第九話 美しい世界
あの後、レジーナと俺が二人きりで過ごすことを心配したルリによって、しらたまキツネ達の住処へ連れていかれた。
レジーナは「折角ゆりかごが完成しましたのに」と言っていたがルリは構わず俺を連れて行くので、レジーナが仕方なくついてくるという結果となった。
ルリは結構なスピードで俺を担いで行ったので本当はレジーナについて来た欲しく無かったんだと思う。
そして前に魔法のことを調べた本の部屋でレジーナとルリに抱きしめられながら眠りについた。
◇◇◇
「逃げないでくださいませ〜」
翌日目を覚ますと、ルリがぽふぽふと音を立てながらレジーナから逃げ回っていた。
状況が理解出来ず、しばらく2人の動向を凝視する。
とりあえず理解出来たのが
レジーナが動く
→ルリが俺からくっついて離れなくなる
→しらたまキツネママさんがそれを見てレジーナをやんわり止める。
ということがずっと繰り返されているということ。
普通の人だったら絶対に途中で心が折れるのにレジーナは粘り強く、果敢にもルリに挑んでゆく。
───レジーナもそこまで逃げられたら、そろそろ諦めようよ。
てか、乙女走りでよくそのスピードを保てるな。
レジーナが近づく度に、ルリが「むぅむぅ」と可愛い声を出しながら俺を掴む力をより一層強める。
まるでホラー映画を怖がって袖を掴む可愛い彼女のようだ、だが掴む力の強さが全然可愛くない。
何ならガチガチに固め技使われて、拘束されている。
最初は怖がっているのかと思い、ルリに拘束されていない方の手で適当に撫でていたが、途中でしっぽが逆だっていることに気がつき威嚇だと知る。
全くもって威嚇の声に聞こえない。
(素晴らしく可愛らしいですわ〜!!
この方魔物と言うより妖精のようですわね!)
(本当に無理!怖いし、やだ!)
ルリが威嚇する度に、レジーナのルリへの好感度上がっている気がする。
いや、気のせいじゃない実際そうだ。
それにしても、ルリ完璧に語尾に「む」付けるの忘れているぞ。
みんなの愛されマスコットキャラクター的ポジションだろ、ちゃんとキャラを保て。
こういう細かいところ俺は厳しいぞ、ルリがマスコットキャラ枠から外れないように俺はいつでも目を光らせてるからな。
そうこう考えていると、しらたまママから視線を感じる。
なんだ?
ルリは一言もマスコットキャラになりたいだなんて言ってないって言いたいのか?
こんな威嚇していても好かれるくらい可愛い容姿をしているんだ。
こんなの本人が認めていようが、いなかろうが、公式マスコットキャラに決定だろ。
何を決まりきったことを言っているんだしらたまキツネママさんは。
それにしても、どうにかして2人を仲良くさせたい。
どちらかに会うと、どちらかが悲しむのは必然的に神経をすり減らさないといけなくて疲れるから俺が嫌だ。
しらたまキツネとレジーナを縁側で茶を飲むかのように穏やかな空気感で「あら、あの子たちまたやってるわね。もう仕方がない子達なこと」みたいな雰囲気を醸し出ししている、しらたまママさんに目線で助けを求める。
「仕方がないこと」と言いたげなしらたまママさんがルリから拘束されている俺を救出してくれた。
前に床が見えないくらい居た、しらたまキツネの達を見かけないが何処に行ったのだろうか?
俺が疑問に思っていると、しらたまママが床に敷いてあるカーペットを捲り上げる。
そこには前来た時に見た魔法陣があった。
しらたまキツネ達に覆われてよく床が見えなかったが、いつも来た時このカーペットが上がっていた状態だったらしい。
それをぼけっと眺めているとしらたまママさんが頭の上に俺を乗っける。
しらたまママさんの体が大きすぎて、雑草の中に居るように感じる。
俺の視界にはしらたまママさんの白い毛以外見えない。
今の状態のまま俺を探したとしても、俺のことを見つけることが出来る人間は誰もいないだろう。
さて、俺は何処に居るかわかるかな?
分かるわけないよね。
実はここに居ましたぁ〜!!
見えるかなここだよ!
そう、白くて大きな狐の頭の上にいました。
みんなわかったかな?
───俺1人でやってるんだろう。
これではまるで子供用の隠れんぼ絶対見つからないところでイキる、大人気ない人間みたいじゃないか。
今の姿を客観視して、自身の心の中で繰り広げた芝居のあまりの酷さに顔がどんどん熱くなっていく。
しばらく経つとしらたまママさんが俺を頭の上から下ろす。
──……きれいだ
しらたまママさんが下ろした先には草原が広がり、綺麗な花々が咲き誇っている。
その壮大で美しい情景が
まるで、子供の頃夢見ていた世界のようだ。
優しく流れる風が俺の頬を通り、花々は俺の言い表せない溢れてくる感情に答えるかのようにそよそよと揺れる。
──こんな顔をしていたんだ。
後ろを振り返った時、しらたまママさんの顔が初めてはっきり見えた。
世界が彩られていくかのように目を開けるたびに、どんどん鮮やかになっていく。
この世界はこんなに美しかったのか…
いや俺が見ていなかっただけで、前の世界も俺が顔を上げてちゃんと世界を見ていたら、きっと美しいことに気がつけたんだ。
次はレジーナやルリの顔もちゃんと見れるだろうか、あとしらたまキツネ達の仲間の顔も見分けられるようになれるだろうか。
◇レジーナ、しらたまキツネ視点
(どうしましょう、エトワールちゃんとキツネちゃんのお母様の気配がなくなってしまいましたわ。)
きつねちゃんが不安そうな顔を
その姿が置いていってしまった人の姿に重なり、胸を強く強く締め付ける。
(そうですわよね、お母様が居なくなってしまったら寂しいですわよね、心細いですわよね。
腕っぷしの見せどころですわ!)
(睨んでもやばいやつどかないのむ、
早くあっち行けだむぅ)
ルリは可愛い雰囲気を醸し出してはいるが結構毒舌だったのである。
2人は綺麗なすれ違いを果たした。
※レジーナにルリ可愛いフィルターが付いているのもありますが、しらたまキツネが可愛い過ぎるのが原因です。
「きゅむ、きゅむよ。
(仕方ないきゅむ、案内するむよ)」
(きつねちゃんが
とても愛らしいですわね。
(握り返してきたむ。触らないで欲しいむ。この手を握ってるのは案内する為に必要なだけで本当はこいつの手なんて触りたくないむよ。)
[ブンブン]
レジーナに捕まれた手を離したくて手を振るが一向にレジーナがルリの手を離さない。
(手を離して欲しいのに、全然離さないむよ!離せきゅ!)
(なんて可愛らしいのでしょう!?
手を繋ぎながらぶんぶん振らなんて愛らしいですわ!)
きっとルリの気持ちはレジーナに伝わることは永久にないであろう。
(こいつますます握る力強くなったむ。
ルリが何かするたびにこいつ喜んでる気がしてならないむよ。)
正解。
(あら、魔法陣がこんなところにありますわね。
もしかしてこれでエトワールちゃん達は消えたのでしょうか。
転移の魔法なんて…ましてや魔法陣なんて聞いたことはありませんわ。
でもここはアナトリア大魔境内ですから、ありえないことではないのかもしれませんわね。
もとより魔法というものは迷宮や、魔境と呼ばれる所から魔物と共に訪れたという伝承があるくらいですし。
ここが何層目かは存じ上げませんが、少なくとも帝国で調査された最高記録の4層目よりも下層なのは明白。
それに、伝説上の食べ物や魔物が存在するのにも関わらず、強欲な人々と出会わない時点でここが発見されているわけがないのです。
強欲な人々は金の前には人の命なんてゴミのように簡単に捨てられてしまいますから。)
頭がズキズキと痛む。
(少し嫌なことを思い出してしまいましたわね。
とにかく、この魔法陣がどこに通じるかわかったものではありませんわ。
下手したらこの層よりもさらに下層の可能性があります。
そこまでいったら伝説上の魔物どころではありません。
見たことも聞いたこともない化け物がうじゃうじゃ居てもおかしくないのです。
そう、この魔法陣のように伝説上ですら書かれていないような存在が。)
キツネちゃんの方を向き話しかける。
「
もちろんあなたのお母様も無事に返すとレジーナ・スピリッツの名にかけてお約束いたします。」
レジーナがルリと同じ目線の高さになるよう膝を床につけ、胸に手を当てながら礼をする。
(あんがい、こいつ悪いやつじゃないのかむ?)
ルリはレジーナと同じように礼をする。
「きゅうむ、きゅむよ
(ここに残って居ればいいむね。わかったむよ)」
「感謝申し上げますわ。
一応【結界】を張っておきますが、【結界】を破れるような恐ろしい魔物と出逢った場合は戦おうとはせず自分の身を守ることに徹してください。
命より大切なものなどありはしません。」
レジーナが消えた魔法陣の上をルリぼんやりと眺める。
(これってルリ、着いていかなくてもよかったのかむ?
でも待っててって言われたむよ。
あの魔法陣思い浮かべた場所や、思い浮かべた人の場所に行けるむけど…。
もし過去の人を思い浮かべたら過去に飛んじゃうむから少しだけ心配むよ。)
ルリはレジーナに伝え忘れたことを今頃になって後悔するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます