第五話 ポム実
疲れすぎて何も発せない、動けない。二日酔いの時みたいな気持ち悪さだ。
前も似たようなことあったな…その時は魔法陣を使ったんだったか。
もしかしてあの魔法陣に何か原因があるのか?ステータスを見れば何かわかるかもしれないな。
ステータスと口を動かす。
「………。」
はくはく。
…ん?口を動かしているのに声が出ないのだが…。声になって発声できいない。手を自分の喉に当てる。
その時、気がついた。
俺の手は…俺の身体はこんなにも小さくなっていたのか…。
赤ん坊になったということを理解したつもりで理解ができていない。
今までずっと大人の感覚のまま生きていた。
ああ。
「大丈夫ですか!?」
ん……レジーナ…。レジーナが俺の胸の上に手をかざす。
(魔力が枯渇していますわね…
こんなに減ることなんて普通ありえないですのに…。
ご飯を食べてないからでしょうか?でも空腹で魔力が減るなんて聞いたことがありませんわ。
この魔力の減りの早さがエトワールちゃんがこんな場所にいる理由なのかもしれませんわね。
だとしてもこんな可愛いエトワールちゃんをこんな所に置いていくだなんて許せませんわ。)
「…
静かにそうレジーナが小さく呟いて、そっと俺を抱きしめる。
…きっと独り言なんだろう。だけど俺は妙にしっかりと聞こえた気がした。
しばらくして俺を抱きしめていた手が離れ、俺の頭をがっしりと鷲掴んだ。もう片方の手には食べ物らしき物が握られている。
そして凄い勢いで俺の口に
「えいっ ですわ!」
「フゴッ、けほっけほっ」
目の前の視界が滲む。今さっきまで俺を守るとかなんとか言っていなかったか?レジーナは何をしたいんだ!?
まったく、前歯折れてしまったじゃないか。まだ前歯生えてないけど…
でももし俺に歯が生えていたら絶対2.3本は折れていた!
「わぁ〜!申し訳ありませんわ。早く治って欲しくって…少々手荒になってしまいました。」
レジーナが申し訳なさそうに
……これはレジーナがとっての少々の範囲内なのか?
この先なにか起こってもレジーナには逆らわないようにしておこう。
それにこんなに細い腕のどこにこんな力を隠し持っていたんだ?
もしかして
そうだったら良いよな。ロボットは全ての男の夢、ロマンだ。ロボットはカッコいい。
そういえば
それにしても、食事を摂らせようとしてくれることはありがたいが…もう少し他のやり方はないのか?
…あれ?さっきよりだいぶ考えがまとまるようになった気がする。
元気になった…かもな。いや、かもじゃない。ちゃんと元気になってる。さっきまであったあの倦怠感がなくなった。
レジーナが食べさせようとした物のおかげだろうか?
しかしまだ一滴ぐらいしか口にしていないぞ?
「どうですか?元気になってきましたか?」
「あい。」
「それは良かったですわ〜」
この口ぶり、やはりさっきの食べたから治ったのだろうか?
だとしたら食べ物を食べれれば何でもよかったか、それかあの食べ物の効果で元気になったのかの2択だな。あるいはその二つどちらとも…
だいぶ元気になった今ならステータスと唱えられそうだ。
ステータスを見て何か変わったことがあるか確認するか。
だがレジーナの前で唱えたら不審がられるだろうな…心の中で唱えても大丈夫だったりしないだろうか?
だが考えるよりも試してみろとも言うしな、とりあえず試してみるか。
【ステータス】
◇
エトワール・スピリッツ(0) Lv1 AB型
種族 人族
身分 高貴な生まれ
HP 10/10
MP 30/52
スキル
【探知】【気配察知】【言語理解】
固有スキル
【テレパシー】【ステータス】
継承スキル
【妖艶】
称号
《転生者》《人の心読む変態(笑)》《死ぬほどナルシスト》《しらたまキツネ変種》
◇
MPが確かに減っている。52→30か…待て、本当にMPの上限52だったか?もう少し少なかったような…
はぁ…こんなことになるのならば、もっとステータスをしっかり見ておくべきだった。いや、後悔しても何にもならないよな。
次に活かせるよう覚えておこう。
――エトワールちゃん?――
ぼんやりとした頭の中に女性の声が聞こえた。
(どうしましょう!?お声をかけても返事がないですわ!魔境内で取ってきた食べ物がいけなかったのでしょうか!?でもあの食べ物は書物に書いてあった魔力を戻すポム実によく似ていましたわ。それに鑑定だって…)
「きぁい!」
しまった。またぼうっとしてしまった。
「はぁ〜よかったですわ。すごく心配したのですよ?」
「きょめんなたい(ごめんなさい)」
「謝れて偉いですわね。それにしてもエトワールちゃんは頭がいいですわね〜」
レジーナが俺の髪の毛がまだ生えていない頭を撫でる。
ちなみに髪の毛はまだ生えていないだけだ。別に禿げているわけではない。なんなら前世でも髪に気を遣って染めたり髪を傷めるようなことはしなかったからフサフサだったし。
「エトワールちゃんは何かのスキル持ちなのでしょうね。
…スキル持ちってステータスに書いてあったやつのことか。
俺が普通の赤ちゃんではありえないように話すからそう考えたんだろうな。
…本当にレジーナは優しいな。普通だったらこんな気味が悪い赤ん坊が居たら近づきやしないはずなのに…
「ありゃと。(ありがとう)」
「……どうかしましたか?あっ そうですわ!」
レジーナが何かを思い出したように体の前に手を合わせる。
「
「…きゃい。(うん)」
「…大丈夫ですか?」
どうして大丈夫だなんて聞くんだ?
「どうして泣いているんですの?辛いことでもありましたか?それともこの実もう食べたくありませんか?それなら
……俺は泣いていたのか?
目を見開く。ああ、確かに目の前の景色が歪んでる。
俺…なんで泣いているんだ?どうしよう泣いてるって自覚したら余計にボロボロ涙が出てきて止まらない。
「大丈夫ですわ、大丈夫ですのよ。」
レジーナが俺の涙を優しく拭う。
「…泣き止みましたね。エトワールちゃんはいつものように笑っている方が可愛いですわよ。
いつも俺笑ってたんだ。気がつかなかった。
ちゃんとうまく笑えてたかな…
「ふふっ今みたいに、ですわね。」
そっか。俺はちゃんと笑えてるのか、嬉しいな。
「――っ。ふぅ、今までで1番の笑顔ですわね。赤ちゃんの笑顔とはこんなにも凄い破壊力ですのね。心臓が持ちませんわ。」
……?どういうことだ?
俺は首を傾げる。
「なんでもありませんわ。ただ、赤ちゃんとはこんなにも可愛らしい物だったということを再確認しているだけですので。
そんなことはどうでもいいんですのよ!さあ、一緒にポム実を食べましょう?エトワールちゃん。」
「あい!」
レジーナが慣れた様子でポム実を手で握り潰す。
「これでだいぶ小さくなりましたわね!このくらいの小ささならエトワールちゃんでも食べられるかしら?それとも果汁だけの方がいいんのでしょうか?」
……レジーナはいつも怪力でなんとかしているの?
◇◇◇
結局俺はポム実の果汁じゃなくて、粉々に粉砕した辛うじて形が残っている?ポム実を食べた。見た目は見るも無惨だがとても美味しい。味はりんごに似てる。てか、りんご。
それにしても名前がポム実とは…やっぱりあの神ネーミングセンスないな。ポム実って絶妙にダサい女性の名前か、ポムポムプ○ンとかぐらいだろ!もっと他になんか…あるだろ? いい名前が。
「美味しいですか?」
「ふちゅにうまい(普通にうまい)」
「よかったですわ〜」
明日しらたまキツネたちにもポム実持ってってあげようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます