で、こういうときは便利だった。

 換気扇をガンガン回し、若者二人は焼き鳥を焼きたいだけ焼いている。


「ま、自業自得にならなくて良かったな」


 賢士は呆れ顔で、串に鶏肉ばかりを差し込みながら言った。

 将真は反論したかったが、単位スレスレに陥ったのは不徳の致すところであったので、しぶしぶ頷く。レポートの存在を、うっかり忘れていたのだ。


「落第回避の焼き鳥だから、うまい」

「しっかりイノシン酸を味わえよ」

「賢士は野菜も入れろよ」


 将真は野菜マシマシの串を賢士の皿に入れた。賢士は分かりやすく顔をしかめる。


「今日は肉肉パーティーだろ。無粋なもん入れてんじゃねぇ」

「今日は焼き鳥パーティーだろ。栄養バランスーー」

「焼き鳥たらふく食べてる時点で意味ねぇーー」


 お互い、ふざけ合っていたので笑った。

 賢士は、差し出された野菜マシマシを素直に食べた。

 将真は新しく串を用意する。しばらくて、彼はおもむろに口を開いた。


「……なあ賢士、今度タコパしない?」

「気がはえーよ」


 賢士はツッコむ。

 将真はカセットコンロの火がだんだん弱まっているのに気づくと、ボンベを取り替える。


「最近たこ焼き食べてなかったじゃん」

「話聞けよ。タコパも良いけどさ」


 言いながら、賢士はウーロン茶を二人分継ぎ足す。

 将真はウンウンと頷いた。ああ、ありがと。お茶に気づいて礼を言う。


「タコパだから、次も俺ん家?」

「オレん家にしよう。たこ焼きだったら臭い気になんねぇし」

「オッケー。名目、何にする?」


 賢士は口先で串を弄った。


「……新年度祝い?」


 将真は破顔した。


「いいね。春って感じだ」

「んじゃあ、焼き鳥食おうぜ。まだ食材余ってるよな?」

「余ってる」


 賢士は首を伸ばして台所を覗く。

 将真は後ろを振り向いて確認。賢士の実家から送られてきた食材と、自分たちで買い込んできた食材はまだまだ残っていた。

 賢士は膝を叩く。


「よっしゃ、食うぜ!」

「おー!」


 友につられ、将真は腕を振り上げた。

 賢士は仰け反った。


「だから、振り回すんじゃねぇっての!」

「あ、ごめん」


 将真は、床にまで飛び散った汚れを拭いた。



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焼き鳥脂が飛び散っtail 葛鷲つるぎ @aves_kudzu

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