第四話 ステータス

「おあよおー(おはよう)」


せっかく俺が挨拶をしたのに誰もいないじゃないか。俺の挨拶は3億の価値があるというのに、聞けないだなんて可哀想だ。

目の前が雪の結晶の紋様で覆われている。これはレジーナの【結界】だな。と言うことはレジーナはまたどこかに行っているということか…


暇だ。することがない。

ぽてぽてぽて。このふわふわな足音は…


「きゅむ!(やあ!)」

「やあっぱりいおあえか!(やっぱりお前か!)」


ゲームだったなら『小狐が現れた!仲間になりたそうに見ている!仲間になりますか?』みたいなオプションが見えそうだ。

 ゲームといえば後輩を思い出すな…あいつよく女性ものの乙女ゲーム男のくせにやっていたな。


『それでここが良くてですね〜…先輩?僕の話、聞いてます?』

『大丈夫だ。ちゃんと聞いてる。』

『一ミリも僕を見ていないじゃないですか!』

『人間は相手を見なくても話を聞けるぞ?』

『それはそうなんですけど〜そうじゃなくて〜』

『面倒だ。内容だけ簡潔に言え。』

『ちぇっ。最近リリースされた乙女ゲームなんですけど〜』

『そうか…俺はちなみに女性が好きだ。』

『…それは僕もですからね!?

乙女ゲームやってますけど、別に僕は攻略対象とイチャコラしたくてやってるわけじゃないですから!

何が悲しくて男の恋路なんて見なきゃいけないんですか!』

『乙女ゲームはそう言う趣旨のものだろ?…大丈夫だ。

俺は心が広いからな。

広い心で速やかにキャッチアンドリリースしてやる』

『リリースしちゃダメでしょ!それに僕は攻略対象を攻略する時のライバル令嬢達が見たくてやってるんです〜。僕もちゃんと女の子好きですから!』

『大丈夫だ。全てわかってる。安心しろ、せいぜい同じ部署の人間にしか言わないからな。』

『全然分かってねー!うっわ、うっわいじめだ。パワハラだ〜!』


バシッ

『ちょっ痛っ。先輩!何軽々しくパワハラしちゃってくれてるんですか!』

『俺が叩いたんじゃない。勝手に手が動いたんだ。俺と俺の手は別個体だ。』

『なに、意味のわからない屁理屈言ってるんですか!年上のくせに!』

『たかが5歳の差で後輩ヅラされてもな…』

『いや!5歳はだいぶ離れてますから!何俺若いみたいな顔してるんですか!』




「きゅーむ!きゅーむ!(ねぇ!ねぇってば!)」


物思いに耽ってしまった。すまなかったな狐。そっと狐の頭を撫でる。


「にゃんだ?(なんだ?)」

また眩い光に包まれた。


◇◇◇

「きゅむー!【仲間召喚】」


ここは…狐達の住処。【仲間召喚】で狐達に呼ばれたのか。


「きゅむ!きゅむ!」


さっきの大きな狐にふんわりと包まれる。やっぱり俺、同族種だと思われているな。まぁ、実害は一切ないしいいが。

本当にこの家は本ばかりだな。それに大きくて分厚い本ばかりで埃を被っている。ここには本を管理する人がいないのか。せっかくの本が可哀想だ。誰にも読まれることも、管理されることがないだなんて…本を読もうと手を伸ばす。おっ重い。赤ん坊なのもあるが、多分この本だいぶでかい。うっ、本に潰されて動けない…。

大きな狐が本をどかしてくれた。


「たしゅかった(助かった)」


うーん。はぁ、なんとか本を開けられたな。本には魔法陣のようなものと絵が書いてあった。字も書いてあるが…全く読めない。これは何語だ?

はぁ、唯一のすることがなくなってしまった。


『先輩はもし転生したら初めに何しますか?』

『転生なんてものが存在するわけないだろ。お前そんなのをその年で信じているのか?』

『夢見るのは何歳でもいいんですよ〜。ま、僕だったら初めに【ステータス】って言ってよくある転生追加オプションを見ますね♪』

『【ステータス】(笑)ねぇ。』

『笑いやがった!』

『先輩に向かってその言い草はないだろ。』


することが無さすぎて寝てしまった。

…それにしてもあいつの話が本当だったとはな。案外、夢物語だと言われているものはこの世界に存在しているのかもな。試しに、あいつの言っていた【ステータス】とやらを言っといてやるか…


『すてーたしゅ。【ステータス】』


エトワール・スピリッツ(0) Lv1 AB型

種族 人族

身分 高貴な生まれ

HP 10/10

MP 42/42


スキル

【探知】【気配察知】


固有スキル

【テレパシー】【ステータス】


継承スキル

【妖艶】


称号

《転生者》《人の心読む変態(笑)》《死ぬほどナルシスト》《しらたまキツネ変種》


おい、絶対俺のことバカにしているだろ。なんだこの《人の心読む変態(笑)》とか、《死ぬほどナルシスト》《しらたまキツネ変種》って。《しらたまキツネ変種》に関してはあっちが勝手に思い込んでるだけだ。というかあいつらの名前しらたまキツネってだったのか…。見た目のまんまだな。もう少しマシな名付けはなかったのか?おそらくあのゴミが考えた名前だからな。センスがなくても仕方がないか。


【テレパシー】と《人の心読む変態(笑)》はゴミに心を読めることをゴミにぐちぐち言ったからついたんだろうな。神のくせに心が狭い。


【探知】は追われた時に、【気配察知】は、しらたまキツネが現れた時にでも手に入れたんだろう。


継承スキル…継承スキルと関係があるかはわからないが、確か後輩の言っていた乙女ゲームにも継承とかいう概念があり、血筋で大体の魔法の属性が変わったりもするんだったな。

【妖艶】なんていつ役に立つかはわからないが…貰えるなら貰えるだけ貰っておいた方がきっといいだろう。いつか役に立つかもしれないしな。


転生させられるんだったら死ぬ前に後輩の話を真面目に聞いておけばよかったのかもな…。そう考えてすぐにドヤッとした後輩の姿が目に浮かんだ。いや、あいつの話はやっぱり真面目に聞かなくてよかった。どうせ役に立たないことの方が多いだろうし。うん、きっとそうだ。


そういえば【探知】【気配察知】のスキルはいつのまにか手に入っていたな。【探知】は男の位置を知りたいと強く願ってから、【気配察知】はしらたまキツネから。ということはスキルは割とすぐに手に入るものなのか?

だったらこの意味のわからない言語が書いてある本を読むことができるスキルも、もしかすれば手に入れることが出来るということか…


本と睨み合う。1分、30分、1時間と時が経った。全然わからないままだ。流石にそこまで簡単ではなかったか…本好きな俺でも読むことのできない本をこのまま眺める続けるのは堪えるな。そろそろ本から目を離そう。


…さっきまで意味のわからなかった言語がスルスルと頭に入っていく。


『すっすてーたしゅ!【ステータス】』


エトワール・スピリッツ(0) Lv1 AB型

種族 人族

身分 高貴な生まれ

HP 10/10

MP 42/42


スキル

【探知】【気配察知】New【言語理解】


固有スキル

【テレパシー】【ステータス】


継承スキル

【妖艶】


称号

《転生者》《人の心読む変態(笑)》《死ぬほどナルシスト》《しらたまキツネ変種》


やったぞ、【言語理解】が新しく増えてる!

本に目を落とす。



本の内容をまとめると魔法のことだった。

この世界には魔法があり、種類が《火魔法》《水魔法》《風魔法》《土魔法》《光魔法》の5個。

その5個から派生した魔法もあり。《光魔法》から派生した《聖属性魔法》と《雷属性魔法》。《水魔法》から派生した《雪属性魔法》などの魔法がある。

そして魔法の属性は髪の色で大体わかり、金髪なら《光魔法》赤髪なら《火魔法》水色なら《水魔法》となる。

魔法は血筋でも決まるので、生まれた子の髪の色が一族と違うと母親の不貞を疑われる。


ふーん。俺の髪の色は何色なのだろうか、気になるな。この世界には鏡とかないのか?まぁそれは後でいいか…。


結構時間が経ってしまった。そろそろレジーナのもとへ帰るか。

さっきの本は初級と書いてあったから。明日あたりに中級を読みに来よう。


えーと。確かここら辺に…ああ、あった。昨日の魔法陣の上に乗る。


「きゅー?(帰っちゃうの?)」

「あい、あちたくりゅ(ああ、でもまた明日来るよ)」

「きゅーむ(わかった)」


魔法陣の上でしらたまキツネに連れてこられる前の場所の情景を思い浮かべる。

いつものように眩い光に包まれた。


◇◇◇

どうしよう。すごい疲れた。なぜだ?

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