第八話 気になる

──あの2人ずっと一緒に居ますわね…。


わたくしが見た限りでは片時も離れていませんわ


エトワールちゃんとキツネが仲良く遊んでいる姿をゆりかごに入れるコカトリスの綿を袋に詰めながら眺める。


独り寂しく死ぬのを待つ為だけに生きてきた迷宮の中で突如天から舞い降りてきたエンジェル(エトワールちゃん)。

そして私が寝床を用意するまでの時間少し目を離したらいつの間にわたくしのエンジェル(エトワールちゃん)と仲良くなっていた小賢しい「キツネ」さん。

可愛い見た目をしていますが、結局は魔物。 

いつエトワールちゃんに危害を加えるかわかったものではありませんわ。


ですのでわたくしがエトワールちゃんが酷い目に会わないように常に目を光らせて居ますわよ!

覚悟してくださいませ少しでもしっぽを出そうものならすぐにでも捕まえて丸焼きにして差し上げますわ。小賢しい「キツネ」さん!




──レジーナが変なことを考えているなぁ。


これは何かしらの対策を講じた方がいいのか?


 しかし、さっきのことでわかったがレジーナは相当強い。

 しらたまキツネも強いが、レジーナはそれを上回る強さだ。

 俺がレジーナ止めるのは至難の業。おそらくこの場でレジーナとまともに戦えるのはしらたまキツネママさんだけだろう。



 それにしらたまキツネは俺に危害を加えることは万が一も無いだろう。

 例えレジーナが戦闘態勢になってもしらたまママさんが止めに入ってくれるだろう。

 おそらくきっと、少なくとも俺はそう信じている。


よしっ 俺はいつも通り過ごすことを決めた!



「きゅむぅむぅ

(どうしたのむ?かんがえごとむ?)」


しらたまキツネが俺を上目遣いで見つめる。


「にゃんえもにゃい(何でもない)」


「きゅうむきゅむきゃむ!

(良かった!)」



 誰がどう見ても俺としらたまキツネどっちの方が天使に近いかなんて明白だ。

 もちろん、しらたまキツネの圧勝だ。

 大体俺は唯一無似の存在だからな、天使などと言うものに形容できるわけがないだろう。




「にゃまえしりたい、どぉんにゃにゃまえ?

(しらたまキツネの名前知りたいんだ)」


「きゅー?(名前?)」


しらたまは軽く首を傾げる。


「あい、おりぇしりゃたまママいぎゃいわかりゃない、にゃまえしりたい。

 (ああ、俺はしらたまキツネママさん以外のキツネの見分けが付かないから、名前で分かるようにしたいんだ。)」


「きゅ!?きゅむむぅむ!?

(見分けついてなかったの!?

こんなにみんな顔違うのに!?)」


「ちゅまない。」


しらたまキツネのあまりのの剣幕に思わず謝罪の言葉が出る。




──よく話が聞こえませんでしたが、キツネさんがエトワールちゃんに謝らせていますわ!?


(しかしこれがエトワールちゃんが悪いことをして叱っているのであればエトワールちゃんの成長を促していることになりますわね。

わたくしはどうすれば良いのでしょう!?

とりあえず話の内容が聞こえるところまで近づいて監視続行ですわ。)



自己完結してくれたようなので、レジーナの事はしばらく放っておこう。




「きゅむーむぅ。

(まぁわからないなら仕方がないのきゅむ)」


思い返してみれば、俺は昔から人の顔を識別するのが苦手で、知り合いと間違えて全然知らない人に話しかけることがよくあった気がする。


「きゅむぅ、きゅむうよ。

(名前は、ないむからつけていいきゅむよ。)」


 名前がなかったのか。

 確かにしらたまキツネ達が名前で呼び合っている姿を見たことが無かった気がする。


 しかし、名前を付けていいと言われたものの、心の中で勝手に呼んでいるあだ名以外で俺は人やものに対して名前を付けるという経験があまり、というか全く無いんだよな。

 


あだ名と言っても俺が人の顔を覚えられないからその人の身体的特徴で適当につけただけだし…。

 いっそそれでも良いのだろうか?


 しらたまキツネの特徴は白くてモフモフな毛にサファイアのような瑠璃色のつぶらな瞳。

 それは同時に全てのしらたまキツネが持っている特徴でもあるんだよな。

 じゃあ、この子だけ水蜘蛛やゾンビ食べちゃうぐらいご飯大好きだから「おにぎり」とか?

 でも、これじゃしらたまキツネが不憫すぎる。

 それに一番綺麗に瞳の色が発色しているのはこのしらたまキツネの様な気がするんだ。

 なんとなくだから根拠はないけど…。


「…りゅり。(瑠璃)」


「きゅ、きゅむ!

(ルリ、ルリ!いい名前きゅむね!)」


赤ん坊ならではの滑舌の悪さで伝わらないかもと危惧したが伝わったことと名前も気に入ってくれたようで安心した。


──近づいて話し声は聞こえるものの、何を言っているのか全く理解できませんわ。


 (とりあえずエトワールちゃんキツネさんと言葉が通じていて凄いですわ!

 子供は聖霊や妖精と言葉が通じると言いますし、おそらく魔物とも言葉が通じるのでしょうね!

 エトワールちゃんは天才ですわ!)


 (ん?なんかキツネさんが喜んでいますわね。

 感動の場面かしら。

 なんとなく雰囲気に合わせて涙を流しておきましょうか。)


「うーうーひっくひっく。」


レジーナが心の声だけではなく、声も出し始めたんだけど…。


 (声を出して泣いたのに涙が一滴も出ませんわ。

もっと大きく声を出したほうが泣けるのでしょうか。)


「ひっくひっく、うわぁーんですわ。」


 なんで鳴き声の語尾に「ですわ」って付けてるんだろう。

 これじゃ誰が見ても泣き真似だと一目瞭然だ。


「きゅむ(なにアレ)」


ルリがレジーナを指差しながら言う。


 レジーナの行動が理解不能すぎてルリがレジーナを「アレ」と呼ぶようになってしまった。


「りゅり、あれじゃにゃい。れじーな

ルリ、アレじゃないぞ。レジーナだよ。」


「きゅむ?(レジーナってやばい人?)」


…確かに。

 ゆりかごに隠れながら近づいて来たり、丸まりながら泣きまねをしている人間はやばい人かもしれない。

 というか絶対そうだと思う。


「しょうきゃも(そうかも。)」


「…………。」


「……。」


ルリはなにも言わない、俺も話さない。

二人でレジーナの方をじっと見つめる。


「あっ

………ふっ、ふふふ〜ん♪ゆきふふん♪」


レジーナが俺達の前を変な歌を歌いながら通り過ぎる。




──やらかしましたわあぁぁぁぁあ!?

 

 (お話に夢中になっていたのでバレないかもしれないですわ〜

 みたいな軽い気持ちでいつの間にかこんな近くまで来ていただなんて!

 びっくりですわ!?驚きですわよ!?

 語彙力が著しく低下の一歩を辿っていますわ〜

 お二人に変に思われていないでしょうか。

ちょっとだけ見てみましょう。)


「……。」

「……。」


(あんなに楽しく話されていたお二人が一言も話していませんわ!

 すごいお二人とも顔を見合わせてダンマリです!

 どうしましょう!?

 でも、エトワールちゃんとキツネさんが話さない方がわたくし的にはよろしいのではないでしょうか?

 でもでも、エトワールちゃんが笑っている姿をもっと見ていたいですわ〜!!)



「きゅむ(やばい人だね)」


 完璧にルリにやばい人認定をされてしまった。

 まぁ俺もそう思うけど。

 とりあえずフォローはしておこう。


「りぇもやしゃしいよ(でも優しい人だよ。)」


「…むぅむ?

(コカトリス捕まえるような人が本当に優しいの?)」


 レジーナの人間性を疑われてる、、。



──話していますわ〜!!


まだ見てたの?レジーナ。


( さっきまでの仲睦まじい感じではありませんが良かったですわ。

 それにあまりにも仲良しすぎると嫉妬してしまいますからね!)



 それどころじゃないよ、レジーナ。

 ルリの認識がやばいやつになってるんだから。


( もしかして、あのキツネさん。

 わたくしのことを会話に出してくれたのでしょうか!?

 キツネさんいい子ですわ!

 レジーナ・スピリッツ大感激です!)


 会話には確かに出てはいるけど喜べる内容じゃないよ。

 それにレジーナがいい子って認識したルリにとってレジーナはイメージダウンの一途を辿っているよ。


(とりあえず良かったですわ!!

 キツネさんの誤解も解けたわけですし見張る必要も無くなりましたわ。

 大人しくゆりかご製作をするとしましょう。)


「………。」


こうして、レジーナによるキツネさんがエトワールちゃんに危害を加えないか見張る会はエトワールとルリに「あれっ?レジーナって本当はやばい人?」という認識を植え付けて終わりを迎えた。

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